「ウイルス性肝炎」とは、肝炎ウイルスの感染により肝臓に炎症が生じて、肝機能障害が引き起こされる肝臓病です。肝炎ウイルスにはA型~E型がありますが、中でも日本人では「B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス」の感染が多いです。感染経路により、ウイルス感染が持続して、将来的に「慢性肝炎」の原因となるため、注意が必要です。
慢性肝炎では、すぐ肝炎が発症せず、感染から数十年経ってから、少しずつ肝機能障害を引き起こします。自覚症状が現れない場合がほとんどなので、適切な時期に治療を受けるのが難しく、本人の気づかぬうちに肝炎が肝硬変や肝がんなど、より重い病気へ移行してしまうケースが多いことが問題となっています。しかし、B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスに感染しても早めに適切な治療を受ければ、肝炎の完治や肝硬変・肝がんへの進行を防ぐことが期待できます。
当院では、B型肝炎およびC型肝炎の検査・治療を行っております。
肝炎ウイルス検査で陽性反応が出た方はもちろん、健康診断・人間ドックで肝機能異常を指摘された方、輸血・手術をしたことがある方、これまで肝炎ウイルス検査をしたことがない40歳以上の方は、お気軽にご相談ください。
肝炎とは?
肝臓は、「代謝」「解毒・排泄」「胆汁の分泌」という生命活動に欠かせない重要な働きを担っています。肝炎とは、何らかの原因で肝臓に炎症が起こっている状態のことです。肝炎を放置すれば、次第に肝細胞が破壊されていき、「肝硬変」「肝がん」と進行する可能性があるため、早期発見・早期治療が望まれます。
肝炎の原因
肝炎を引き起こす原因には、次のようなものがあります。
- ウイルス感染
約80%を占め、肝炎を引き起こす最大の原因です。
- 過剰なアルコール摂取
実は原因内訳の5%程度です。早めの断酒により、肝炎が治ることもあります。
◆肝炎(肝障害)について、「肝障害ページ」にて詳しく説明しています。
肝炎の分類
肝炎は、症状が現れるタイミングや潜伏期間などから、「急性」「慢性」に分けられます。
- 急性肝炎
急激に肝細胞が破壊されて起こる肝炎。一過性で自然治癒するケースが多いです。
【主な原因】A型・B型・E型肝炎ウイルス
【潜伏期間】数週間~数か月
【症状】全身倦怠感・食欲不振・発熱・黄疸(おうだん:白目・皮膚が黄色くなる)・褐色尿など
- 慢性肝炎
肝臓の炎症が6か月以上続いている肝炎。ウイルスが体内に存在し続ける状態が数年~数十年と続き(=無症候性キャリア)、少しずつ肝障害が起こります。自覚症状がないことがほとんどで気づきにくく、治療しなければ肝硬変・肝がんに進行する可能性があるため、早期発見・早期治療開始が望まれます。
【主な原因】C型肝炎ウイルス(約70~80%)・B型肝炎ウイルス(約15~20%)
【潜伏期間】数年~数十年
【症状】自覚症状がない場合が多い、全身倦怠感・食欲不振・発熱など
ウイルス性肝炎とは?
肝炎を引き起こす要因の中でも、大部分を占めるのが「ウイルス性肝炎」です。
原因となるウイルスとして、現在5種類が確認されています。
肝炎ウイルスの種類
- A型肝炎ウイルス
上下水道設備の不十分な地域など衛生環境の劣悪な地域で多く発生するウイルスで、急性肝炎の原因となります。主に糞便から排泄されたウイルスが人の手を介して、水・食べ物を経て口に入り感染しますが、通常、自然治癒して慢性化することはほぼありません。日本では衛生環境が良い上、ワクチンもあることで、患者数は減少しています。東南アジア・中国・インドなど海外渡航先での感染が大半を占めます。
- B型肝炎ウイルス(HBV)
現在の日本の感染者数は、約110万~140万人と推測されていますが、この数字は主な感染経路である「母子感染」に対し、ワクチン接種などの感染防止策が取られる以前の感染によるものとされています。近年では新たな母子感染者はほぼ起きておらず、若者の感染者数は減少傾向です。出産時・乳児期までに感染すると、感染が持続する「キャリア」となり、このうち約10%が慢性肝炎へ進行し、肝硬変・肝がんと進行することもあります。一方、成人で感染した場合は「一過性感染」として、大部分は治癒します。しかし、一過性感染でも急に生死の関わる劇症肝炎を発症したり、慢性肝炎発症後に肝硬変を経ずに肝がんとなったりするなど、病気の経過は多様なので注意が必要です。
- C型肝炎ウイルス(HCV)
現状ワクチンはなく、感染者の約70~80%が慢性肝炎となります。さらに、肝がんの原因の約65%を占めるウイルスです。全世界の推定感染者は約1.7億人であり、日本では約190万~230万人と推測されています。なお、現在感染している人の多くは、過去の輸血・注射・汚染された血液製剤など医療行為による感染ですが、最近では新規感染者ではピアスの穴開け・医療現場での針刺し事故などによる感染が増えています。
- D型肝炎ウイルス
急性肝炎の原因となるウイルスです。B型肝炎ウイルスと共存した形でしかウイルスが存在できないため、感染はかなり稀です。感染した場合にはB型急性肝炎との同時感染もしくはB型慢性肝炎の重複感染となります。
- E型肝炎ウイルス
ブタ・シカ・イノシシなどの動物が保有しているウイルスで、日本ではこれらの動物の生肉やレバ刺しなどを食べることで年間数十例の肝炎発症がみられます。慢性化することなく、ほとんどが自然治癒します。
ウイルス性肝炎の検査方法
肝炎ウイルスに感染しているかどうかは、採血による血液検査「肝炎ウイルスマーカー検査」で肝炎ウイルスの抗体量を調べない限り、分かりません。現在、国による肝炎重症化予防対策の一環として、県・市区町村の保健所や一部の医療機関にて無料の「肝炎ウイルス検査(B型・C型肝炎ウイルス)」が実施されています。(費用負担が発生するケースもあります)
当院でも「肝炎ウイルス検査」を行っておりますので、ご希望の方はお問い合わせください。
◆肝炎ウイルス検査について、「健康診断ページ」にて詳しく説明しています。
B型慢性肝炎の特徴
B型肝炎ウイルスは、ウイルスに感染している人の血液・体液によって感染します。
出産時や3歳未満の乳幼児期の感染では、ウイルス感染が継続して「慢性肝炎」になりやすく、厚生労働省の調査によると、B型慢性肝炎の患者数は約15万人と推定されています。
B型慢性肝炎の感染経路
- 垂直感染
母親がB型肝炎ウイルスに感染している場合、出産時の産道通過の際に血液を介して赤ちゃんに感染する「母子感染」が起こります。感染した子供はすぐに症状が現れない「無症候性キャリア」となり、免疫機能が発達してくる思春期~30代頃に急性肝炎を発症します。軽い肝炎で肝機能も維持されるケースが多数ですが、約10%は慢性肝炎に移行し、そのうち1~2%は肝硬変・肝がんに進行します。しかし、1986年より母子感染予防対策として、感染の可能性がある乳児に対して出生後のワクチン接種が行われているため、新規の母子感染はほとんどありません。
- 水平感染
ピアスの穴開け・入れ墨などで器具を適切に消毒せず使い回す行為や、注射器の共用などがあり、近年では性交渉での感染が増えています。なお、以前は医療従事者の針刺し事故・予防接種での注射器の使い回し・汚染された輸血に伴う感染がありましたが、現在はワクチン接種・医療環境の整備・献血された血液への適切な検査体制の整備などにより、これらを原因とする感染はほぼ起きていません。
B型慢性肝炎の治療法
B型慢性肝炎ではウイルスの完全排除は難しいため、肝硬変・肝がんに進行させないようにすることを治療目的としています。
- 抗ウイルス療法
インターフェロン(注射薬)・核酸アナログ製剤(内服薬)などの薬を使い、ウイルスを直接攻撃して増殖を抑えます。
なお、厚生労働省・都道府県では、インターフェロン治療・核酸アナログ製剤治療に対する医療費助成*1を行っています。
*1(参考)肝炎治療に対する医療費助成について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kanen/kangan/iryouhijyosei.html
- 肝庇護療法(かんひごりょうほう)
肝臓を保護して、肝機能を正常化させることで症状の進行を抑えます。代表的な薬には、グリチルリチン製剤(注射薬)・ウルソデオキシコール酸(内服薬)、小柴胡湯(しょうさいことう:漢方薬)などがあります。
C型慢性肝炎の特徴
B型肝炎ウイルスと比べてC型肝炎ウイルスは感染力が低いため、血液・体液が他人に付かないように注意していれば、日常生活において感染の危険性はほとんどありません。
しかし、感染すると約30%は一過性で治癒しますが、約70%がキャリアとなり、ゆっくりと慢性肝炎に移行します。C型慢性肝炎になっても自覚症状がないことがほとんどなので、感染に気付かないまま肝硬変・肝がんを発症する感染者が多いです。厚生労働省の調査によると、C型慢性肝炎の患者数は約21万人と推定されています。
C型慢性肝炎の感染経路
- 垂直感染
母親がC型肝炎ウイルスに感染しているケースでの出産時の「母子感染」が約5~10%にみられますが、3歳までに約30%は自然治癒します。自然治癒しなかった場合には「無症候性キャリア」として、経過観察が必要となります。
- 水平感染
これまでの感染者の多くは、過去の輸血・注射器/注射針の使い回し・汚染された血液製剤の使用など医療行為による感染でしたが、現在は医療環境の整備により、医療行為での新規感染はほとんどありません。一方、最近では、ピアスの穴開け・入れ墨・麻薬の注射など、感染源が特定できないケースも増えています。
C型慢性肝炎の治療法
C型慢性肝炎の治療では、C型肝炎ウイルスを体内から排除することを目的としています。
近年、新しい薬が登場し、多くの方でウイルス排除が可能となっています。
- 抗ウイルス療法
以前はインターフェロン(注射薬)を用いた治療が行われていましたが、2014年から「インターフェロンフリー治療」と呼ばれる、飲み薬だけの治療が始まっています。数種類ある薬から、ウイルスの遺伝子型・肝炎進行度・過去の治療歴などを元に選択します。代償性肝硬変(症状のない肝硬変)の初回治療として2~3か月集中して内服すれば、約95%以上の方でウイルスの体内排除が可能です。また、インターフェロンでみられた副作用(発熱・全身倦怠感など)が少ないので、これまでインターフェロンを選択できなかった患者さんでも手軽に治療ができるようになっています。
なお、厚生労働省・都道府県では、インターフェロンフリー治療に対する医療費助成*2を行っています。
*2(参考)肝炎治療に対する医療費助成について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kanen/kangan/iryouhijyosei.html
- 肝庇護療法
インターフェロンフリー治療を受けてもウイルスが排除できないケースでは、「薬剤耐性ウイルス」になっている可能性があります。その場合にはグリチルリチン製剤(注射薬)・ウルソデオキシコール酸(内服薬)などを使用して肝臓を保護し、肝機能を正常化させて肝炎の進行を抑えます。
ウイルス性肝炎の予防法
B型肝炎・C型肝炎などのウイルス性肝炎の発症を予防するためには、「他人の血液にできるだけ触れないこと」が大事です。
日常生活では、次のことに注意しましょう。
- 歯ブラシ・カミソリ・髭剃りなど血液が付着する可能性があるものを共用しない
- 止血など、どうしても他人の血液に触る可能性がある場合は、ビニール・ゴム手袋を着ける
手袋がなければビニールのレジ袋などで代用して、血液に触らないようにしましょう。
- ピアス・タトゥー・鍼をするときは、消毒済みの器具であることを必ず確かめる
- 注射器や注射針を共用しない
- 性交渉には必ずコンドームを使用する
感染予防にはなりますが、感染を完全に防げる訳ではありません。
- B型肝炎ワクチンを接種する
B型肝炎キャリアの母親から生まれた新生児は、母子感染予防対策として、健康保険での接種対象となります。また、B型肝炎ウイルスキャリアの家族がいる方、血液・体液に触れる機会が多い職業(医療従事者・救急隊員・警察官・保育職員・介護職員など)の方には特に接種が推奨されます。
よくあるご質問
肝炎ウイルスの感染が判明したら、どうすれば良いですか?
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、痛み・発熱などの自覚症状がほとんど現れません。感染が判明したら詳しい精密検査を受けて、肝臓の状態を確認しましょう。その後、きちんと治療を受けながら日常生活では飲酒を控えて、バランスのよい食生活や適度なストレスの発散など、規則正しい生活を心がけましょう。
肝炎ウイルスは人にうつりますか?
B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスは、血液や体液を介して人にうつしてしまう恐れがあります。感染が分かっている場合には、献血はできません。また、B型肝炎ウイルスはワクチンがあるので、性交渉パートナーにはワクチン接種をお願いすることをおすすめします。なお、C型肝炎ウイルスは理論上「人にうつる」とされていますが、感染力が低く、主に血液を介しての感染となるため、一般的な日常生活において、うつる可能性は低いと考えられています。
まとめ
肝炎となる最大の原因は、一般的にイメージされている過剰なアルコール摂取ではなく、「ウイルス感染」によるものです。特にB型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスは長期間に渡って感染が持続し、ゆっくり肝障害を引き起こす「慢性肝炎」の原因となります。しかし、ウイルス性肝炎の持続感染者となっても、自覚症状がなく、感染時期が明確でない場合がほとんどなので、本人の知らないうちに「肝硬変」「肝がん」と進行しているケースが多くみられるのです。近年、B型慢性肝炎・C型慢性肝炎の新しい薬が登場するなど、従来に比べて手軽に治療が進められるようになっています。当院では、院長を含めて肝臓専門医が複数在籍し、B型肝炎・C型肝炎の検査・治療を行っています。お気軽にご相談ください。
記事執筆者
しおや消化器内科クリニック
院長 塩屋 雄史
職歴・現職
獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)
専門医 資格
日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医