疾患
disease

全身性強皮症

全身性強皮症(ぜんしんせいきょうひしょう)とは、皮膚や内臓が硬くなる病気であり、免疫が自分自身の細胞を攻撃する「自己免疫疾患」のひとつです。また、「膠原病(こうげんびょう)」でもあるため、全身の色々な部位に様々な症状が起こりますが、特徴的な症状として「手足の指の血行障害(レイノー現象)」「皮膚硬化」「内臓関連の症状」があります。中年女性に多く発症し、国による「指定難病」の対象疾患となっています。

今のところ、全身性強皮症を根治させる治療法はありませんが、従来と比べて症状を緩和・改善させるお薬が開発されています。現れる症状や病気の経過には個人差がありますが、病気の進行具合が生命に影響を及ぼすため、早期発見・早期治療開始が大切な病気です。

全身性強皮症とは?

全身性強皮症の患者数は他の病気と一緒に集計されており、正確な数字は不明ですが、約2万人以上と推定されています。しかし、ご本人が病気に気づいていない、軽症型で正確に診断されないケースもあるため、実際の患者数は倍以上いると考えられています。
また、全身性強皮症は「治らない病気」として悲観的に捉えられがちですが、昔と比べて、病気をコントロールする治療法が飛躍的に進歩しています。病気をコントロールしながら、上手に付き合っていきましょう。

全身性強皮症の分類

全身性強皮症は、現れる病状から2つに分類されています。

  • びまん皮膚硬化型全身性強皮症
    全身性強皮症の典型的な症状(皮膚硬化・末梢循環障害・内臓病変)が現れるタイプです。進行が早く、発症5~6年でピークを迎え、皮膚硬化は手指~体の中心あたりまで広がる特徴があります。
  • 限局皮膚硬化型全身性強皮症
    全身性強皮症でも比較的軽症型とされるタイプです。末梢循環障害が先行して現れ、病状はほとんど進行しないか、ゆっくりと進行します。皮膚硬化は手指のみと狭い範囲に現れます。

全身性強皮症になりやすい人

全身性強皮症の発症ピークは30代~50代ですが、まれに子どもや高齢者の発症もあります。男女比は欧米では1:2~4程度ですが、日本では1:10で女性の発症が圧倒的に多くなっています。なお、特定の遺伝子が原因となって発症する「遺伝病」ではありません。

全身性強皮症の症状

全身性強皮症では様々な症状が現れます。中でも「末梢循環障害」「皮膚硬化」「内臓病変」は特徴的な症状として有名です。ただし、症状の組み合わせや重症度には個人差があります。

皮膚硬化

皮膚硬化は手指の腫れぼったい感じから始まり、手のこわばりを伴うことがあります。びまん型の典型症状では、皮膚硬化は指先など体の末梢部位から起こり、手の甲、前腕、上腕と体の中心に向かって進んでいきます。顔面にも皮膚硬化は起こることがあり、表情を変えたり口を開いたりしにくくなります。進行すると、皮膚がつっぱり、光沢が出てきます。なお、皮膚硬化は発症5~6年を過ぎると、自然に皮膚が柔らかくなっていきます。
また、全ての患者さんに体幹まで進行する皮膚硬化が起こる訳ではありません。「びまん型」でも一部の方のみに進行がみられ、「限局型」では体幹までの硬化はほとんどありません。

末梢循環障害(レイノー現象)

患者さんの約90%に現れ、全身性強皮症の初期症状であることが多いです。冷たいもの(氷・冷蔵庫の中など)に触る、気温が低いときに外に出る、冷房が強く効いた部屋に入るといった寒冷刺激や精神的緊張がきっかけとなり、手足の指が発作的に血行障害を起こし、突然白く変色して、紫色に変化し赤くなって戻ります。指先が白色・紫色になっているときは、しびれ感・冷感・違和感・痛みなどを感じます。レイノー現象には「保温」が有効なので、すぐに手を温められるように携帯カイロを持ち歩く、家事ではできるだけお湯を使うなど、寒冷刺激を回避しましょう。なお、喫煙は血行を悪化させる作用があるので、禁煙してください。

(図)レイノー現象

臓器病変

臓器病変は「びまん型」で現れます。
肺、腎臓、消化器などに合併症がみられますが、中でも病気の経過に大きな影響を与える「肺疾患」には特に注意が必要です。

  • 肺症状
    全身性強皮症では、皮膚だけでなく肺にも硬化が及んで「肺線維症」を引き起こします。
    肺線維症になると、息切れ・慢性の咳・疲れやすい・階段が昇りづらいといった症状が現れ、細菌に感染しやすくなります。細菌感染すると「間質性肺炎」を引き起こし、酷くなると酸素吸入が必要な状態となります。痰が増えたり発熱したりしたら、すぐに医師にご連絡ください。また、肺の血管が変化して、「肺高血圧症」を引き起こすケースもあります。
    定期的に肺の状態を検査することが大切です。
  • 皮膚症状
    皮膚が黒ずんだり(色が濃くなったり)白く抜け落ちたりする「色素異常」、血行障害による手足の「潰瘍(かいよう)」、顔や手足に赤あざのような「血管拡張」、足の裏の「たこ・うおのめ」、皮膚の乾燥・かゆみが現れることがあります。特に潰瘍が現れた際には自己処置をせず、医師による適切な治療が必要となります。
  • 関節症状
    肘・膝・手首などの関節に痛み・炎症が起こります。手指の関節が曲がったまま固まって動かなくなる場合(屈曲拘縮:くっきょくこうしゅく)もありますので、日頃から適度に手足を動かすことが大切です。
  • 消化器症状
    胸やけ・胸のつかえ・逆流感が起こる「逆流性食道炎」、慢性の下痢・便秘が起こることがあります。まれに、全く腸が動かなくなる「イレウス」症状を起こす場合もあります。
  • 腎症状
    まれに腎臓の血管に障害が起こり、狭くなることで高血圧を起こす「強皮症腎クリーゼ」を発症する場合があります。特効薬があるので、突然の頭痛・頭部不快感・めまい・吐き気が起こったら、すぐに医師にご連絡ください。
  • 心症状
    まれですが、心臓の筋肉が硬くなることもあります。また、肺の変化が強いと、二次的に心機能が弱ってしまうケースがあります。定期的に心電図検査などを受けると良いでしょう。
  • シェーグレン症候群(乾燥症状)
    全身性強皮症と同じく、膠原病であり自己免疫疾患である「シェーグレン症候群」を合併することがあります。主に目・口の乾燥症状(ドライアイ・ドライマウス)が起こります。また、唾液の分泌が不足すると、むし歯・歯周病になりやすくなります。

全身性強皮症の原因

全身性強皮症の原因は今のところ不明ですが、「遺伝的要因」だけでなく、生まれてからの「環境因子」も複雑に関与することで、発症していると考えられています。
これまでの研究によると、「免疫異常」「繊維芽細胞の活性化」「血管障害」の3つの異常が原因に関係していると分かってきましたが、発症に至る具体的な関わりについては現在も調査中です。さらに、特定の化学物質の接触、シリコン注入などの美容形成術、一部の抗がん剤などの薬剤は発症のきっかけになることが知られていますが、必ずしも発症するわけではありません。また、全身性強皮症にかかりやすくなるかを決める遺伝子(疾患感受性遺伝子)自体は多数存在すると考えられています。

全身性強皮症の検査・診断

全身性強皮症では様々な症状がみられるため、問診・診察・複数の検査方法により症状の評価や臓器病変の有無を確認して、総合的に判断します。

全身性強皮症の検査

  • 問診
    症状はいつからか、症状が出る時の状況、ご家族に膠原病の方はいないか、日常生活での影響具合など、詳しくお伺います。
  • 診察
    皮膚の硬さは皮膚をつまんで確認します。また、手・足の指先に潰瘍ができていないか、爪の付け根の毛細血管に内出血(爪上皮出血点)が指2本以上にみられるかを目視や顕微鏡で調べます。
  • 血液検査
    自己抗体の検査は、全身性強皮症か、別の病気かを見分けるために重要です。
    全身性強皮症では、ほとんどの患者さんで「抗核抗体」を持っており、中でも「抗トポイソメラーゼⅠ((Scl-70)抗体」「抗RNAポリメラーゼⅢ抗体」「抗セントロメア抗体」「抗U1RNP抗体」のいずれかが陽性になります。

そのほか、患者さんの病状に合わせ、尿検査・皮膚生検・胸部X線検査(レントゲン)、心電図、CT検査、肺機能検査、MRI検査、超音波検査などを行います。
また、診断確定後も、早期治療や進行防止のために定期的に検査を受けることが大切です。
※必要に応じて、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介します。

全身性強皮症の診断

全身性強皮症には、厚生労働省研究班による診療ガイドライン(2003年)、ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)とアメリカリウマチ学会(ACR)の分類(2013年)、日本皮膚科学会による診断基準(2016年)*1などのいくつかの基準があります。これらの基準では主に皮膚硬化、皮膚病変、手指の循環障害、肺病変、自己抗体の有無などから評価しています。なお、重症度は各臓器の症状の中で、最も重い症状の程度によって決まります。
当院では基準に沿って、総合的に判断しています。
*1(参考)全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン|日本皮膚科学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dermatol/126/10/126_1831/_pdf/-char/ja

全身性強皮症の治療

全身性強皮症の治療は、病型に合わせて薬物療法にて進めます。進行の早い「びまん型」では、進行を抑えるための「疾患の治療(疾患修飾療法)」と個々の症状を和らげる「対症療法」を、ゆっくり進行する「限局型」では対症療法を行います。なお、疾患の治療では臓器ごとの重症度分類に従って、治療薬を選択します。
代表的なお薬は次の通りです。

  • 副腎皮質ステロイド
    炎症を抑え、免疫の働きを抑える作用があるお薬です。皮膚硬化・倦怠感などに効果的です。ただし、感染症にかかりやすくなる、骨粗しょう症、食欲増進、高血圧、糖尿病などの副作用がみられることや、腎クリーゼを起こしやすくする報告があります。
    当院では効果と副作用のバランスを考えながら、治療を行います。
  • 免疫抑制剤
    過剰な免疫に作用して、皮膚や肺の硬化を抑えます。感染症にかかりやすくなる、赤血球・白血球などの減少・不妊症・出血性膀胱炎などの副作用がみられます。
  • 血管拡張剤
    血管を拡張させることで、レイノー現象・手足の冷えしびれ・皮膚潰瘍などの症状改善に効果的です。
  • 抗線維化薬
    全身性強皮症に伴う「間質性肺炎」の治療に使用します。できるだけ肺が硬くなるのを抑え、呼吸機能を保つことが大切です。下痢・体重減少・吐き気・肝機能障害などの副作用があります。

そのほか、消化器症状には胃酸を抑える薬、関節炎には痛みを和らげる薬など、症状に合わせた治療薬を使用します。

よくあるご質問

「全身性強皮症」と「限局性強皮症」は同じですか?

いいえ、まったく別の疾患です。全身性強皮症は皮膚だけでなく内臓も硬くなる病気で、さらに末梢血管障害や内臓病変を伴い、膠原病のひとつです。
一方で、限局性強皮症では、四肢や顔面・頭部などの皮膚に硬化が起こり、末梢血管障害・内臓病変を伴わず、膠原病でもありません。
また、全身性強皮症の軽症型である「限局皮膚硬化型」では、手指の皮膚が硬化しますが、「限局性強皮症」では手指の硬化は起こりません。

どんな症状があれば、全身性強皮症を疑えば良いのでしょうか?

寒さに伴って手指の色が変化したり、手指を曲げたときに少しでもこわばりを感じたり、爪の付け根(甘皮)に内出血がみられたりする場合には、念のため、早めにご受診されることをおすすめします。

全身性強皮症と診断されました。日常生活で気を付けることは何ですか?

以下の点に注意しましょう。

  • 禁煙する
  • 規則正しい生活・栄養バランスの良い食事・十分な睡眠・適度な運動・ストレスを溜めない生活を心がける
  • 激しい運動・疲労が残るような活動は避ける
  • 手足はきちんと保温する
  • 小さな傷でも必ず処置する
  • うがい・手洗いなど基本的な感染症対策を行う
  • 薬はきちんと服用する
  • 妊娠・出産を希望する場合には、医師に相談する

まとめ

全身性強皮症の皮膚硬化は発症5~6年で自然に良くなっていきますが、臓器病変は一度発症すると元には戻りません。そのため、高血圧・糖尿病と同じように、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが重要です。
当院では患者さんが全身性強皮症という病気を正しく理解して、病気をコントロールしながら、上手に付き合っていけるよう、お手伝いができればと考えています。病気や生活に関して、お困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医