疾患
disease

乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)は、「乾癬」という全身性の皮膚の病気に「関節炎」が合併した病気で、「関節症性乾癬」と呼ばれることもあります。今のところ、詳しい原因は分かっていませんが、自己免疫が自分の組織を攻撃する「自己免疫疾患」のひとつと考えられています。

通常、乾癬の発症から数年経ってから発症するケースが多く、一見すると、乾癬と関節炎は関係ないように思われることも少なくありません。しかし、診断が遅くなるほど、関節炎による変形や強直(癒着・変形して動かなくなること)が進み、日常生活に支障を来すようになるため、早めの治療が望まれます。また、関節炎は様々な部位に現れ、症状に個人差があるため、関節リウマチなど似ている病気との鑑別も重要です。

当院では「リウマチ科外来」を設け、リウマチ専門医による「乾癬性関節炎」の早期発見・早期治療開始を目指しております。お薬での治療により炎症の活動性を抑え、生活の質(QOL)を上げることが期待できます。皮膚症状(乾癬)に関節炎が合併するケースだけでなく、皮膚症状が先行せず関節炎が現れる例もあるため、手指の関節の腫れ、かかと・足裏の痛み・爪の変化が現れましたら、お気軽に当院までご相談ください。

乾癬性関節炎とは?

乾癬性関節炎は、乾癬と同じように免疫システムの過剰反応により関節炎が引き起こされています。

乾癬性関節炎の疫学

これまで乾癬の関節炎合併は稀だと考えられていましたが、近年、乾癬を発症している方の約10%~15%に関節炎合併があったという調査報告があります。
乾癬性関節炎は10代~70代までどの年代でも発症しますが、診療ガイドライン*1によると、発症ピークは30代~40代であり、さらに診察時の平均年齢は53歳とされています。また、男女比を見ると、日本では女性と比べて、男性の発症は2倍となっています。

*1(参考)乾癬性関節炎診療ガイドライン 2019 P.6|日本皮膚科学会
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/PsAgl2019.pdf

乾癬性関節炎になりやすいタイプ

これまでの調査・研究によると、次の項目に当てはまる方は、そうでない方と比べて乾癬性関節炎の発症リスクが高いとされています*2

*2(参考)Prevalence and treatment patterns of psoriatic arthritis in the UK|Rheumatology (Oxford). 2013 Mar;52(3):568-75. doi: 10.1093/rheumatology/kes324. Epub 2012 Dec 7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23221331/

  • 乾癬による皮膚症状の範囲が広い方
  • 肥満の程度が強い方
  • 長期に渡り、乾癬を患っている方
  • 爪に乾癬症状が現れている方

乾癬性関節炎の症状

乾癬性関節炎では「乾癬」「関節炎」の2つの症状が現れますが、症状の現れ方には個人差があります。先に皮膚症状が現れて後から関節炎を合併するケースが約76%と多いですが、関節炎が先に現れる場合もあるので、これらの症状が同じ病気(乾癬)によって引き起こされていることに気づかない患者さんは少なくありません。

乾癬の症状(皮膚症状)

乾癬性関節炎の皮膚症状として、「乾癬(尋常性乾癬)」が現れます。

症状

  • 皮膚の赤み
  • 赤みの表面に白いかさぶた(鱗屑:りんせつ)
  • かゆみ

症状が現れやすい部位

頭・肘・膝・お尻・脚といった衣類が擦れたり外的刺激を受けたりしやすい部位

関節炎の症状

乾癬性関節炎の関節炎では、次の5つのタイプの症状が現れます。

  • 末梢関節炎(まっしょうかんせつえん)
    手足の指の第一関節(指先に近い方の関節)を中心として、関節に腫れ・痛みが現れます。左右非対称に症状が現れますが、進行して関節炎の箇所が増えていくと、左右対称になることがあります。また、関節の変形によって、日常生活の動作に支障を来します。
  • 腱付着部炎(けんふちゃくぶえん)
    乾癬性関節炎の関節症状の始まりとして多くみられます。アキレス腱・膝蓋腱(しつがいけん:膝の前方にあるお皿の骨とすねの骨を結ぶ腱)・足裏の腱付着部など、骨と腱・じん帯がくっつく部分に炎症が起こるため、朝起きて足を床についたときや歩行時などにかかとの痛みを感じます。
  • 指趾炎(ししえん)
    指趾とは、手と足の指のことです。手足の指がソーセージのように腫れるため「ソーセージ指」とも呼ばれます。特に足の中指(第3趾)・薬指(第4趾)にみられます。
  • 脊椎関節炎(せきついかんせつえん)
    「体軸関節炎」とも呼ばれ、背骨や仙腸関節(せんちょうかんせつ:背骨の下にある仙骨と骨盤の左右にある腸骨の間)に炎症が起こり、背中・腰・首に痛みやこわばりが現れます。「ただの腰痛」と見逃されやすいですが、乾癬性関節炎では、腰・背中の痛みは安静にすると強くなり、動くと改善する特徴があります。進行すると、強直して固まるので上を向く、前かがみになるなどの動作が難しくなります。
  • 爪病変
    爪の一部が剥がれたり、分厚くなったり、凹んだりします。爪病変のある指には関節炎が発症しやすいことが分かっています。

乾癬性関節炎の原因

乾癬性関節炎の原因は現状明らかになっていません。しかし、これまでの調査で、免疫細胞の異常活性により炎症が持続する「自己免疫性疾患」であるとされています。さらに「遺伝的な要因(体質)」と感染症・ストレス・肥満・喫煙などの「環境要因」が複雑に絡まり合うことで発症すると考えられています。

乾癬性関節炎の検査・診断

乾癬性関節炎では様々な症状がみられる上、患者さんごとに症状の現れ方が異なるため、複数の検査方法で総合的に評価します。なお、既に「乾癬」と診断されている方では、比較的容易に診断可能です。また、関節リウマチ・変形性関節症・強直性脊椎炎などの似ている病気との鑑別が大切となります。

  1. 問診・視診・触診
    乾癬の有無、家族歴(家族に乾癬の方がいるか)、爪症状の有無、関節の痛み・腫れの有無、付着部炎の有無、「腰・背中の痛みがあるか」「他の持病があるか」など、詳しくお伺いします。
  2. 血液検査
    関節リウマチとの鑑別に「リウマトイド因子(RF)」「抗CCP抗体」を調べます。関節リウマチでは陽性になりますが、乾癬性関節炎では基本的に「陰性」です。ほかに、「赤血球沈降速度」「CRP」「MMP-3」で関節の炎症や骨の破壊の程度を確認します。ただし、発症早期ではCPR・MMP-3の上昇がみられないケースも半数程度あります。
  3. 画像検査
    以下のような画像検査から骨や周辺組織の炎症(関節炎)を確認します。
  • X線検査(レントゲン検査)
    骨の破壊・関節の変形などが確認できます。

(画像)当院のX線検査室

  • 超音波検査(関節エコー検査)
    関節炎の中でも、特に腱付着部炎の検査に適しています。
    超音波なので、被ばく・副作用のリスクがありません。

そのほか、早期診断のため「MRI検査」を行うことがあります。
※超音波検査やMRI検査に関しては、さいたま赤十字病院などの基幹病院を必要に応じてご紹介します。

乾癬性関節炎の治療

乾癬性関節炎の治療では「薬物療法」による症状の改善を中心に、運動療法・作業療法を含め禁煙・減量などの「生活指導」も並行して行います。
欧州リウマチ学会(EULAR)、乾癬および乾癬性関節炎の研究と評価のためのグループ(GRAPPA)、日本皮膚科学会からそれぞれ作成された乾癬性関節炎ガイドラインの中で、症状ごとに推奨される治療法が公開されているため、当院でもそれらのガイドラインを準拠し、症状に合わせた治療を進めていきます。

薬物療法

薬物療法では、炎症の活動性を抑えて進行を防ぎ、生活の質(QOL)を上げることを治療目的としています。

  • 皮膚症状「乾癬」の治療
    ビタミンD軟膏・ステロイド軟膏などの外用薬による局所療法を第一選択としています。局所療法で効果不十分の場合には、免疫抑制剤の内服・生物学的製剤などの注射薬の導入を検討します。重症例では紫外線を当てる光線療法を行うこともあります。
  • 末梢関節炎の治療
    NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)・抗リウマチ薬を中心に使用して、炎症と痛みを抑えます。手指の末梢関節炎には、特に抗リウマチ薬が効果的とされています。また、炎症反応が強い・炎症している関節が多いようなケースでは、生物学的製剤の使用を検討します。
  • 腱付着部炎の治療
    NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を第一選択としていますが、炎症が強い場合には生物学的製剤を使用するケースもあります。
  • 指趾炎の治療
    抗リウマチ薬の内服を中心に、ステロイド注射・生物学的製剤を使用することもあります。
  • 脊椎関節炎の治療
    NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を中心に使用します。効果が不十分の場合には、生物学的製剤の使用や理学療法などを行います。
  • 爪病変の治療
    軽症の場合には外用薬・ステロイド注射・抗リウマチ薬を使用します。中等症~重症例では生物学的製剤の使用が推奨されています。

生活指導

乾癬性関節炎がある方は、ない方と比べて肥満・メタボリック症候群・糖尿病・心血管疾患など様々な病気の合併リスクが高いことが知られています。
食事療法・運動療法などによる減量は病気の活動性を抑え、合併症予防に繋がるほか、健康な生活を送るためにも欠かせません。また、乾癬はストレスで悪化すると推察されており、乾癬性関節炎でも同様に運動や趣味などを行い、適宜ストレスを発散して溜めないようにしましょう。

乾癬性関節炎の注意点

  • 肥満・メタボリックシンドロームに注意し、規則正しい生活を
    乾癬性関節炎では、肥満やメタボリックシンドロームの方が多いことが知られています。そのため、高血圧・糖尿病・高脂血症・心血管疾患・ぶどう膜炎(目の中に炎症が起こる病気)*3など様々な疾患を合併しやすいので、他の自己免疫疾患同様にアルコールの多飲・喫煙・ストレス・不眠を避けた「規則正しい生活」が大切です。

*3(参考)ぶどう膜炎:視力低下・かすみ目・まぶしさを感じる・目の痛みなどの症状が現れます。悪化すると、失明の恐れがあるので、症状に気づいたら、すみやかに医療機関を受診しましょう。

  • 治療中は感染症対策に努める
    乾癬性関節炎の治療では、ステロイド・免疫抑制剤・生物学的製剤を使用することがあります。副作用として、感染症にかかりやすくなるため、治療中はうがい・手洗い・人込みを避けるなどの感染対策に努めましょう。

よくあるご質問

関節リウマチとは、何が違うのでしょうか?

関節リウマチによる関節炎は、手指の第二・第三関節(指先から2番目・3番目の関節)に起こりますが、乾癬性関節炎では第一関節を含む「すべての関節」に現れます。また、関節リウマチは左右対称に症状が現れるのに対し、乾癬性関節炎では「非対称」に症状が現れ始めます。
※乾癬性関節炎が進行して関節炎の部分が増えると、左右対称に現れることもあります。

「乾癬性関節炎」は遺伝しますか?

必ず遺伝する「遺伝病」ではありませんが、ご家族に乾癬性関節炎の方がいる場合は、そうでない場合と比べて発症しやすいとされ、遺伝的要因があると考えられます。
また、発症に関連する可能性のある遺伝子も複数報告されています。

まとめ

乾癬性関節炎による関節炎の多くは皮膚症状の発症後から現れ、ゆっくりと進行していくため、関節に炎症が起こっても「加齢が原因」と思い過ごしやすく、適切な治療の開始が遅れてしまいがちな病気です。しかし、関節炎の自然寛解はほとんどなく、ひとたび関節が破壊されると元には戻りません。進行して重度の機能障害となれば、仕事や日常生活に支障を来す可能性があるため、早期発見・早期治療開始がとても大切となります。

当院では、乾癬性関節炎でみられる頭・肘・膝などの発疹、関節の痛み・腫れ、爪の変化などを見逃さないよう、リウマチ専門医による丁寧な診察を心がけています。皮膚症状に加えて関節に痛み・腫れが現れた方はもちろん、皮膚症状がなくても手指の第一関節に腫れ・痛み、かかと・足裏の痛み、爪に変化が現れた場合には、すみやかに当院までご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医