関節リウマチによる関節炎は、手指の第二・第三関節(指先から2番目・3番目の関節)に起こりますが、乾癬性関節炎では第一関節を含む「すべての関節」に現れます。また、関節リウマチは左右対称に症状が現れるのに対し、乾癬性関節炎では「非対称」に症状が現れ始めます。
※乾癬性関節炎が進行して関節炎の部分が増えると、左右対称に現れることもあります。
乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)は、「乾癬」という全身性の皮膚の病気に「関節炎」が合併した病気で、「関節症性乾癬」と呼ばれることもあります。今のところ、詳しい原因は分かっていませんが、自己免疫が自分の組織を攻撃する「自己免疫疾患」のひとつと考えられています。
通常、乾癬の発症から数年経ってから発症するケースが多く、一見すると、乾癬と関節炎は関係ないように思われることも少なくありません。しかし、診断が遅くなるほど、関節炎による変形や強直(癒着・変形して動かなくなること)が進み、日常生活に支障を来すようになるため、早めの治療が望まれます。また、関節炎は様々な部位に現れ、症状に個人差があるため、関節リウマチなど似ている病気との鑑別も重要です。
当院では「リウマチ科外来」を設け、リウマチ専門医による「乾癬性関節炎」の早期発見・早期治療開始を目指しております。お薬での治療により炎症の活動性を抑え、生活の質(QOL)を上げることが期待できます。皮膚症状(乾癬)に関節炎が合併するケースだけでなく、皮膚症状が先行せず関節炎が現れる例もあるため、手指の関節の腫れ、かかと・足裏の痛み・爪の変化が現れましたら、お気軽に当院までご相談ください。
乾癬性関節炎は、乾癬と同じように免疫システムの過剰反応により関節炎が引き起こされています。
これまで乾癬の関節炎合併は稀だと考えられていましたが、近年、乾癬を発症している方の約10%~15%に関節炎合併があったという調査報告があります。
乾癬性関節炎は10代~70代までどの年代でも発症しますが、診療ガイドライン*1によると、発症ピークは30代~40代であり、さらに診察時の平均年齢は53歳とされています。また、男女比を見ると、日本では女性と比べて、男性の発症は2倍となっています。
*1(参考)乾癬性関節炎診療ガイドライン 2019 P.6|日本皮膚科学会
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/PsAgl2019.pdf
これまでの調査・研究によると、次の項目に当てはまる方は、そうでない方と比べて乾癬性関節炎の発症リスクが高いとされています*2。
*2(参考)Prevalence and treatment patterns of psoriatic arthritis in the UK|Rheumatology (Oxford). 2013 Mar;52(3):568-75. doi: 10.1093/rheumatology/kes324. Epub 2012 Dec 7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23221331/
乾癬性関節炎では「乾癬」「関節炎」の2つの症状が現れますが、症状の現れ方には個人差があります。先に皮膚症状が現れて後から関節炎を合併するケースが約76%と多いですが、関節炎が先に現れる場合もあるので、これらの症状が同じ病気(乾癬)によって引き起こされていることに気づかない患者さんは少なくありません。
乾癬性関節炎の皮膚症状として、「乾癬(尋常性乾癬)」が現れます。
頭・肘・膝・お尻・脚といった衣類が擦れたり外的刺激を受けたりしやすい部位
乾癬性関節炎の関節炎では、次の5つのタイプの症状が現れます。
乾癬性関節炎の原因は現状明らかになっていません。しかし、これまでの調査で、免疫細胞の異常活性により炎症が持続する「自己免疫性疾患」であるとされています。さらに「遺伝的な要因(体質)」と感染症・ストレス・肥満・喫煙などの「環境要因」が複雑に絡まり合うことで発症すると考えられています。
乾癬性関節炎では様々な症状がみられる上、患者さんごとに症状の現れ方が異なるため、複数の検査方法で総合的に評価します。なお、既に「乾癬」と診断されている方では、比較的容易に診断可能です。また、関節リウマチ・変形性関節症・強直性脊椎炎などの似ている病気との鑑別が大切となります。
(画像)当院のX線検査室
そのほか、早期診断のため「MRI検査」を行うことがあります。
※超音波検査やMRI検査に関しては、さいたま赤十字病院などの基幹病院を必要に応じてご紹介します。
乾癬性関節炎の治療では「薬物療法」による症状の改善を中心に、運動療法・作業療法を含め禁煙・減量などの「生活指導」も並行して行います。
欧州リウマチ学会(EULAR)、乾癬および乾癬性関節炎の研究と評価のためのグループ(GRAPPA)、日本皮膚科学会からそれぞれ作成された乾癬性関節炎ガイドラインの中で、症状ごとに推奨される治療法が公開されているため、当院でもそれらのガイドラインを準拠し、症状に合わせた治療を進めていきます。
薬物療法では、炎症の活動性を抑えて進行を防ぎ、生活の質(QOL)を上げることを治療目的としています。
乾癬性関節炎がある方は、ない方と比べて肥満・メタボリック症候群・糖尿病・心血管疾患など様々な病気の合併リスクが高いことが知られています。
食事療法・運動療法などによる減量は病気の活動性を抑え、合併症予防に繋がるほか、健康な生活を送るためにも欠かせません。また、乾癬はストレスで悪化すると推察されており、乾癬性関節炎でも同様に運動や趣味などを行い、適宜ストレスを発散して溜めないようにしましょう。
*3(参考)ぶどう膜炎:視力低下・かすみ目・まぶしさを感じる・目の痛みなどの症状が現れます。悪化すると、失明の恐れがあるので、症状に気づいたら、すみやかに医療機関を受診しましょう。
関節リウマチによる関節炎は、手指の第二・第三関節(指先から2番目・3番目の関節)に起こりますが、乾癬性関節炎では第一関節を含む「すべての関節」に現れます。また、関節リウマチは左右対称に症状が現れるのに対し、乾癬性関節炎では「非対称」に症状が現れ始めます。
※乾癬性関節炎が進行して関節炎の部分が増えると、左右対称に現れることもあります。
必ず遺伝する「遺伝病」ではありませんが、ご家族に乾癬性関節炎の方がいる場合は、そうでない場合と比べて発症しやすいとされ、遺伝的要因があると考えられます。
また、発症に関連する可能性のある遺伝子も複数報告されています。
乾癬性関節炎による関節炎の多くは皮膚症状の発症後から現れ、ゆっくりと進行していくため、関節に炎症が起こっても「加齢が原因」と思い過ごしやすく、適切な治療の開始が遅れてしまいがちな病気です。しかし、関節炎の自然寛解はほとんどなく、ひとたび関節が破壊されると元には戻りません。進行して重度の機能障害となれば、仕事や日常生活に支障を来す可能性があるため、早期発見・早期治療開始がとても大切となります。
当院では、乾癬性関節炎でみられる頭・肘・膝などの発疹、関節の痛み・腫れ、爪の変化などを見逃さないよう、リウマチ専門医による丁寧な診察を心がけています。皮膚症状に加えて関節に痛み・腫れが現れた方はもちろん、皮膚症状がなくても手指の第一関節に腫れ・痛み、かかと・足裏の痛み、爪に変化が現れた場合には、すみやかに当院までご相談ください。