骨粗鬆症は、性別や年齢、遺伝など、ご自身でコントロールできない要素もありますが、食事や運動、嗜好品などの生活習慣を見直すことで予防できる場合もあります。治療だけでなく、予防のためにもぜひ、食事療法や運動療法を取り入れてみることをおすすめします。 骨の状態は短期間では変化しません。日々の食事や運動の中で無理なく取り入れ、楽しみながら、長く続けられるように工夫をしてみましょう。
「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」は、骨の強度が落ちてもろくなり、骨折しやすくなる疾患です。
高齢者や閉経後の女性に多く発症しますが、食事や運動など日常の生活習慣とのかかわりも深く、無理なダイエットや運動不足、喫煙など、骨に負担のかかる生活を続けていると、若い年代の方でも発症することがあります。
骨粗鬆症は、「サイレント・ディジーズ(静かな病気)」と言われるように、発症初期には自覚症状が全くありません。しかし、徐々に骨の量が減り、スカスカの状態になると、ごく軽い衝撃や動作などでも骨が折れやすくなり、骨折が起きて初めて骨粗鬆症に気付くケースも少なくありません。
骨粗鬆症は、単なる骨の老化現象ではなく、全身に及ぶ骨の疾患であり、次々と骨折が連鎖してしまうと、最終的に寝たきりや要介護の状態を招くこともあるため注意が必要です。
私達の身体は、強くて丈夫な骨を保つため、毎日少しずつ古い骨を壊して(骨吸収)、新しい骨に作り替えられており(骨形成)、これを「骨代謝(骨リモデリング)」と言います。
骨代謝は、古い骨を壊して吸収する「破骨細胞(はこつさいぼう)」と新しい骨を作る「骨芽細胞(こつがさいぼう)」によって絶えず行われており、この骨代謝をコントロールしているのが骨の形成に欠かせない「カルシウム」などのミネラルです。
体内のカルシウム量が十分にあり、骨吸収と骨形成のバランスが上手く保たれている時は健康な骨を保つことができますが、何らかの原因で体内のカルシウム量が不足すると、骨代謝のバランスが崩れて骨吸収が骨形成を上回るようになり、骨の量が減少して骨粗鬆症を発症します。
このように骨粗鬆症の発症には、骨の中のカルシウム量である「骨密度(こつみつど))」の低下が大きく関係しますが、近年では、さらに「骨質(こつしつ:骨の質)*1」も重要であることが明らかになってきています。骨の強さを表す「骨強度(こつきょうど)」は、その70%が骨密度、残りの30%が骨質に影響されると言われており、骨密度が十分ある場合でも、骨質が劣化し、骨のしなやかさが失われている場合には骨折しやすくなることが分かっています。
*1 骨質:骨内部の微細構造、骨代謝回転、微小骨折、石灰化など
国内の骨粗鬆症の患者数は1,280万人(男性300万人、女性980万人)*2に上ります。
これは国民の約10人に1人に相当し、年齢が上がるにつれて発症者が増加するため、高齢化が急激に進む日本では今後、さらに患者数の増加が予想されます。
また、骨粗鬆症は女性に多い疾患であり、患者全体の約80%を女性が占めています。特に閉経後の女性は発症リスクが高く、60代の女性の3人に1人が骨粗鬆症とも言われています。
*2骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版
骨粗鬆症は、特別な原因疾患のない「原発性骨粗鬆症」と、特定の病気や薬剤によって起こる「続発性骨粗鬆症」の大きく2つの種類に分類され、それぞれ発症要因が異なります。
原因となる疾患などがなく、加齢や女性ホルモンの低下、生活習慣などによって起こるのが特徴で、骨粗鬆症の多くを占めています。
・特定の疾患・薬剤
特定の疾患や薬の影響で起こるものを「続発性骨粗鬆症」と言います。
骨量の低下を引き起こす疾患には、関節リウマチや糖尿病、副甲状腺機能亢進症、慢性腎臓炎(CKD)、動脈硬化、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などがあります。
また、胃の切除手術後などに、十分な栄養が摂れなくなることで発症する場合もあります。
さらに、治療のための薬剤が原因となる場合もあります。体内の炎症を抑え、免疫抑制作用を持つステロイド剤の長期服用は、骨形成を抑制し、骨量の減少に繋がることが広く知られています。
初期の骨粗鬆症には特別な自覚症状がありませんが、進行すると骨がもろくなり、骨折しやすくなります。骨粗鬆症による骨折は「脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)」と言われ、「尻もち」「つまずき」「くしゃみ」といった日常生活程度のちょっとした衝撃や動作で起こるのが特徴で、ご本人やご家族が気付かない間に骨折していることもあるため、「いつのまにか骨折」とも呼ばれています。
脆弱性骨折(いつのまにか骨折)は、おもに以下の4か所に起こります。
身体の重みで背骨(椎体)が圧迫されて潰れてしまう状態で、これを「圧迫骨折」と言います。
圧迫骨折が起こると、腰や背中に痛みを伴うことが多く、「重い物を持つ」「立ち上がる」といった動作時に悪化するのが特徴です。通常、骨折が治れば痛みも徐々に治まりますが、骨が固まるのに時間がかかる場合には、痛みが長く残ることもあります。
また、椎体が押し潰されることで身長が縮むのも大きな特徴であり、2cm以上の身長低下が見られる場合は、骨粗鬆症の可能性が高くなります。潰れて変形した椎骨は元の形状には戻らず、次第に背中が後ろに弯曲して丸くなるほか、脊椎全体のバランスが崩れ、周りの椎体に負担がかかるようになると、ドミノ倒しのように次々と骨折が連鎖することもあります。
太ももの骨(大腿骨)が骨盤の近くの根元部分(近位部)で折れてしまう状態です。
大腿骨近位部に起こる骨折の85%は転倒によるものであり、歩行困難に陥ると、寝たきりや要介護状態になるリスクが高くなるため注意が必要です。
橈骨は骨粗鬆症による最初の骨折が起こりやすい部位であり、転倒してとっさに手をついた時などに起こるのが特徴です。
腕の付け根部分は骨が薄く、弱くなっていることが多いため、手をついて転んだり、直接肩をぶつけたりした時などに骨折しやすいのが特徴です。
骨粗鬆症の診断には以下のような検査を行います。
骨粗鬆症は、上記のような検査を基に、骨密度と骨折の有無によって診断します。
骨粗鬆症の大部分を占める原発性骨粗鬆症の診断基準は以下のようになっています。
※骨密度の低下を引き起こす骨粗鬆症以外の疾患や続発性骨粗鬆症がないことが前提です。
骨粗鬆症の治療目的は骨吸収を抑え、骨折を予防することにあります。
骨粗鬆症の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法があり、それぞれを併行して進めます。
骨粗鬆症は、性別や年齢、遺伝など、ご自身でコントロールできない要素もありますが、食事や運動、嗜好品などの生活習慣を見直すことで予防できる場合もあります。治療だけでなく、予防のためにもぜひ、食事療法や運動療法を取り入れてみることをおすすめします。 骨の状態は短期間では変化しません。日々の食事や運動の中で無理なく取り入れ、楽しみながら、長く続けられるように工夫をしてみましょう。
日本は、世界でも有数の長寿国です。長生きできるようになったのはとても良いことですが、重要なのは、自立して日常生活を送ることができる「健康寿命」を伸ばしていくことにあります。*5。
健康に不安がなく、アクティブな毎日を過ごすためには、身体の土台とも言える丈夫な骨を維持することが必要不可欠です。骨量の低下を早期に発見し、初期の段階で適切な治療に繋げるためにも、50歳以上の方(特に女性)は定期的に骨密度検査を受け、骨の状態を確認しておきましょう。
*5 WHOの調査によると、2019年の日本の平均寿命は84.3歳、健康寿命は74.1歳で、いずれも世界第1位となっていますが、平均寿命と健康寿命の差が開くことで、寝たきりや要介護期間の長期化も懸念されます。