疾患
disease

肝血管腫とは、肝臓内の毛細血管が異常に増殖して絡み合ってできた塊(腫瘍)のことです。一見して怖そうな名前ですが、「良性腫瘍」のひとつです。肝血管腫になっても、自覚症状がないことがほとんどなので、健康診断・人間ドックや他の病気のための超音波検査(エコー検査)で偶然見つかる病気です。成人の約1~5%にみられ、発症頻度はやや女性に多いです。

無症状の場合には治療は不要であり、エコー検査などで定期的な経過観察を行っていきます。一方で、腹痛などの症状がある、増大する、がんとの鑑別が難しいといったケースでは外科的手術が必要となります。
いずれの場合にも、腫瘍が本当に「肝血管腫」であるか否かを鑑別する必要があります。
また、腫瘍が変化していく可能性も少なからずあるため、定期的に経過を診ていくことは重要です。
健康診断・人間ドックで「肝血管腫」を指摘された方は、一度お気軽にご来院ください。

肝血管腫とは?

肝臓は血液が多い臓器であり、大小多くの血管が集まっています。そのため、血管の一部が増殖して絡み合った塊(血管腫)に特になりやすく、肝臓内にできた血管腫を「肝血管腫」と呼びます。また、肝血管腫のほとんどは、血管組織の異常増殖によって起こるスポンジのような構造をした「海綿状血管腫」ですが、稀に胎児期の血管組織の遺残物が増殖した「毛細血管性血管腫」もあります。

(図)肝血管腫イメージ

なお、肝血管腫は肝臓にできる腫瘍の中で最も頻度の高い「良性腫瘍」です。
ほとんどの肝血管腫は経過観察で良いのですが、徐々に大きくなったり、肝臓がんとの鑑別が難しかったりするケースもありますので、健康診断などでご指摘を受けた場合には一度ご受診ください。

肝血管腫の原因

血管から構成される「肝血管腫」は、今のところ根本的な発生原因は明らかになっていません。しかし、男女比を見てみると、1:1.2~6.0と女性に多く、肝血管腫の発症要因に女性ホルモンの関与があると考えられています。

肝血管腫の症状

肝血管腫では、通常、症状が現れません。血液検査なども正常のことがほとんどです。
しかし、肝血管腫が大きくなると、腹痛・圧迫感・腹部膨満感などの症状が現れてきます。また、ごく稀に巨大な血管腫内に大量の血栓ができて、凝固障害などが起こる「カサバッハ・メリット症候群」を合併すると、止血機能が働かなくなるので「青アザ」「鼻血がでやすい」など全身の出血症状が現れます。

肝血管腫の検査・診断

肝血管腫が疑われる場合、他の病気(特に肝臓がんなど)との鑑別のため、様々な検査を行います。なお、経過観察中でも定期的な検査は必要であり、血管腫の増大、症状の出現などがみられた際には、すみやかに精密検査を行います。

肝血管腫の検査

  • 問診
    自覚症状や身体診察などを行います。
  • 血液検査
    炎症具合や肝臓機能など、血中成分を調べます。
  • 画像検査
    • 腹部超音波検査(エコー検査)
      お腹にゼリーを塗ってから超音波プローブを当てます。被ばくの心配がない検査で、血管腫の有無、多発していないかなどを確認します。
      超音波検査では、白い円形の病変が見えます。
      他の病気との鑑別のため、造影剤を注射してから超音波検査を行うこと(造影超音波検査)があります。
    • 腹部CT検査

      CTとはComputed Tomographyの略で「コンピュータ断層撮影」のことです。CT装置は人体の輪切り画像を撮影してコンピュータで再構成することで、任意の断面像・血管像が作成できるので、詳細な診断情報を取得できます。近年の技術進歩により、ごく小さい病変も描出可能となっています。
      造影剤を使ったCT検査では、肝血管腫の部分に造影剤が少しの間滞留して見えます。

      当院のCT装置には、撮影しながら最大50%のノイズ低減処理(被ばく低減再構成)が搭載されている上、患者さんの体形に合わせて撮影時に最適線量を自動調整する機能も備わっているため、従来のCT装置と比べて、被ばく線量を約25%低減できます。また、当院で撮影したCT検査画像は、遠隔読影サービスを利用した放射線専門医による画像診断を行っています。

      (図)当院のCT装置

そのほか、MRI検査にて確認する場合があります。
※必要に応じて、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。

なお、より詳しく病変を確認して他の病気と鑑別するために、造影剤(ヨード造影剤)を静脈から注入した上で、超音波検査・CT検査・MRI検査を行うことがあります。

肝血管腫の診断

問診・血液検査・画像検査などから他の病気が確認できず、肝血管腫の所見がある場合に「肝血管腫」と診断します。

肝血管腫の治療

肝血管腫では、基本的に治療の必要はありません。ただし、症状があるなど一部のケースでは治療が必要となります。

肝血管腫で治療が必要なケース

次のようなケースでは治療が必要です。

  • 血管腫が大きく、お腹の張り・食欲不振・吐き気などの症状がある
    通常、肝血管腫は4cm以下の小さい腫瘍です。しかし、稀に10cmを超えるような巨大な腫瘍では症状が現れることが多く、治療対象となります。
  • 肝血管腫が破裂した・破裂しそうな場合
    通常、肝血管腫の自然破裂はありません。しかし、稀に巨大化により自然破裂するケースがあります。破裂すると大量出血して大変危険な状態となるため、すぐに治療する必要があります。また、急に血管腫が大きくなってきた場合には破裂を阻止するため、治療対象となることがあります。
  • 全身に出血症状がみられる
    大きな肝血管腫では「カサバッハ・メリット症候群」が起こる場合があります。
    カサバッハ・メリット症候群では血液凝固異常によって、出血が止まりにくくなるため、鼻血・血便・あざなど全身の出血症状が現れます。大量出血・脳内出血した場合、命の危険性があるため、すぐに治療が必要です。いずれにせよ、肝血管腫が大きいケースでは、何かしらの出血症状が現れたら、すみやかに医師までご相談ください。

外科的手術

肝血管腫の主な治療法として、「切除手術」「カテーテル手術」の2つがあります。
※必要に応じて、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。

  • 切除手術
    手術で肝血管腫を切除する方法です。切除方法には、お腹を十数cm切り開いて行う「開腹手術」と、数mm~数cmの小さな穴を複数開けて、腹腔鏡と呼ばれるカメラで患部を観察しながら長細いハサミや鉗子などの器具で病変を切除する「腹腔鏡手術」があります。
    腹腔鏡手術の方が傷は小さく済むので、術後の回復が早いというメリットがある一方で、肝血管腫の位置・過去の腹部手術の有無など患者さんによっては開腹手術の方が良いケースがあります。
  • カテーテル手術
    足の付け根からカテーテル(細い管)を入れて肝動脈まで進め、血管を塞ぐ物質を注入して、肝動脈から肝血管腫に流れる血流を止める方法です。
    主に、肝血管腫が破裂した際の緊急応急処置やカサバッハ・メリット症候群の方に行います。
    手術と比べて、合併症が少ないですが、肝血管腫の根治治療ではないので、後日手術で除去するケースがよくあります。

よくあるご質問

検診で肝血管腫と言われましたが、病院を受診しないといけませんか?

はい。健康診断・人間ドックなどで「肝血管腫」と指摘された場合には、念のため一度ご受診ください。

肝血管腫は良性腫瘍であり、通常無症状なため、基本的には治療の必要はないのですが、中には「肝がん」のような悪性腫瘍と似ている所見がみられるケースも存在します。
健康診断・人間ドックなどで行われている腹部超音波検査(エコー検査)は、何か疾患があるかもしれない人を発見する目的の「スクリーニング検査」として機能しています。そのため、改めて詳しく調べて、本当に腫瘍が「肝血管腫かどうか?」を鑑別する必要があります。また、診断後も腫瘍サイズが変わっていないかを定期的に確認していきます。

肝血管腫に似ている病気はありますか?

肝血管腫に似ている病気に「肝がん」があります。
肝血管腫の大きさは通常4cm以下で、短期間で大きさは変化することはありません。
一方で、肝がんは成長が早く、わずかな期間で急激に大きくなります。
画像検査でほとんど診断は可能ですが、中には1回の画像検査では判別が難しいケースも存在します。そのため、肝血管腫の指摘を受けた方は、一度ご受診いただき詳しい検査を受けることをおすすめします。
なお、一般的に肝血管腫から肝がんに移行するケースはありませんが、異変を早期に把握するため、診断後も半年に一度など定期的な画像検査を行うことが大切です。

乳幼児期に肝血管腫の治療歴があり、現在は無症状ですが、大人になってから何か症状が出てくることはありますか?

乳幼児期に「乳幼児肝巨大血管腫(難病指定)」があっても、薬物療法などの治療によって症状が軽快する、無症状になるケースは多々あります。また、手術で腫瘍を取り除いていない限り、肝血管腫は残ったままとなりますが、無症状であれば必ずしも手術する必要はないので、その後は普通の生活が送れます。
しかし、近年、乳幼児期の症状の軽快後、肝臓内の血液の流れが変わり、次第に肝機能が落ちるなど肝障害が引き起こされるケースがあることが分かってきました。
心不全・凝固障害など何かしらの症状が現れてきた場合はもちろん、無症状でも定期的に専門の医療機関を受診して、血管腫の経過を確認しておくと良いでしょう。
当院では様々な肝疾患のフォローを行っています。お気軽にご来院ください。

まとめ

「肝血管腫」というと、名前から怖いイメージを抱かれる方も多いことでしょう。しかし、肝血管腫は肝臓によくある「良性腫瘍」なので、怖がる必要はありません。一方で「症状がないから、別に受診しなくても良い」と思われがちですが、自己判断で放置して良い病気ではありません。その腫瘍が「肝血管腫なのか」「肝がんのような悪性腫瘍なのか」を鑑別しなければならないため、「肝血管腫」と指摘を受けた場合には、一度ご受診ください。また、稀に腫瘍が大きくなる可能性もあるため、診断後は定期的な画像検査で経過をチェックしていくことが大切です。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医