痔は日常の生活習慣によって起こる病気です。痔の最大の原因である便秘や下痢にならないよう正しい排便習慣を整え、トイレでは無理にいきんだりしないように気を付けましょう。
お食事面では水分や食物繊維をしっかり摂り、下痢や肛門をうっ血させる原因になる刺激物や飲酒はほどほどに抑えることが大切です。
また、肛門付近の血流を良くするには、座りっぱなしや立ちっぱなしを避け、適度な運動やストレッチなどを行うほか、お風呂でしっかりと温まって冷えを予防するのもおすすめです。
「痔」とは、肛門や肛門の周辺に発症する病気の総称です。
一般的に男性に多いと思われている痔ですが、実は女性にとっても身近な病気であり、性別や年代を問わずお悩みの方が多いポピュラーな病気の一つです。
デリケートな部分のため、痛みや違和感があっても医療機関にかかることをためらいがちですが、様子を見ているうちに症状が悪化してしまうケースもありますので、肛門からの出血や痛みなどが続く時は早めに受診することをおすすめします。
肛門は直腸からつながる器官で、お尻の穴の縁から3~4㎝の管状の部分を指します。
肛門の上部には、デコボコとした「歯状線(しじょうせん)」と呼ばれる部分があり、この歯状線より上の部分が直腸の粘膜、下の部分が肛門の皮膚(肛門上皮)という複雑な構造になっています。
また、肛門の周辺には「内肛門括約筋(ないこうもんかつやくきん)」と「外肛門括約筋(がいこうもんかつやくきん)」と呼ばれる2つの筋肉があり、排便時にはそれらの筋肉が緩むことで便が肛門から外に押し出されるしくみになっています*1。
*1内肛門括約筋・外肛門括約筋:排便を司る筋肉で、内肛門括約筋は自身の意思でコントロールすることは出来ないのに対し、外肛門括約筋は自身の意思でコントロールできるのが特徴。
痔は、肛門に負担がかかることによって起こる病気で、「痔核(じかく:いぼ痔)」「裂肛(れっこう:切れ痔)」「痔瘻(じろう:穴痔)」の大きく3つのタイプがあります。
歯状線より上の直腸粘膜には知覚神経がありませんが、肛門上皮の周辺には多くの知覚神経が通っているため、発症すると強い痛みが出ることが多く、出血や発熱を伴うケースもあります。
痔自体は命に関わる病気ではありませんが、悪化すると痛くて椅子に座れなくなってしまったり、睡眠が妨げられたりして患者さんの生活の質(QOL)を大きく低下させてしまうため、肛門の異常がある時は放置せずに治療を受けることが大切です。
以下のような症状が続く方は、痔の可能性がありますので早期に受診することをおすすめします。
痔は、排便時の強いいきみや、長時間座り続けるなど、肛門に負担がかかることで発症します。
肛門の周囲には、「静脈叢(じょうみゃくそう)」と呼ばれる毛細血管が網の目状に広がっており、何らかの原因で肛門に強い負担がかかると静脈叢がうっ血し、血行障害を起こした部分がいぼ状に膨らんで痔を発症します。
また、肛門の皮膚は腸の粘膜に比べ、あまり伸び縮みしないため、便秘気味で硬い便が通過した時に肛門の皮膚が傷付き、裂けてしまう場合もあります。
排便や座りっぱなし以外にも、香辛料やアルコールの摂り過ぎによる下痢、身体の冷え、スポーツ時のいきみなども肛門に負担をかけ、痔の発症に繋がることがあるため注意が必要です。
痔は、年齢・性別に関係なく発症しますが、そのおもな発症要因は男女で異なります。
男性では、暴飲暴食や長時間のデスクワーク、精神的な疲労(ストレス)による発症が多いですが、女性の場合は慢性的な便秘による発症が多いほか、妊娠中、子宮の重さで直腸や肛門部が圧迫されて発症するケースや、出産時の強いいきみが原因で発症するケースも多いのが特徴です。
痔は以下の大きく3つの種類があり、それぞれ症状には特徴があります。
肛門周辺の毛細血管がうっ血し、膨らんでいぼ状になったもので、「いぼ痔」とも言われます。
排便時の強いいきみなどで発症することが多く、歯状線の内側の直腸粘膜にできる「内痔核(ないじかく)」と歯状線の外側の肛門外皮にできる「外痔核(がいじかく)」の2種類があります。
肛門上皮に傷が付き、皮膚が裂けたり切れたりしている状態で、「切れ痔」とも言われます。
便秘の時などに水分量が少なく、硬く太い便が通過することで発症することが多いですが、激しい下痢で肛門に負担がかかり、炎症により切れてしまうこともあります。
出血量は少なく、トイレットペーパーに付く程度ですが、排便時に強い痛みを伴うのが特徴です。
通常、排便が終わると痛みも徐々に和らぎますが、慢性化すると痛みが何時間も続くようになり、強い痛みを避けようとして無意識に便意を我慢してしまうケースもあります。
歯状線のくぼんだ部分(肛門腺)が細菌感染を起こして膿が溜まるものを「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」と言います。この膿瘍が慢性化して直腸と肛門上皮の間にトンネルができてしまう状態が痔瘻であり、「穴痔」とも言われます。
肛門周辺の皮膚が熱をもち、腫れてズキズキと痛むのが特徴で、38~39度の熱を伴い、患部から膿が出ることもあります。
痔の診断には以下のような検査を行います。
痛みや痒み、出血、脱出の有無などの詳しい症状や発症時期のほか、便通の状態や頻度、生活習慣、既往症の有無などをお伺いします。
診察台に横向きに寝ていただき、肛門の状態を確認します。
痛みを抑えるための麻酔ゼリーを使用し、ゴム手袋をした状態で患部に触れたり、肛門内に指を入れたりして直接肛門内の状態(しこり、ポリープ、出血の有無など)を確認します。
また、「肛門鏡」という器具で肛門の内部の様子を詳しく観察します。
排便時に出血があり、大腸の病気が疑われる場合には大腸内視鏡検査を行います。
小型のカメラが付いた内視鏡を肛門から挿入し、大腸全体(結腸・直腸)を詳しく観察します。
検査の前に洗腸液(下剤)を服用して大腸をきれいな状態にしてから検査を行います。
当院の大腸カメラ検査では、「NBI(狭帯域光観察)」と呼ばれる内視鏡診断システムを導入しています。NBIとは「Narrow Band Imaging」の略で、青や緑などの短い波長の光を照射して行うのが特徴です。波長の短い光には消化器の粘膜表層の血管を鮮やかに浮かび上がらせる性質があることから、通常の光では見えにくい小さな病変も発見することが可能です。
痔の治療は痔のタイプによって異なります。
進行度や患者さんのご希望などに合わせ、下記のような治療を単独、または組み合わせて行います。
痔は日常の生活習慣によって起こる病気です。痔の最大の原因である便秘や下痢にならないよう正しい排便習慣を整え、トイレでは無理にいきんだりしないように気を付けましょう。
お食事面では水分や食物繊維をしっかり摂り、下痢や肛門をうっ血させる原因になる刺激物や飲酒はほどほどに抑えることが大切です。
また、肛門付近の血流を良くするには、座りっぱなしや立ちっぱなしを避け、適度な運動やストレッチなどを行うほか、お風呂でしっかりと温まって冷えを予防するのもおすすめです。
肛門の検査に抵抗をお持ちの方は多いですが、肛門の状態を調べる検査は痔の診断に必要不可欠です。当院では患者さんのプライバシーに十分配慮するとともに、痛みや違和感を軽減し、リラックスして検査を受けていただけるようさまざまな工夫を行っておりますのでご安心ください。 肛門に起こる出血の多くは痔が原因の場合が多いですが、稀に大腸がんなどの重大な病気が隠れていることがあります。自己判断せず、できるだけ早く受診していただくことをおすすめします。
早期のいぼ痔や切れ痔は生活習慣を見直し、症状を抑えるための薬物療法を行うことで比較的短期間で改善させることができます。また、手術が必要となる場合には、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介します。
痔は再発しやすい病気のため、治療が終わって症状が無くなった後も、便秘や下痢にならないように気を付け、お尻に負担をかけない生活を続けることが大切です。