疾患
disease

胃潰瘍・十二指腸潰瘍

胃潰瘍・十二指腸潰瘍とはピロリ菌感染や痛み止めなどのお薬が要因となり、胃・十二指腸の粘膜が溶かされ(消化され)深く傷つくことで引き起こされる病気です。
主に上腹部やみぞおちの痛み・吐き気・胸やけ・黒い便などの症状が現れ、悪化すると潰瘍から出血したり、胃・十二指腸の壁に穴が開いたり(穿孔:せんこう)することもあります。
通常、薬物療法により約6~8週間で治癒しますが、ピロリ菌感染がある場合には除菌治療も並行して行います。一方で潰瘍を放置すると、穿孔により激しい痛みを伴う「腹膜炎」を合併することや、多量の吐血・下血によるショック状態を引き起こして、緊急処置・手術を要することがあるため、早期発見・早期治療開始が重要な病気です。
胃の不快症状や吐血・下血が現れた場合、お早めに当院までご相談ください。

消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)とは?

十二指腸は胃と小腸の間に位置し、胃で消化された食べ物にすい液・胆汁などの消化酵素を混ぜて、小腸に送る働きをしています。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃酸で粘膜(内側)を消化されることにより深く傷つくため、「消化性潰瘍」とも呼ばれます。

(図)胃潰瘍・十二指腸潰瘍の発症イメージ

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の疫学

厚生労働省の患者調査(2020年・令和2年)によると、胃潰瘍・十二指腸潰瘍で病院を受療した推定患者数は約1万4千人と報告*1されており、1996年(平成8年)の同調査と比べると、1/10以下にまで減少しています。また、男女比は3:1であり、好発年齢をみると、胃潰瘍では40代~60代の中高年、十二指腸潰瘍では10代後半~30代の若年層に多くみられます。
*1(参考)患者調査(令和2年)P.24|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/dl/kanjya.pdf

胃潰瘍・十二指腸潰瘍になりやすい人

以下の項目に当てはまる場合、潰瘍になりやすい要因を持っていると考えられます。

  • ピロリ菌に感染している(陽性者)
  • 非ステロイド性消炎鎮痛薬(痛み止め・抗炎症薬など)を長期服用している
    ※たまに1~2回飲む程度であれば、問題ありません。
  • 喫煙者
  • アルコール・コーヒー・香辛料などをよく摂取する
  • 肉体的・精神的ストレスがある

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の症状

胃潰瘍・十二指腸潰瘍では次のような症状が現れます。
特に痛みに加えて、吐血・下血がある場合には「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」を疑って、早めに医療機関をご受診されることをおすすめします。

共通する症状

  • お腹の上の方・みぞおちに鈍い痛みがある
  • 背部痛
  • 食欲がない
  • 吐き気
  • 胸やけ(胸がヒリヒリ焼ける感じ)
  • 吐血(嘔吐物に鮮血またはコーヒーカスのような血が混じる)
  • 少量の場合には、黒いススのように見えます。
  • 下血(便に血が混じる)
  • 黒っぽい便やタール便(ドロっとした真っ黒の便)となります。

そのほか、めまい・動悸などの貧血症状、激しい腹痛が続くケースでは、多量出血や腹膜炎といった重篤な合併症を起こしている可能性があり、緊急処置・手術が必要となりますので、すみやかにご受診ください。
※手術が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。

胃潰瘍と十二指腸潰瘍の違い

胃潰瘍と十二指腸潰瘍では、「痛みの現れるタイミング」に違いがあります。

  • 胃潰瘍
    食後3~4時間後に痛み出すケースが多く、食事を摂りすぎると痛みが長引きます。
  • 十二指腸潰瘍
    空腹時に痛むため、深夜に痛みが襲ってくる特徴があります。食事を摂ると一時的に治まります。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の根本原因は、「胃液による胃・十二指腸粘膜の損傷」です。
粘膜を傷つける主な要因には、次の2つがあります。

  1. ピロリ菌感染
    ピロリ菌は細長いしっぽのような「べん毛」を持つ細菌で、免疫力の弱い乳幼児期の経口感染によって、胃粘膜内に住み着くとされています。感染していても自覚症状はありませんが、ピロリ菌がべん毛を高速回転させながら胃の中を進むことで胃粘膜を傷つけて胃炎を起こし、胃酸の影響を受けやすい状態にします。また、胃酸の刺激が続くと、胃粘膜を守る粘液の分泌が低下して「胃潰瘍」に繋がります。一方で胃酸過多になると、胃と十二指腸がくっつき、十二指腸に胃酸が流れ込み「十二指腸潰瘍」を発症します。
    なお、近年は衛生環境の改善とピロリ菌除去治療が浸透してきたことにより、ピロリ菌感染者数は昔に比べて大きく減少していますが、現在も胃潰瘍・十二指腸潰瘍の最たる原因であり、潰瘍患者さんの約60~70%はピロリ菌陽性者(感染者)です。
  2. 非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)
    非ステロイド性消炎鎮痛薬は「痛み止め」として、日常よく使用されるお薬です。鎮痛や抗炎症作用を持つ一方で、胃粘膜保護の物質を抑制する作用もあるため、粘膜を傷つけやすくなります。近年の超高齢化社会に伴い、腰痛・関節痛の痛み止め、心臓病・脳梗塞後の血栓予防目的などで長期間服用されている高齢者は増えており、薬剤性潰瘍の割合が高まっていると考えられています。

上記の2つの要因に加え、喫煙・ストレス・過度のアルコール摂取などがあることで、潰瘍をより発症しやすくなります。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の検査・診断

問診の結果から「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」が疑われたら、潰瘍およびピロリ菌感染の有無を調べます。検査で潰瘍の存在が確認できれば、確定診断となります。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の検査

  • 問診
    みぞおちの痛みなどの自覚症状、生活習慣について、詳しくお伺いします。
  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
    内視鏡検査では潰瘍の状態を詳しく確認できる上、粘膜から細胞の一部を採取して、がんなどの悪性腫瘍との鑑別やピロリ菌の感染有無を調べること(生検)も可能です。
    当院では、約5mmの非常に細いオリンパス製の経鼻内視鏡(鼻から挿入)にて検査を実施しています。口からの胃カメラと比べ、経鼻内視鏡は吐き気を催さずに検査をお受けいただけます。ただし、出血が疑われる場合には、緊急で口から入れる内視鏡検査を行い、必要に応じて止血処置を行います。(※経鼻内視鏡では止血処置はできません)なお、ご希望があれば、鎮静剤や鎮痛剤を使用して内視鏡検査を行うことも可能です。さらに内視鏡の洗浄・消毒にはガイドライン*2で推奨されている高水準消毒薬の過酢酸(≒お酢)を使用するなど感染予防に努めていますので、安心して胃カメラをお受けいただけます。
    *2(参考)消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド
    http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=14
  • 上部消化管造影検査(バリウム検査)
    主に集団健診では、造影剤(バリウム)を飲む「上部消化管造影検査」にて、粘膜の欠損(潰瘍)など胃の病変を調べます。

そのほか、他の病気との鑑別のため、血液検査・CT検査・腹部超音波検査などを適宜行うことがあります。

ピロリ菌感染の検査

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の最たる原因なので、内視鏡などで潰瘍が確認されたら、次にピロリ菌の感染有無について調べます。感染確認方法には大きく分けて2種類あり、内視鏡検査時の生検組織を使う方法と、内視鏡を使わない方法があります。

  • 内視鏡を使う方法(侵襲的検査法)
    迅速ウレアーゼ試験(生検組織にピロリ菌が作り出すアンモニア反応があるか試薬で確認する検査)、培養検査、顕微鏡検査など
  • 内視鏡を使わない方法(非侵襲的検査法)
    抗体検査(尿検査/血液検査)、尿素呼気試験(尿素を服用し、服用前後の吐き出した息に含まれる二酸化炭素の量を比較する検査)、便中抗原検査など

一般的にピロリ菌の感染診断には、抗体検査や迅速ウレアーゼ試験、ピロリ菌除菌後の評価では、尿素呼気試験・便中抗原検査が行われています。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の治療

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の治療は、次のような方針を基本としています。

  • ピロリ菌感染があれば、除菌治療する。
  • 薬剤性消化性潰瘍であれば、原因となっている薬剤を止める。治療上、止められない場合には、潰瘍が発生しにくくなる治療(薬物療法・生活改善)を行います。

いずれも「薬物療法」を中心に行い、同時に「生活習慣の改善」を図りながら、潰瘍が悪化する要因を取り除くことが大切です。なお、再発予防のため、症状改善後もお薬をしばらく続ける場合(維持療法)があります。

ピロリ菌の除菌

除菌することで、潰瘍の再発リスクの低下が期待できます。胃酸分泌薬1種類と抗生物質2種類がパックになった製剤を7日間内服します。除菌判定は内服終了後4週間以上経ってから行います。1回目の除菌成功率は約70%で、失敗した場合には2次除菌を行います。2次除菌までは保険診療で行え、約97%の方は2回目までに成功します。さらに失敗すると、3次除菌・4次除菌と続きますが、自費での治療となります。また、副作用の多くは軽い軟便程度ですが、重い下痢・薬疹など現れたら、すみやかに医師までご連絡ください。

潰瘍の治療

  1. 薬物治療
    近年、効果的な「胃酸分泌抑制薬」が登場しており、服用後すぐに痛みは改善しますが、潰瘍の治癒には約6~8週間必要です。(※保険適応上、胃潰瘍では6週間、十二指腸潰瘍では8週間の処方上限があります。)
    そのほか、胃粘膜の防御機能を高める薬、消化管運動改善薬や漢方薬などを併用することがあります。
  2. 外科的手術
    潰瘍からの出血時には、内視鏡で出血部分をクリップで留める処置「内視鏡的止血術」を行います。また、胃や十二指腸に穴が開いてしまったときには、穴を塞ぐ手術「穿孔部閉鎖術」を緊急で行います。
    ※手術が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。
  3. 日常生活の見直し
    喫煙・強いストレス・過度の飲酒・睡眠不足など潰瘍の悪化要因は避けて、生活習慣を見直しましょう。

よくあるご質問

すぐに受診したい胃潰瘍・十二指腸潰瘍の症状はありますか?

次のような様子が見られたら、市販の胃薬などの服用はせず、すぐに医療機関を受診しましょう。

  • 真っ黒い便(タール便)が出た
    胃や十二指腸から出血している可能性があります。放置すると、出血多量によるショック状態になる恐れがあるので、すぐに受診してください。
  • 激しい腹痛が続く
    胃・十二指腸の穿孔により、腹腔内に食物・細菌・毒素などの内容物が漏れ広がり、腹膜が炎症した「腹膜炎」の可能性があります。炎症が腹膜全体に拡がると、生命にかかわる危険性があるため、開いた穴を塞ぐ緊急手術が必要となります。激しい腹痛が続いたら、すぐに医療機関を受診してください。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍と診断されたら、気を付けたいことは何ですか?

胃潰瘍・十二指腸潰瘍と診断されたら、以下の3点に注意して過ごしましょう。

  1. 薬はきちんと服用する
    自覚症状が改善しても潰瘍の治癒には約6~8週間かかるので、きちんと処方薬を服用しましょう。自己判断で服薬を中止するのは危険です。
  2. 規則正しい生活を心がける
    喫煙・強いストレス・刺激物の過度摂取などを避けて、規則正しい生活を心がけましょう。また、消化の良い軟らかい食事を少量ずつ摂取することが望ましく、欧米ではミルクやバニラアイスクリームが勧められています。
  3. 合併症に注意する
    潰瘍からの出血・下血や穿孔には十分注意しましょう。

まとめ

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者さんは年々減少傾向にありますが、それでも年間2,500人程度の方が潰瘍による出血や合併症で命を落としています。現在は潰瘍治療薬の進歩により早期に発見し適切な治療を行えば、命に関わることはほとんどありません。また、ピロリ菌の除菌により、潰瘍が再発しにくくなることも分かってきました。
当院では「つらくない胃カメラ」を目指し、少しでも患者さまが楽に検査を受けられるような環境を整えています。みぞおちの痛み・黒い便などの症状が続く場合には、お気軽に当院までご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医