手術前後を除き、基本的に食事制限はありませんので、通常のお食事を摂ることが可能です。
ただし、がんが大きくなり、腸が狭くなっている場合は腸閉塞を起こさないために食物繊維が多い食品(豆類、海藻類など)や消化の悪い食品は避けるようにしましょう。
また、手術後はお粥などの消化の良いものから食事を再開しますが、1か月程度で通常の食生活に戻すことができ、人工肛門(ストーマ)になった場合でも特に食べられないものはありません。
大腸がんとは、大腸に発生する悪性腫瘍のことです。
大腸の一番内側にある粘膜から発生する大腸がんは、腫瘍の発生する部位によって呼び名が変わり、「直腸(ちょくちょう)がん」と「結腸(けっちょう)がん」の2つに分類されます。
大腸がんは、50歳前後から患者数が増え始め、年齢を重ねるにつれて発症数が増加するのが特徴です。日本国内では、患者数が急速に増えているがんの一つですが、早期に発見し、適切な治療を行うことで、完治できる確率が高まります。
大腸は、小腸と肛門を繋ぐ腸管で、食事で摂り込んだ食物を消化・吸収する消化器の一つです。
長さ1.5~2m、直径5~7cm程の大きな臓器である大腸は、小腸の周りを時計回りに取り囲み、結腸と直腸の2つの部分で構成されています。結腸はさらに細かく「盲腸」「上行(じょうこう)結腸」「横行(おうこう)結腸」「下行(かこう)結腸」「S状結腸」に分けられています。
大腸の中には、小腸で栄養分が吸収された後の食べカスや剥がれ落ちた腸内の細胞、多くの細菌などが含まれています。大腸の前半部分は、小腸で吸収された残り物の中から水分やミネラルを吸収して固形の便を作り、残りの後半部分はその便を蓄積して排便するしくみになっています。
大腸がんは、結腸や直腸の内側の粘膜に発生する悪性腫瘍で、ポリープ(良性の腫瘍)ががんに変化するケースと、粘膜に直接がん(悪性腫瘍)が発生するケースがあります。日本人の場合、特に便が長時間溜まりやすいS状結腸や直腸に発生するがんが多いことが知られています。
大腸の壁の一番内側にある粘膜に発生したがんは、徐々に壁の奥深くに侵入し、やがて大腸の壁の外側に達します。進行するとともにがんは腹腔内に散らばり、大腸の壁の中にあるリンパ液や血液の流れに乗って肺などの臓器に転移し、その臓器でさらに増殖していきます。
高齢化が進み、食習慣も大きく変化している日本では、大腸がんの患者数も右肩上がりに増えています。しかし、大腸がんは症状が出る前の早期に発見して治療を行えば、治すことができるがんであり、転移のない早期がん(限局がん)の5年相対生存率*1は90%を超えています。
できるだけ早く大腸の異常に気付いて治療に繋げるためにも、発症が増え始める40代以降は症状の有無に関係なく、定期的に検査を受けておくことが大切です。
*1 5年相対生存率:相対生存率とは、がんと診断された場合に治療でどのくらい命が救えるかを示す指標で、5年後の相対生存率がよく使用されます。
大腸がんは、女性よりも男性に多く発症するがんで、40代以降、徐々に患者数が増え始め、50代、60代と年齢が上がっていくにつれて増加します。
2018年に行われた調査によると、男性は前立腺がん、肺がんに次ぐ3番目、女性は乳がんに次ぐ2番目に罹患数の多いがんであり、新しく大腸がんと診断された患者さんは年間で15万人*2を超えています。また、大腸がんが原因で亡くなる人の数は年間5万人を超え、がんによる死亡者数が男性では肺がん、胃がんに次ぐ第3位、女性では第1位となっています*3。
*2厚生労働省 平成30年 全国がん登録罹患数・率報告
*3令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況
大腸がんの発症には、食事や生活習慣が深く関係しています。
近年、日本では食の欧米化が進んでおり、「高脂肪・低線維」の食事が増えていることや飲酒、肥満の増加などが大腸がんの患者数増加と深い関係があると考えられています。
また、大腸がんの中には遺伝的な要素で発症するケースもあり、ご家族に大腸がんの患者さんがいる場合は発症のリスクが高くなるため注意が必要です。その他、大腸内に良性の腫瘍(ポリープ)がある方や、長期間に渡り潰瘍性大腸炎を患っている方などの発症が多いのも特徴です。
大腸がんのおもな症状には、便に血が混じる(血便、下血)、腹痛、便通異常(便秘、下痢)などがあります。しかし、早期は自覚症状が出ないケースが多いことや、他の消化器疾患(痔など)に症状がよく似ていることなどから、発見が遅れるケースもあり注意が必要です。また、大腸がんの場合、がんの発生する部位やがんの大きさによって現れる症状が微妙に異なるのが特徴です。
盲腸や上行結腸、横行結腸といった右側の結腸は、比較的腸管が太く、腸内の内容物もまだ液状のため、便通異常などの自覚症状は出にくいのが特徴です。がんが大きくなり、腹部にできたしこりや貧血による全身倦怠感などが現れ、初めて症状に気付くケースが多いです。
下行結腸やS状結腸などの左側の結腸は、腸管が狭く、便もすでに固形化しているため、便秘や下痢などの便通異常が起こりやすく、腹痛や腸閉塞(イレウス:腸管の内容物が詰まって肛門に移動できない状態)などの症状を伴うケースが多いです。
肛門に近い直腸にできたがんは、血便が出ることで異常に気付くケースが多いです。
比較的、鮮やかな色の血液が便に付着するのが特徴で、がんが大きくなって腸管内が狭くなると、便が小さくなったり(狭小化)、残便感が残ったりするようになります。
通常の大腸がん検診で行われる「便潜血検査」で陽性になった場合(採取した便の中に血液が混じっている)や、腹痛やお腹の張り、便通異常などの異常が続き、大腸がんが疑われる場合には以下のような検査を行います。
肛門から直腸の中に指を差し込み、その感触でしこりの有無やその他の異常がないかを調べる検査です。
肛門から内視鏡を挿し込み込み、直腸、結腸、盲腸までを詳しく調べる検査です。
ポリープが見つかった場合には、その病変の一部もしくは全体を採取し、病理診断(生検)を行うことで大腸がんの診断を行うことが可能です。
当院の大腸カメラ検査では、「NBI(狭帯域光観察)」と呼ばれる内視鏡診断システムを導入しています。NBIとは「Narrow Band Imaging」の略で、青や緑などの短い波長の光を照射して行うのが特徴です。波長の短い光には消化器の粘膜表層の血管を鮮やかに浮かび上がらせる性質があることから、通常の光では見えにくい早期の大腸がんも発見できるのがメリットです。
肛門から造影剤や空気を入れてX線撮影を行う検査です。腸管の形状やがんの位置や大きさ、腸の内腔の狭さなどを調べます。
精度を高めるため、検査前に下剤を服用して腸管をきれいにしてから検査を行います。
肛門から炭酸ガスを入れ、CT撮影を行う検査です。がんのできた正確な位置や大きさ、形、腸の狭さなどを調べ、がんの進行状態(病期)を判定するために行いますが、近年では注腸造影検査の代わりに行うこともあります。
精度を高めるため、検査前に下剤を服用して腸管をきれいにしてから検査を行います。
採血を行い、がんの種類より産生される特徴的な物質を測定します。大腸がんの腫瘍マーカーには「CEA」「CA19-9」「p53抗体」があります。ただし、この検査で確定診断を行うことはできず、病期(ステージ)の判定や治療後の再発の有無、薬物療法の効果を判定するために行う検査です。
※上記の検査以外にも、転移の有無などを調べるために、必要に応じてMRI、PET、腹部エコーなどを行うこともあります。
大腸がんの進行度は、 0~Ⅳ期の 5段階の病期(ステージ)に分類します。
大腸がんの治療には、以下の4つの種類があります。がんのステージ、患者さんのお身体の状態や年齢、合併症の有無などを考慮して治療方針を決定します。
肛門から小型カメラとライトが付いた細長い内視鏡を挿入し、がんを摘出する治療です。
開腹の必要がないため患者さんの身体への負担が少なく、早い回復を望めるのがメリットです。
早期がんで、がんが大腸の壁の内側の粘膜に留まっている、もしくは粘膜下層の浅い部分に留まっている軽度の浸潤がん(ステージ0~Ⅰ期の一部)の場合に検討する治療です。
がんや転移の可能性のある部分を直接切除する治療です。がんを完全に取り切ることで根治も期待できるため、大腸がん治療の中心となっています。手術は原則、ステージⅠ(粘膜下層に深く入り込んでいる高度浸潤がん)~ステージⅢまでの方が対象となりますが、手術方法により術後「人工肛門(ストーマ)」が必要になるケースもあります。また、ステージⅢの方は再発予防のため、抗がん剤を使用する「術後補助化学療法(アジュバント療法)」や放射線治療が必要になります。
薬剤の点滴や内服でがんの増殖を抑えたり進行を遅らせたりする治療です。
おもに手術ではがんが取りきれないステージⅣの方が対象となりますが、ステージⅢの方が手術後の再発を予防するために行う場合もあります(アジュバント療法)。
薬物療法で使用される薬には以下の3種類があります。
薬物療法では、倦怠感や食欲不振、脱毛、腹痛、下痢、吐き気、口内炎、味覚の変化、手足のしびれ、めまいなどの副作用が起こることがありますが、その症状や程度には個人差があります。
エネルギーの高い放射線を照射してがん細胞を破壊し、がんを消滅または小さくする治療です。
直腸がんの治療で人工肛門を避ける場合に行うほか、再発予防、また再発時の症状緩和などを目的に行うこともあります。
放射線治療では照射部位の皮膚が赤くなるほか、腹痛や吐き気、下痢、倦怠感、食欲不振などの副作用を伴います。また、患者さんによっては、治療終了後数か月~数年経過後に照射部の臓器の異常や、頻繁な便意、便が漏れるといった症状が出ることもあります。
※上記のような治療の効果が少なく、患者さんの体力が治療に耐えられないと考えられる時は、痛みのコントロールなど、患者さんの生活の質を高める治療(対症療法・緩和ケア)を優先します。
手術前後を除き、基本的に食事制限はありませんので、通常のお食事を摂ることが可能です。
ただし、がんが大きくなり、腸が狭くなっている場合は腸閉塞を起こさないために食物繊維が多い食品(豆類、海藻類など)や消化の悪い食品は避けるようにしましょう。
また、手術後はお粥などの消化の良いものから食事を再開しますが、1か月程度で通常の食生活に戻すことができ、人工肛門(ストーマ)になった場合でも特に食べられないものはありません。
手術によって起こる合併症は、がんの種類によって異なります。
結腸がんでは結腸の一部を切除しますが、残っている腸が水分の吸収を行うことができるので、後遺症はほぼありません。一方、直腸がんで直腸の一部を切除すると、便を溜めたり押し出したりする力が損なわれてしまうため、排便の回数が増えるといった排便障害が起こりやすくなります。
大腸がんを早期に発見するためには、症状がなくても定期的に検診を受けることが大切です。
血便や腹痛などの症状がある場合や、がん検診で陽性になった場合も放置せず、早期に受診して精密検査を受けるようにしましょう。
つらいと思われがちな大腸カメラ検査ですが、当院では鎮静剤を用い、痛みの少ない検査を実施しています。また、検査時に二酸化炭素を使った送気を行うことで、検査後に残りやすい腹部の不快感を軽減することも可能です。
大腸カメラ検査には紹介状は不要ですがご予約が必要です。検査前には腹部の診察と詳しい検査の説明など行いますので、ご不明点や不安なことなどがあればお気軽にご相談下さい。