疾患
disease

大腸ポリープ(大腸腺腫)

大腸ポリープとは、1つの病名を現すものではなく、大腸の粘膜の一部が内腔(内側)に飛び出し、イボのように出っ張った病変の総称です。
大腸ポリープの多くは良性で、特に治療の必要がないケースもありますが、中には早期のがんや、将来がんになるリスクが高いタイプもあるため注意が必要です。

大腸ポリープは自覚症状がほとんどないため、ご自身で大腸の検査を受けないと見つけることができません。症状の有無に関わらず40歳を過ぎたら定期的に検査を受けて、大腸の詳しい状態を調べておくことをおすすめします。

大腸ポリープとは

大腸は小腸と肛門の間にある食物を消化・吸収する消化器の1つです。
私達が食べた物は、小腸で栄養分を吸収した後、大腸に送られ、大腸では残った食べ物の中から水分やミネラルを吸収して固形の便を作り、肛門から体外に排出するしくみになっています。

大腸は、盲腸、結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、直腸という3つの部位から構成されており、これらの部位に発生するできものを「大腸ポリープ」といいます。
大腸内の粘膜に発生するポリープは、丸くて盛り上がったものや平たいもの、凹んでいるものなどいろいろな形状があり、数㎜程度のものから3㎝を超えるものまで大きさもさまざまです。
また、1つだけポツンと単独で発生する場合もあれば、100個以上のポリープが多発するようなタイプもあります。
小さいポリープはほとんど症状がなく、そのまま放置しても問題ない場合が多いのですが、一部のポリープは徐々に大きくなり、将来、「腺がん(大腸内の表面を覆う組織にできるがん)」を発症する可能性があるため、詳しい検査でポリープの状態を調べる必要があります。

40代以降、患者数が徐々に増加する大腸がんは、食事や生活習慣に深く関連して発症するがんであり、食の欧米化が進む日本では近年、急激な患者数の増加が問題になっています。
最初から悪性腫瘍として発生する胃がんや食道がんとは異なり、大腸がんは良性のポリープが徐々にがん化することが多いのが特徴です。
実際、大腸に発生するがんの9割以上は腺がんが占めていることから、がん化するリスクの高いポリープを早期に切除しておくことが、将来、大腸がんの発症を予防すると考えられています。

図:大腸ポリープ イメージ


大腸ポリープの種類

大腸ポリープは、その性質により「腫瘍性」と「非腫瘍性」の大きく二つに分けられます。

腫瘍性ポリープ

腫瘍性ポリープは自ら増殖して大きくなる性質を持っているのが特徴で、悪性の「がん」と良性の「腺腫性ポリープ」の2種類があります。

  • がん
    いわゆる「大腸がん」であり、進行すると命に関わることがあります。
    大腸がんの多くは「腺組織」と呼ばれる上皮組織から発生する「腺がん」であり、ごく早期のものは、大腸ポリープとして切除した後の詳しい病理検査で悪性のがんと判明する場合もあります。
  • 腺腫性ポリープ(アデノーマ)
    大腸の粘膜上皮にある「腺細胞(分泌機能のある細胞)」が異常をきたして増殖したもので、最も発生頻度の高いポリープです。
    基本的に良性ですが、徐々に大きくなるような場合は悪性化してがんになる可能性があります。腺腫の成分ががんの成分に置き換わるまでには数年かかると言われており、特に10㎜以上になるとがんを発症するリスクが高くなります。
    ただし、全ての大腸がんが腺腫性ポリープから発生するわけではなく、最初からがんとして発症するものもあれば、小さくてもがんの成分を含んでいるものもあります。

非腫瘍性ポリープ

非腫瘍性ポリープは、腸内の強い炎症や加齢、正常な細胞の過剰増殖などが原因で発生するポリープです。特に大きいものや多発するなど特殊なケースを除き、がんになる心配はほとんどないため、基本的に治療の必要はありませんが、出血を伴う時などは切除を行う場合もあります。

  • 炎症性ポリープ
    「潰瘍性大腸炎」「クローン病」といった大腸の炎症性疾患になった後、粘膜が再生される際に増えた細胞がポリープになったものです。
  • 過形成ポリープ
    加齢などにより、粘膜が盛り上がってできるポリープです。5㎜以下で、直腸に発生するケースが多いのが特徴です。
  • 過誤腫性ポリープ(若年性ポリープ
    大腸内の正常な粘膜が過剰に発育してポリープ状になったもので、小さなお子さんに発症する「若年性ポリープ」などがあります。ポリープが大きくなると自然に脱落し、出血(血便、下血)を伴う場合があります。

大腸ポリープの症状

大腸内にポリープができている場合でも、患者さん自身の自覚症状はほとんどありません。
ただし、ポリープが大きくなった場合やポリープのできた位置が肛門に近い場合は、便に血が混じったり粘液のようなものが便に付着したりすることがあります。

また、頻度は低いですが、大きくなったポリープが肛門の付近で大腸を塞ぎ、「腸重積(ちょうじゅうせき:腸管の一部が隣り合う肛門側の腸管に引き込まれて詰まってしまう病気)」を起こしたり、ポリープが肛門から飛び出てしまったりするケースもあります。

大腸ポリープの原因

大腸ポリープは遺伝子の異常によって起こるものですが、その発症には以下のようなさまざまな要因が複雑に関係していると考えられています。

  • 加齢
  • 食習慣
  • 飲酒量
  • 喫煙
  • 遺伝・家族歴

大腸ポリープは50代以降で、高脂肪・低線維質の食事に偏っている方や、飲酒や喫煙習慣のある方などに多く発症する傾向があります。
また、家族に大腸がん患者がいる方は、生活習慣が似ていることで発症リスクが高くなるほか、遺伝的要因による「家族性大腸腺腫症(FAP)」という疾患が原因になる場合もあります。
FAPは、大腸内に数百~数千個以上のポリープ(ポリポーシス)が発生し、やがてそれが悪性化して大腸がんを発症する疾患です。早い方では10代からポリープが現れ、35歳では95%の方がポリープを発症します。放置していると、ほぼ100%の方が大腸がんを発症することから、がんを発症する前に大腸の切除手術を行う必要があります。

大腸ポリープの診断・検査

大腸ポリープの診断には、必要に応じて以下のような検査を行います。

問診

医師が自覚症状の有無や便の状態、既往症、家族歴、服薬などについて詳しいお話を伺います。

直腸診

医師が肛門から直腸内に指を入れ、大腸内のしこりの有無やその他の異常がないかを調べます。

便潜血検査

2日分の便を採取し、便の中に血液が混じっていないかを調べる検査です。
手軽に行うことができるのがメリットですが、切れ痔などの腸の疾患でも陽性となることがあるため、陽性反応が出た場合は精密検査として大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を行う必要があります。

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

肛門から内視鏡(大腸カメラ)を入れ、大腸の内部(直腸・結腸・盲腸)を詳しく調べる検査です。
直接、大腸内部の状態を目で見て確認できることから、早期の大腸がんやがんになるリスクの高い腺腫性ポリープを発見することが可能です。
また、腫瘍性ポリープが見つかった場合は、確定診断のために病変の一部の組織を採取して病理検査を行うほか、検査時にポリープを切除することも可能です。

当院では「NBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)」技術を搭載した大腸カメラを導入しています。青や緑といった波長の短い光を使用して大腸の粘膜表層の血管をクリアに浮かび上がらせることで、通常光では見えないごく早期の病変も発見できるのが大きなメリットです。

注腸(ちゅうちょう)X線検査

肛門から造影剤(バリウム)と空気を入れてX線撮影を行う検査です。
バリウムを使用することでポリープの形や大きさ、場所などを正確に調べられるのがメリットですが、大腸の管が重なっている場合などは診断が難しい場合もあります。
痛みや癒着などで内視鏡検査ができない場合に行われることが多いですが、組織を採取したり、ポリープを切除したりすることはできません。

大腸CT(CTコロノグラフィー)

肛門から炭酸ガスを入れ、CT撮影を行う検査です。
コンピューター処理で3次元画像を作成し、ポリープの正確な大きさや形、位置などを調べます。
痛みや癒着などで内視鏡検査ができない場合に行われることが多いですが、組織を採取したり、ポリープを切除したりすることはできません。(当院では検査できません。)

大腸ポリープの治療

6㎜以上の腺腫性ポリープは、将来がんになるリスクが高いと考えられるため、切除を行います。
5㎜以下のポリープは、今後大きくなる可能性があるため、定期的に経過観察を行いますが、小さいポリープでも悪性かどうかの判別ができない場合やクレーターのようないびつな形をしている場合は切除を検討します。
その他、非腫瘍性ポリープでも、出血などの症状を伴う場合には切除を行うことがあります。
大腸ポリープの治療には「内視鏡治療」と「外科手術」があり、病変の大きさや形などによって最適な方法を選択します。

内視鏡治療

  • ポリペクトミー
    ポリープの茎がある場合、根元に「スネア」と呼ばれる輪っか状のワイヤーを引っかけて切り取ります。
  • 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
    ポリープの下に生理食塩水などの液体を注入し、切除する部分を盛り上がらせた後、輪っか状のスネアで挟み込んで切り取ります。
  • 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
    スネアでは取り切れない大きなポリープは、「ESD」と呼ばれる電気メスでポリープをはぎ取るように切除します。

外科手術

  • 開腹手術
    腹部を10㎝程度切り開き、ポリープのある部分の腸を切り取り、残った腸を繋ぎ合わせます。
    腹部の臓器が癒着を起こしているような場合に行います。
  • 腹腔鏡手術
    腹部に数か所穴を開け、内視鏡と「鉗子(かんし)」と呼ばれる細長い手術用の器具を挿入し、ポリープができた部位の腸を切り取り、残った腸を繋ぎ合わせます。
    開腹手術に比べて傷が小さいのがメリットで、術後の痛みも軽減することが可能です。

治療後の注意

内視鏡治療や外科手術後、しばらくは出血の可能性があります。
日常生活において以下のようなことに気を付けましょう。

  • 刺激の強い食品(香辛料など)を避ける
  • 食べ過ぎに気を付け、消化の良い食事を心がける
  • 飲酒を控える
  • 肉体労働や激しい運動を控える
  • 長時間の入浴を控える

よくある質問

大腸ポリープの切除手術は日帰りで受けられますか?

大腸ポリープの多くは日帰り切除が可能で、大腸カメラの検査時に切除することもできます。
ただし、がん化の可能性が高い場合や切除時に出血の可能性が高い場合には、入院して切除を行う必要があります。
当院では、入院による切除が必要と判断した場合、さいたま赤十字病院などの地域の基幹病院を紹介させていただきますのでご安心ください。

大腸ポリープは再発しますか?どのくらいの間隔で検査を受けたらよいですか?

ポリープは一度切除しても、再度発生する可能性がありますので、定期的にフォローアップ検査(便潜血検査・大腸カメラ検査)を受けて、大腸の状態を確認する必要があります。
検査を受ける間隔は、大腸の状態やポリープの大きさ、タイプなどによって異なりますので、担当医師の指示に従ってください。

大腸ポリープを予防するにはどのような事に気を付けたら良いでしょうか?

大腸ポリープは、大腸がんと同様に食生活による影響を多く受けますので、日頃から栄養バランスの良い食事を適切に摂ることが重要です。肉類などの動物性脂肪やタンパク質の多い食べ物を減らし、野菜やキノコ、海藻、穀類などで食物繊維をしっかり摂るように心がけましょう。
その他、適度な運動を取り入れて適正体重を保つことや、禁煙、過度の飲酒を控えることなども大切です。

市町村や職場で行われる大腸がん検診は大腸ポリープの発見にも有効ですか?

企業や自治体で行われる大腸がん検診(対策型大腸がん検診)は、40歳以上の方が対象で、1年に1度の受診が推奨されています。
大腸がん検診では、まず便の中に血液が混ざっていないかを調べる「便潜血検査」を行います。
便潜血検査は、大腸の異常を広く拾い上げるための「スクリーニング検査」であり、陽性になった場合には精密検査である大腸カメラ検査を行うことになります。
実際、自覚症状のない大腸ポリープは、大腸がん検診で陽性になった方が大腸カメラを受けて見つかるケースがほとんどです。大腸がんの発見はもちろん、前がん状態の大腸ポリープを早期に見つけるためにも、年に一度は必ず検診を受けましょう。

まとめ 

大腸カメラはつらい検査だと思われている方が多いですが、当院ではご希望に応じて鎮静剤を用いるため、リラックスして検査を受けていただくことが可能です。
また、検査時に行う腸管内への送気は、空気の代わりに二酸化炭素(炭酸ガス)を使用することで検査後の腹部膨満感や不快感を軽減するなど、患者さまのストレスやお身体の負担を軽減するためのさまざまな取り組みを行っていますので、検査をご希望の方はお気軽にご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医