慢性膵炎は、食事や生活習慣によって症状が強くなったり、病気が進行したりするため、日々の生活を見直し、病気を上手くコントロールすることが必須です。日常生活において以下のようなことに気を付けましょう。
- 禁酒・禁煙を徹底して行う
- 脂っこい料理や香辛料の刺激物の摂取を控える
- 消化の悪い食品は避け、よく噛んでから食べる
- ストレスを溜めないようにする
- 規則正しい生活を送る
- 症状が落ち着いている時でも処方された服薬を守り、定期的に健診を受ける
慢性膵炎とは、膵臓の炎症が長く続き、正常な細胞が破壊されて膵臓の機能が低下していく病気です。膵臓の組織が徐々に硬い線維成分に置き換わり、膵臓内に「膵石(すいせき)」と呼ばれる石ができることもあります。
慢性膵炎は40~50代で発症することが多く、たびたび起こる腹痛で日常生活に大きな支障をきたします。また、病気が進行して膵臓の機能が失われると、栄養障害や糖尿病の発症など身体にさまざまな不具合が起こります。
慢性膵炎は発症すると完治することはなく、長期にわたり病気と付き合っていくことになります。
症状の悪化を防ぎ、膵臓の機能を保つためにも、適切な治療で病気を上手くコントロールすることが重要です。
膵臓は、みぞおちの奥にある20㎝ほどの横長の臓器で、食物を消化・分解するための膵液(消化酵素*1)を分泌する「外分泌機能」と、血糖値をコントロールするホルモン*2を血液中に分泌する「内分泌機能」という2つの重要な働きを担っています。
*1 でんぷんを分解するアミラーゼ、脂肪を分解するリパーゼ、たんぱく質を分解するトリプシンが含まれる。
*2 膵臓で分泌されるホルモンには血糖値を下げるインスリンと血糖値を上げるグルカゴンがある。
膵炎とは、消化酵素を分泌する「外分泌腺細胞」に炎症が起きる病気です。
通常、膵臓で作られた膵液は、十二指腸に送られて食物の消化を行います。しかし、何らかの原因で膵臓に炎症が起きると、本来、食物の消化に使われるはずの膵液は誤って膵臓自体を消化してしまいます(急性膵炎)。この炎症が繰り返し断続的に起こると、正常な細胞は徐々に破壊されてしまい、壊れた細胞が硬い線維成分に置き換わると慢性膵炎に移行します。
線維化が進むにつれ、膵液の通り道である膵管は部分的に硬く狭くなります。膵液の流れが悪くなることでみぞおちや背中に鈍い痛みが生じるようになり、滞った膵液中のたんぱく質が固まって石ができることもあります(膵石症)。膵臓付近には多くの神経が通っているため、膵石によって膵液の流れがさらに悪化すると激痛が引き起こされるケースもあります。
慢性膵炎は発症後5~10年という長い時間の経過とともに徐々に進行し、膵臓の消化機能が失われてゆくにつれ、深刻な栄養障害(栄養失調や体重減少など)が起こります。
また、膵外分泌細胞以外にも影響が広がり、インスリンの分泌に支障をきたすと、血糖値のコントロールができなくなって糖尿病を発症し、膵臓癌を発症するリスクも上がるため、十分な注意が必要です。
慢性膵炎は、進行過程に伴い、以下の3つの病期に分けられます。
それぞれの病期によって症状にも変化が見られます。
慢性膵炎の初期の状態です。代償期のおもな症状は腹痛で、お腹の左上から背中にかけて痛みが出ることが多く、吐き気や嘔吐、腹部膨満感、身体のだるさなどを伴うこともあります。
この時期、まだ膵臓の機能は保たれているため、膵液が分泌されるたびに急性膵炎のような激しい腹痛の発作が起きるのが特徴です。特にお酒を飲んだ後や、脂肪を摂り過ぎた時などは膵液が大量に分泌されるため、腹痛が起こりやすくなります。
※但し、患者さんの中には全く痛みが現れず、無症状のまま進行するケースもあります。
膵炎が進行するにつれて膵臓の機能が徐々に衰えてきます。
分泌される膵液の量が減少するため、腹痛が徐々に軽くなるのが特徴です。
発症から5~10年程度経過し、膵臓の細胞が破壊され、線維化が進んだ状態です。
膵臓の働きが完全に失われると、膵液が分泌されなくなるため腹痛はさらに軽減(もしくは消失)します。しかし、消化機能が落ちることで下痢や油が浮いたような薄黄色のクリーム状の便(脂肪便)が出るようになり、十分な栄養が吸収できなくなるため体重が減少します。
また、次第に内分泌機能にも障害をきたしてインスリンの分泌が低下すると、血糖値のコントロールができなくなって糖尿病を発症します。
慢性膵炎には、飲酒が原因で起こる「アルコール性慢性膵炎」とそれ以外の原因で起こる「非アルコール性慢性膵炎」の大きく2つの種類に分類されます。
長期間にわたる大量の飲酒が慢性膵炎の最大の原因と言われており、アルコール性慢性膵炎は慢性膵炎全体の70%程度を占めています。特に男性に発症する慢性膵炎の多くは飲酒によるものです。
非アルコール性慢性膵炎には、急性膵炎後の変化や胆石症、ストレス、遺伝(家族性)などがあります。最近では喫煙も膵炎の発症や進行のリスクを高めることが分かっています。
遺伝子の異常によって起こる「家族性膵炎」は、若い年齢で発症するケースも多いのが特徴です。
ただし、非アルコール性慢性膵炎の中には、はっきりとした発症原因が分からないケースもあり、女性に発症する慢性膵炎の多くは原因不明の「特発性慢性膵炎」です。
腹痛や背中の痛み、消化不良などの症状から慢性膵炎・膵石の疑いがある場合には、必要に応じて以下のような検査を行います。
慢性膵炎の治療には大きく分けて以下の3つの種類があります。
それぞれの病期と膵臓の機能がどの程度維持されているかにより治療内容が異なります。
慢性膵炎の治療の基本は食事内容の見直しと生活習慣の改善です。
外分泌機能が保たれている代償期は、アルコールや脂肪の多い食品を摂取すると膵液の分泌が増えて腹痛が起こります。発作の頻度が高いほど症状が進行しやすいため、日常的に禁酒と脂肪分の低い食事を心がけて腹痛発作の回数を減らすことが大切です。
また、たばこも症状の進行に大きな影響を及ぼすため禁煙が必須です。
※腹痛の軽減する移行期や非代償期も、禁酒、禁煙、低脂肪食の摂取は継続します。
生活習慣の改善と食事内容の見直しを行っても症状が改善しない場合は薬物療法を行います。
代償期には、痛みを抑える「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」や炎症を抑える「たんぱく分解酵素阻害薬(点滴または内服)」の処方を行います。
一方、移行期や非代償期には分泌される消化酵素が減り、たんぱく質や脂肪の吸収ができなくなるため、「膵消化酵素剤」を服用して下痢や脂肪便などの消化不良による症状を抑えます。
また、糖尿病を合併している場合にはインスリンを補う治療も必要です。
膵管が細くなっている場合や、膵管内にできた石が膵液の流れを妨げて腹痛を引き起こしている場合には、外科的な治療を検討します。
病変が小さい、もしくは軽度の場合、内視鏡治療や体外衝撃波結石破砕術を行いますが、痛みが無くならない場合には手術を検討します。
内視鏡を使用し、狭くなった膵管を広げる治療や小さな膵石(5㎜以下)の除去などを行います。
専用の機械を使用し、お腹や背中などに衝撃波を当てて膵石を砕く治療です。
石を砕くために何度か治療を繰り返す必要がありますが、メスを使わずに行うことができるので合併症のリスクが比較的低く、外来での治療が可能です。(初回は入院が必要になります)
内視鏡治療やESWL治療でも痛みが治まらない場合には手術を検討します。
慢性膵炎の手術には以下のようなものがあります。
慢性膵炎の患者さんは、糖尿病を合併する場合が多く、カロリー制限が中心と考えられがちですが、進行するにつれて体重が減少するため、必要なカロリーや栄養はしっかり摂る必要があります。食事療法を行う際は、医師や栄養士にアドバイスを受けて適切な体重管理を行うことが大切です。
慢性膵炎の患者さんの食事のポイントは、しっかりと栄養を摂りながらも脂質の摂り過ぎに気を付けることです。脂肪の摂取を控えることにより、腹痛も起こりにくくなることが報告されています。
どのくらいの脂肪を摂取するかは、患者さんの病期や症状の有無によって異なります。
腹痛が起きている時には脂肪の摂取を厳しく制限しますが、症状がない場合は1日40~60g程度の脂肪を摂取することが可能です。(日本人の平均脂肪摂取:55~60g/日)
また、慢性膵炎の方は、膵臓の機能が低下するにつれて消化吸収能力が低下します。
生命維持に必要な必須脂肪酸や脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)の吸収も悪くなるため、食事療法を行う際は病状に合わせて、消化酵素薬の内服をしっかりと行っていくことが大切です。
※腹痛発作が強く、食事からの栄養補給が難しい場合には、脂肪を含まない栄養剤などを使用して、膵臓への負担を抑えながらカロリーや栄養分の補給を行います。
慢性膵炎は、食事や生活習慣によって症状が強くなったり、病気が進行したりするため、日々の生活を見直し、病気を上手くコントロールすることが必須です。日常生活において以下のようなことに気を付けましょう。
慢性膵炎は一旦発症してしまうと基本的に治ることはありません。
ただし、痛みが出始めた初期に食事や生活を見直し、適切な治療を行うことができれば、進行を抑え、膵臓の機能を保つことは可能です。慢性膵炎に合併することが多い膵がんの発症リスクも下がるため、病気が見つかった時には早期に受診し、根気強く治療を続けましょう。