成人スティル病(成人スチル病)は、関節炎・発疹・発熱・リンパ節の腫れなどを主な症状とする全身性の炎症疾患のことです。同様の症状が子どもに現れる「スティル病(現:全身型若年性特発性関節炎)」が16歳以降に再発および初発症した場合を合わせて「成人スティル病(ASD)」としています。今のところ、成人スティル病の原因や詳しい病態は分かっていないため、国による「指定難病」に認定されています。
現状、成人スティル病を完治させる根治療法はありませんが、ステロイド治療を基本として、症状の軽減・改善が期待できます。成人スティル病の生命予後は良好ですが、半数の患者さんで寛解(症状が落ち着いた状態)と再燃(症状がぶり返した状態)を繰り返すため、長く付き合っていく必要がある病気です。また、中には肝障害・心膜炎・胸膜炎など臓器障害の合併もみられるため、定期的検査は続けましょう。
当院では、成人スティル病患者さんの長期的なフォローを行っております。お気軽にご相談ください。
成人スティル病とは?
成人スティル病は1971年に初めて存在が報告された新しい疾患です。
厚生労働省で2010年に行わられた全国疫学調査によると、日本の成人スティル病患者さんは、4,760名と推定されており、人口10万人当たり3.7人です。男女比では、1:1.3とやや女性に多くみられます。16歳~35歳までの比較的若い世代に多いとする報告がありますが、日本では7割近くが35歳以上であり、平均発症年齢は46.5歳と報告されています。また、近年は65歳以上での発症が増加しています。
成人スティル病の症状
成人スティル病では、様々な症状が現れますが、代表的な症状は以下の通りです。
- 全身症状
「発熱」はほとんどの患者さんでみられます。夕方から夜にかけて38℃~40℃の高熱が急に出て、日中には解熱する「弛張熱(しちょうねつ)」が現れます。発熱に伴い、咽頭痛(喉の痛み)、全身倦怠感(だるい感じ)、食欲低下、体重減少などが現れることもあります。
- 皮膚症状
かゆみのない淡いピンク色の皮疹(サーモンピンク疹)が発熱と共に現れ、解熱すると消失します。ただし、出ない人もいます。
- 関節症状
発熱と共に関節炎が全身の複数の関節で非対称に現れます。関節リウマチとは異なり、手指の小関節より、膝・手(手首/肘)・肩・足などの大関節を中心にみられます。関節症状は一過性だけでなく、持続するケースもあります。
- その他
肝臓・脾臓(ひぞう)の肥大や薬剤性アレルギーを起こしやすくなることがあります。
成人スティル病の原因
成人スティル病のはっきりした原因は、まだ分かっていません。しかし、これまでの研究の中で、遺伝性素因となんらかの感染症を誘因として生じている、反応性の病態と考えられています。白血球の一部である単球やマクロファージ*1といった細胞が活性化して「炎症性サイトカイン(炎症を起こす物質)」を過剰産生することにより、体の中に強い炎症が起こり、高熱・関節炎などを引き起こしていると推定されます。
*1単球・マクロファージ:白血球の一種であり、感染防御に重要な細胞。細菌などの異物を捕食し分解することで、異物の一部を細胞表面に提示する(抗原提示)。単球が血管外の組織に移動すると「マクロファージ」と呼ばれる。
成人スティル病の検査・診断
成人スティル病の診断では、発熱・皮疹・関節炎などの原因となる他の疾患(リウマチ性疾患や感染症、血管炎、悪性腫瘍など)との鑑別が重要となります。
複数の検査によって似ている病気を除外した上で、診断基準に則り総合的に評価します。
成人スティル病の検査
成人スティル病で主にみられる症状(発熱・皮疹・関節炎)は、成人スティル病だけにみられる症状ではありません。そのため、原因となりうる他の疾患の可能性を除外するため、次のような検査を行います。
問診・視診
発熱・皮疹・関節炎などの自覚症状のほか、特に「弛張熱(午前よりも午後・夜に熱のピークがある)があるか?」について詳しくお伺いします。
血液検査
体の中で強い炎症が起こるため、白血球の顕著な上昇がみられます。
CRP値上昇、肝機能異常及びLDH値上昇、血清フェリチン上昇、血小板数の異常などがみられます。特に、疾患の活動性を表す「血清フェリチン値」が基準値の5倍以上(1000ng/ml以上)であれば、診断に有力とされます。
なお、抗核抗体・リウマチ因子など膠原病では陽性となることが多い「自己抗体」は、陰性となります。
他の疾患の可能性を除外するため、ほかにも細菌学的検査(血液培養など)、病理学的検査(組織の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)、画像検査(CT・超音波検査など)を必要に応じて行います。
※細菌学的検査や病理学的検査に関しては、さいたま赤十字病院などの基幹病院を必要に応じてご紹介します。
成人スティル病の診断
成人スティル病の診断基準にはいくつかありますが、日本では「Yamaguchiらの分類基準*2」が用いられることが多いです。
*2(参考)成人スティル病診療ガイドライン2017年版 P.29|厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班」
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001020/4/Adult_Stills_Disease.pdf
当院でも診断基準に則り、症状・血液検査・画像検査などから総合的に診断します。
上記の大項目中2項目以上に該当し、小項目を含めて5項目以上が該当する場合に「成人スティル病」と診断します。ただし、除外項目に一つでも該当する場合には、除外となります。
成人スティル病の治療
成人スティル病では、薬物療法により症状の緩和や病態の改善を目指します。
通常、症状から重症度分類を行い、治療内容を検討します。
- NSAIDs(非ステロイド消炎鎮痛剤)
軽症の方で症状緩和目的であれば、NSAIDs(非ステロイド消炎鎮痛剤)で対処することも可能です。
- 副腎皮質ステロイド
成人スティル病治療の基本は「副腎皮質ステロイド内服」です。
患者さんの重症度に合わせ、中~高用量の内服を2週間程度続けます(初期投与)。疾患の活動性が落ち着いてきたら、ステロイド量を少しずつ減らして低用量の服用を維持する維持療法を行います。なお、ステロイドの初期投与を行っても効果が不十分なケースではステロイド量を増量することがあります。
ただし、ステロイド薬の長期的服用では重い合併症が現れる可能性があり、副作用を予防するために胃薬・骨粗しょう・感染症対策のお薬を併用する必要となるので、当院では効果と副作用のバランスを考えながら、治療を行っております。
- 免疫抑制剤・抗リウマチ生物学的製剤<保険適用外>
副作用の影響でステロイド服用が難しいケース・ステロイド減量が難しいケース・減量すると再燃するケースでは「免疫抑制剤」や「抗リウマチ生物学的製剤」の併用を検討します。
成人スティル病は基本的に命に関わる病気ではなく、病気の経過は良好ですが、お薬の減量・中止によって再燃する方が多いため、根気よく病気と付き合っていきましょう。
また、炎症の長期化や悪化により、重篤な合併症を引き起こす場合もあるので注意が必要です。
成人スティル病の注意点
- 定期検査が必要
成人スティル病の第一選択薬は「ステロイド治療」です。成人スティル病の多くに有効ですが、ステロイド薬を長期内服すると、骨粗しょう症・糖尿病・高血圧・食欲亢進・肥満・白内障・緑内障などの様々な副作用を起こす可能性があります。定期的に検査を行い、健康チェックを受け続けることが大事です。
また、少しでも気になる症状がみられたら、早めに受診するようにしましょう。
- 規則正しい生活を送るよう注意する
成人スティル病は他の自己免疫疾患同様に、バランスの良い食事・十分な睡眠・適度な運動・禁煙・アルコールの節制・ストレス発散を心がけましょう。肉体的ストレスだけでなく、精神的ストレスも症状を悪化させる要因となります。
- 感染症対策をする
成人スティル病は、細菌・ウイルスの感染によって発症・増悪する(悪化する)可能性がある上、ステロイド治療の副作用で感染症にかかりやすくなるため、治療中は「うがい・手洗い・人込みを避ける」などの基本的な感染対策を取りましょう。また、アレルギーなど受けられない特別な理由がある場合以外、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどの予防接種を受けると良いでしょう。
よくあるご質問
どんな症状があれば、成人スティル病を疑えば良いのでしょうか?
患者さんご自身で、成人スティル病を疑って受診することは難しいでしょう。
とはいえ、成人スティル病では「夕方~夜間の熱は高いのに、昼間は平熱となる」といった特徴的な発熱のパターンがみられます。また、発熱時にじんましんのようなサーモンピンク色の皮疹や関節炎が出て、解熱と共に消えるという傾向もあります。そういった症状を繰り返す場合には、リウマチ専門医による診断を受けることをおすすめします。なお、受診の際には、朝晩の体温を測った記録、撮影した皮疹の写真などを持参いただくと、問診時の参考になります。
そのほか、気になる症状が現れた際には、念のため医療機関を受診されると良いでしょう。
成人スティル病に合併しやすい病気はありますか?
成人スティル病には、次のような合併症があります。
- 胸膜炎……
肺の周囲に水が溜まる病気
- 心膜炎……
心臓の周囲に水が溜まる病気
- 間質性肺炎……
肺が固くなり、呼吸が苦しくなる病気
- アミロイドーシス……
炎症タンパクが様々な臓器に沈着して、臓器障害を起こす病気
ほかにも、小さな血栓が全身のあちこちにできる「播種性血管内凝固症候群(DIC)」や、マクロファージ・単球などの白血球が制御できないほど活性化して、自分の血液細胞を食べたり炎症性サイトカインを大量産生して強い炎症を起こしたりする「マクロファージ活性化症候群(MAS)/血球貪食症候群(HPS)」といった重篤な合併症を引き起こすことがあります。これらの病気の合併頻度は10~15%程度と、他の病気の合併頻度と比べて高いです。
まとめ
成人スティル病の病態はまだ不明点が多く、国内外で様々な研究が行われている最中です。生命予後は良好とはいえ、長期的な治療を必要としている病気であり、国の指定難病にも認定されています。今のところ完治は難しい状況ですが、症状緩和・改善にステロイド治療が有効なので、症状が落ち着いた状態の持続を目標として、治療を進めていきます。なお、3割程度の患者さんは初期治療で症状が落ち着けば、その後再発しないとされています。
当院ではリウマチ専門医が在籍していますので、成人スティル病を含む膠原病に対し、丁寧な診療を心がけています。また、症状の改善はもちろんのこと、治療薬による副作用とうまく付き合い、患者さんが病気と共存しながら日々の生活を楽しむためのサポートをしてまいります。病気や生活に対する不安・悩みなど、何かお困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。
記事執筆者
しおや消化器内科クリニック
院長 塩屋 雄史
職歴・現職
獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)
専門医 資格
日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医