胆のう腺筋腫症は「アデノミオマトーシス」とも呼ばれ、胆のうの壁が厚くなる「良性」の病変です。胆のう内に結石(胆石)ができたり、胆のう壁の内部に袋状の空洞(RAS)が増殖したりする特徴があります。通常、発症しても自覚症状がなく、健康診断や人間ドックなどの超音波検査(エコー検査)で偶然発見されることの多い病気です。
好発年齢は40代~60代で、人間ドックで発覚した人の割合を見てみると、男性0.43%・女性0.2%と、やや男性に多くみられるとする調査結果があります。
無症状でかつ、がん化の疑いがない場合には治療不要であり、超音波検査(エコー検査)などで定期的な経過観察を行っていきます。一方で、胆のう炎を起こすと、腹痛・背部痛・吐き気・腹部膨満感などの症状が現れます。有症状、胆石・胆のう炎の合併、「胆のうがん」との鑑別が難しい場合などでは、外科的手術による胆のうの摘出術が必要となります。近年は体への負担が少ない「腹腔鏡手術」が主流となっており、手術することにより良好な経過が得られます。
健康診断・人間ドックで「胆のう腺筋腫症」を指摘された方は、一度お気軽にご来院ください。
胆のう腺筋腫症とは?
胆のうとは、袋状の形をした臓器で、肝臓と十二指腸を繋ぐ管(胆管)の途中にあります。
肝臓で作られた胆汁(たんじゅう)を一時的に50~60ml程度蓄え、濃縮する働きをしています。
胆のう腺筋腫症の特徴
胆のう腺筋腫症では、胆のう壁の内部に袋状の空間「RAS(ロキタンスキー・アショフ洞)」ができ、RASが増殖・拡張することで胆のう壁に部分的または全体的な厚みが生じます。また、胆のう内に胆石(結石)ができることもあります。
胆のう腺筋腫症の分類
胆のう腺筋腫症では、胆のうの全体または部分的に分厚くなりますが、病変が現れている部位や広がり方によって、次の3つに分類されます。
- 限局型(底部型)
胆のうの底(胆管接続部とは反対側)を中心として、限られた範囲で胆のう壁が厚くなっているタイプ
- 分節型(輪状型)
胆のうに「くびれ」ができて、2つに分節したタイプ
- びまん型(広範型)
胆のう壁の広範囲で厚くなるタイプ
なお、発症の頻度は、限局型>分節型>びまん型の順に多いとされます。
ほとんどの胆のう腺筋腫症は経過観察で良いのですが、痛みなどの症状が現れたり、良性/悪性との鑑別が難しかったりするケースもありますので、健康診断などで「胆のう腺筋腫症」のご指摘を受けた場合には、一度ご受診ください。
胆のう腺筋腫症の原因
胆のう腺筋腫症の原因は、今のところはっきり分かっていません。
加齢・性に関連した内分泌の影響による胆のう組織の増殖性変化、胆のう内圧の上昇など、諸説あるとされています。
胆のう腺筋腫症の症状
胆のう腺筋腫症では、通常、症状が現れません。しかし、胆石ができたり、胆のう炎を伴ったりすると、周期的にみぞおちを中心とした激しい痛み(疝痛発作:せんつうほっさ)・右肩や背中の痛み・圧迫感・腹部膨満感などの症状が現れることがあります。また、胆のうがんの合併も少数ですが報告されています。
胆のう腺筋腫症の検査・診断
胆のう腺筋腫症の診断に有効な血液検査は、ありません。
一般的に、健康診断・人間ドックでの画像検査で偶然発見されることが多い病気です。
胆のう腺筋腫症の検査
問診
自覚症状や身体診察などを行います。
画像検査
- 腹部超音波検査(エコー検査)
胆のう腺筋腫症では、最初に行う検査に推奨されています。お腹にゼリーを塗り超音波プローブを当てて、胆のう壁の肥厚、RASや胆石の存在などを確認します。
- MRI検査
MRI検査は、電磁石を使って体内の臓器や血管を撮影する検査です。胆のう腺筋腫症においてはRASの描出に優れているため、腹部超音波検査で診断が付かない場合に実施することがあります。また、MRI装置で、胆のう・胆管・膵管(すいかん)を同時描出する「MR胆管膵管撮影(MRCP)」を行うケースもあります。
- 腹部CT検査
CTとはComputed Tomographyの略で「コンピュータ断層撮影」のことです。
超音波検査において、病変部が分かりづらい、悪性腫瘍(胆のうがん)が疑われるなどの場合に行うことがあります。
当院のCT装置には、最大50%のノイズ低減処理(被ばく低減再構成)ならびに患者さんの体形に合わせ撮影時に最適線量を自動調整する機能が搭載されています。
当院のCT検査の詳しい内容は、「CT精密検査ページ」にて説明しています。
そのほか、消化管(胃・十二指腸)の中から超音波検査を行う「超音波内視鏡(EUS)」や、膵・胆管合流異常を合併している症例には、内視鏡を使って胆管・膵管を造影する「内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)」などを実施することがあります。
※MRI検査(MRCP検査)やERCP検査が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。
胆のう腺筋腫症の診断
問診・画像検査などから他の病気が確認できず、画像検査により「胆のう壁の肥厚」「肥厚した胆のう壁の内部にRAS(もしくはRAS内部に結石)の存在」を確認できた場合には、「胆のう腺筋腫症」と診断します。
胆のう腺筋腫症の治療
胆のう腺筋腫症があっても、自覚症状がなく、胆のうがんが疑われないケースでは、積極的な治療は必要ありません。年1回程度の超音波検査を行い、経過観察とします。
ただし、症状があるなど、一部のケースでは治療が必要となります。
胆のう腺筋腫症で治療が必要なケース
次のようなケースでは、積極的な治療が必要となります。
- 腹痛・圧迫感などの症状がある
- 胆のうがんとの鑑別が困難な症例
- 胆石や胆のう炎を合併している
- RASが不明瞭な症例 など
胆のう摘出手術
胆石・胆のう炎の合併や自覚症状がある場合には、胆のうの摘出手術を行います。
近年は、小さい穴から治療ができ、開腹手術と比べて体への負担が少ない「腹腔鏡下」での手術が多くなっています。腹腔鏡下胆のう摘出手術は、日帰りもしくは1泊程度の入院で実施し、手術時間は1時間~2時間程度です。ただし、胆のうがんを合併するなど、一部のケースでは「開腹手術」となることがあります。
※胆のう摘出手術が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。
よくあるご質問
健康診断・人間ドックで「胆のう腺筋腫症」と言われました。特に症状がないのですが、病院を受診しないといけませんか?
はい。健康診断・人間ドックなどで「胆のう腺筋腫症」と指摘された場合には、念のため、3~6か月後に一度ご受診ください。
胆のう腺筋腫症は「良性病変」であり、無症状なことが多いため、基本的には治療の必要はありません。しかし、胆のう壁の肥厚は、「胆のうがん」でもみられる所見なので、鑑別が必要です。
健康診断・人間ドックなどで行われている腹部超音波検査(エコー検査)は、疾患を持っている可能性がある方を発見するための「スクリーニング検査」として機能しています。そのため、改めて詳しく調べて、本当に「胆のう腺筋腫症かどうか?」を判断する必要があります。また、診断後も胆のうに変化がないか、定期的に画像検査にて確認していきます。
胆のう腺筋腫症を早期発見するためのポイントは、ありますか?
胆のう腺筋腫症の発症原因は、今のところ、はっきり分かっていません。また、発症の危険因子についても明らかになっておらず、加えて自覚症状もないので、早期発見は難しい病気です。健康診断などで腹部超音波検査を受けて、定期的に胆のうの状態を確認すると良いでしょう。
まとめ
「胆のう腺筋腫症」という名前を初めて聞いた方も多いことでしょう。胆のう腺筋腫症は「良性病変」であり、特に症状がなければ心配する必要はありません。しかし、症状がないからと言って、別に受診しなくて良い病気ではありません。病変が本当に「胆のう腺筋腫症なのか?」「胆のうがんではないのか?」を確認しなければなりません。健康診断や人間ドックで「胆のう腺筋腫症」と指摘を受けた場合には、念のためご受診ください。また、胆石や胆のう炎の合併などがみられるため、診断後も定期的な画像検査で経過をチェックしていくことが大切です。
記事執筆者
しおや消化器内科クリニック
院長 塩屋 雄史
職歴・現職
獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)
専門医 資格
日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医