喘息(ぜんそく)は、「気管支喘息」とも呼ばれ、空気の通り道である気道が狭くなり、呼吸時にヒューヒュー・ゼーゼーと音が鳴り、激しい咳や呼吸困難などの発作を繰り返す病気です。
症状が進行して頻繁に発作が起こると、運動や睡眠などの日常生活に大きな支障をきたすようになり、重度の発作が長く続くと命に関わることもあるため、早期の治療で症状をコントロールし、病気の進行を抑えることが重要です。
喘息(気管支喘息)とは
喘息は、気道の慢性的な炎症により、空気が通りにくくなり、呼吸が苦しくなるのが特徴です。
発作時には激しい咳が止まらなくなり、話したり動いたりすることができなくなるケースもあります。
喘息は現代の日本人にとても多い病気の一つで、2017年に行われた厚生労働省の調査*1によると日本国内の喘息患者の総数は111万7000人に上っています。
喘息の発症には、家の構造の変化によるアレルゲンの増加や大気汚染、日常生活で使用する化学物質の増加といった環境要因のほか、体質や遺伝、肥満、感染症、過労やストレスといったさまざまな要因が複雑に関わっていると考えられています。
小さなお子さんの病気というイメージが強い喘息ですが、実際には大人になってから発症するケースも多く、特に高齢の方の場合は命に関わるケースもあるため注意が必要です。
*1厚生労働省 平成29年度患者調査(傷病分類編)
小児喘息のおもな特徴
小児の喘息は、2~3歳で6~7割、6歳までに8割以上が発症すると言われており、女の子に比べ、男の子の発症が1.5倍多くなっています。小児喘息の場合、そのほとんどがダニを原因とするアレルギーによって発症するのが大きな特徴で、成長とともに治癒または長期に渡り症状が消失するケースも多いですが、3割程度の方は成人まで症状を持ち越しています。
成人喘息のおもな特徴
成人の喘息は、小児喘息の持ち越しや再発といったケースもありますが、大人になって初めて発症する人が全体の7~8割を占めています。成人喘息の場合、男女比はあまり変わりませんが、その6割以上が40~60歳で発症しています。原因がはっきり特定できないケースも多いため、小児喘息よりも治療が難しく、重症化しやすいという特徴があります。</p
喘息の原因
喘息の人の気道には、アレルギーなどの原因により、慢性的な炎症が起きています。
そのため、気道の内側の粘膜はむくんで厚くなり、症状が出ていない時でも空気の通りが悪くなっています。また、非常に過敏な状態のため、わずかな刺激が入っただけでも敏感に反応して咳や痰が出るようになり、周囲の筋肉(平滑筋)が異常に収縮し、空気の通り道がさらに狭くなることで(気道の狭窄)、喘息の発作を引き起こします。
喘息の症状
喘息になると、ホコリや冷たい風などのちょっとした刺激をきっかけに咳や痰が出るようになり、激しく咳き込んで呼吸が苦しくなるという症状が繰り返し起こります。
発作時は、呼吸のたびに喉の奥が「ヒューヒュー」「ゼーゼー」と笛のように鳴る「喘鳴(ぜんめい)」が起こり、人によっては胸の痛みや圧迫感、動悸・息切れなどを伴うこともあります。
発作の起こりやすいタイミング・条件
喘息発作は、夜間や早朝の睡眠中に起こることが多く、激しい咳で目が覚めて眠れない場合もあります。また、気象条件や環境の変化などが引き金になって発作が起こることがあるほか、患者さんの体調によっても発作が出やすくなるため、日頃から体調管理をしっかり行い、コンディションを崩さないようにすることが大切です。
≪喘息が起こりやすい条件≫
- 夜間や早朝の眠っている時
- 季節の変わり目で気温差が激しい時や天気が急変した時
- 風邪をひいて体力が低下している時
- 過労やストレスが溜まっている時
- 刺激となる物質に接した時
喘息の種類
喘息は、発作がアレルギーによって起こるものと、それ以外の原因で起こるものの大きく二つに分類されています。実際の発作は1つの要因ではなく、いくつかの要因が複雑に関わりあって発症することが多いため、ご自身の喘息のタイプや特徴を理解し、日頃から適切な対策をしておくことが大切です。
アトピー型喘息
アレルギーを起こす特定の物質(アレルゲン)によって発症する喘息です。
口や鼻から入り込んだアレルゲンに対し、体内の「IgE抗体*2」という物質が反応することで発作が起こります。最も一般的な喘息で、小児喘息の7~9割、成人喘息の3割(混合型を含めると6割)がアトピー型です。アレルゲンの特定が可能なため、比較的予防しやすいのが特徴です。
*2 IgE抗体:異物が体内に入った時に排除するように働く「抗体」の機能を持つタンパク質
≪おもなアレルゲン≫
ダニ、昆虫、ハウスダスト、ペットの毛やフケ、カビ、食物(そば、卵白、小麦など)、花粉など
非アトピー型喘息
アレルギーが原因ではなく、何らかの刺激をきっかけに発症する喘息です。
小児の発症は少ないですが、成人喘息の約4割がこの非アトピー型と言われています。
原因がはっきり特定できないことが多いため、発作が起こる状況などを良く見極めて対策を行う必要があります。
≪発作のきっかけとなるもの≫
タバコ、アルコール、薬、運動、感染症、肥満、過労、ストレス、天気や気圧の変化、大気汚染など
※その他、風邪を引いた後などに長期間(3週間以上)咳症状が続く「咳喘息」もあります。
通常の喘息と同じように、感染や運動、喫煙、気候の変化、花粉などにより症状が悪化しますが、喘鳴や呼吸困難を伴わないため、正式な喘息ではなく喘息の前段階の症状と考えられています。
ただし、適切な治療を行わずに症状が長引くと本格的な喘息になってしまう可能性が高く、成人の場合では3~4割が喘息に移行すると言われています。
喘息の検査・診断
喘息の診断には以下のような検査を行い、重症度の判定や症状のコントロール状態を調べます。
診察・問診
症状の内容や発症の時期などを詳しく伺います。併せてアレルギーの有無、既往症、家族歴のほか、職業、喫煙や飲酒の有無、ペットの飼育状況などの生活環境の確認も行います。
呼吸や気道の状態を調べる検査
- 呼吸機能検査(スパイロメトリー)
「スパイロメーター」という検査機器で、空気の通り具合を調べる検査です。
喘息の診断の基本となる検査であり、息を思い切り吸った時の肺活量(努力性肺活量)と息を吐き終わるまでの時間とスピードを測定します。最初の一秒間で吐き出す空気の量は「1秒量(FEV1)」と呼ばれ、喘息の重症度の判定基準になります。 - 喀痰(かくたん)検査
気道の炎症を調べるための検査です。痰を採取し、「好酸球(こうさんきゅう:白血球の一つで炎症があると増加する)」や炎症によって剥がれた粘膜上皮が増えているかを確認します。 - 呼気NO検査
気道の炎症を調べる検査です。
気道に炎症があると呼気の中の一酸化窒素(NO)の濃度が高くなります。 - 気道過敏性テスト
喘息の発作を誘発する薬剤を吸入し、気道が狭くなるかを調べる検査です
アレルギーを調べる検査
- 血液検査
採血し、血液中のIgE抗体の量を測定してアレルギーの有無やアレルゲンの特定を行います。
また、血液中の好酸球を調べることも可能です。
呼吸器の異常の有無を調べる検査
- 胸部X線検査
X線で胸部の撮影を行い、喘息以外の呼吸器疾患や肺炎などを合併していないかを調べます。
※その他、必要に応じて心電図や心エコー、胸部CT、気管支鏡検査などを行うこともあります。
喘息の重症度
喘息は、症状の程度により以下の4つに分類されており、それぞれの重症度に応じてお薬の種類や量、組み合わせなどを決定します。
- 軽症間欠型
症状が軽度で週一回未満、夜間症状も月に2回未満である。 - 軽症持続型
症状が週に一回以上起こるが毎日ではない。月に1回以上、日常生活や睡眠に支障をきたし、夜間症状も2回以上起きる。 - 中等症持続型
症状が毎日あり、しばしば発作を抑える薬が必要になる。週に1回以上、日常生活や睡眠が妨げられる。 - 重症持続型
症状が毎日起こり、日常生活が制限される。夜間症状もしばしば起こり、治療をしても増悪する。
喘息の治療
喘息治療の目標は、発作を抑えるだけでなく、気道の炎症を抑えて発作が起こりにくい状態にすることです。実際の治療では、発作を引き起こす要因をできるだけ遠ざけ、規則正しい生活で体調管理を行うとともに、気道の炎症を抑えるための薬物療法を行います。
喘息の治療薬には、発作が起こらないようにする治療(コントローラー)と発作時に行う治療(リリーバー)の2つがあります。
コントローラー(長期管理薬)
気道の炎症を抑え、発作が起きないようにコントロールする薬です。
効果が出るまでに時間がかかりますが、継続することで気道の炎症が徐々に改善し、発作を起こりにくくする効果があります。
- 吸入ステロイド
強い抗炎症作用がある吸入薬で、気道の炎症を緩和させる効果があります。 - 長時間作用性β2刺激薬
狭くなった気道を広げる気管支拡張作用があります。吸入薬のほか、内服薬や張り薬があります。 - 吸入ステロイドと長時間作用性β2刺激薬の配合剤
吸入ステロイドと長時間作用性β2刺激薬を配合した吸入薬で、抗炎症作用と気管支拡張作用が同時に得られます。 - ロイコトリエン受容体拮抗薬
炎症やアレルゲンを引き起こす「ロイコトリエン」という物質の働きを阻止する薬で、気管支拡張作用と抗炎症作用があります。 - テオフィリン徐放製剤
気管支拡張作用と抗炎症作用のある内服薬で、徐々に溶けるので効果が長時間作用します。 - 抗IgE抗体
アレルギー反応のきっかけになる「IgE抗体」の働きを抑え、気道の炎症を抑える効果があります。
リリーバー(発作治療薬)
発作が起きた時、症状を抑えるために緊急的に使用する薬です。
狭くなった気道を広げる効果があり、即効性が期待できますが、根本的な治療にはならないため、リリーバーに頼り過ぎると、気道の炎症が進み、喘息の悪化に繋がります。
- 短時間作用性吸入β2刺激薬
強い気管支拡張作用があり、発作時の呼吸を素早く楽にできる吸入薬です。 - テオフィリン薬
即効性があり、気管支拡張作用と抗炎症作用の両方の効果が期待できる薬です。 - 経口ステロイド薬
内服薬のステロイド薬で、炎症の悪化を防ぎ、発作を鎮める効果が高いのが特徴です。 - 抗コリン薬
副交感神経の働きを抑え、気道を広げる吸入薬です。
よくある質問
症状が落ち着いている時は薬を減らしても良いですか?
喘息の治療は、ガイドラインによって重症度別の治療内容が決められています。
それぞれの重症度に合わせた治療を行い、症状が適切にコントロールできている時は、治療内容を変更して薬を減らしたり、種類を変えたりすることも可能です。
ただし、自己判断で減薬したり、治療を中止したりすると、症状が再発してリモデリング*3に繋がる可能性もあるため、医師の指示に従い、根気強く治療を進めていただくことが大切です。
*3 リモデリング:発作を繰り返すうちに気道の粘膜が厚くなり、気道が狭くなったままになって治療が難しくなる。
日常生活で気を付けることはありますか?
こまめに部屋の清掃をし、タバコを吸っている方はすぐに禁煙を行いましょう。(受動喫煙も含む)発作の引き金となる要因は、患者さんによってそれぞれ異なりますので、まずは、ご自身がどのような刺激に反応するのかを知り、できるだけその要因を寄せ付けないように環境を整えましょう。
また、風邪などによる体力の低下は喘息発作を引き起こす大きな誘因となります。
バランスの良い食事や適度な運動、十分な睡眠といった基本的な生活習慣を見直し、日々の体調管理をしっかり行っておくことも非常に重要です。
まとめ
喘息は、体質に由来する病気のため完治が難しく、長く付き合っていかなければならないことも多いですが、薬物治療と自己管理で症状を上手にコントロールできれば、健康な人と変わらない生活を行うことが可能です。喘息の発症や進行を防ぐためにも、咳が長引く時や息苦しさが続く時には放置せず、早めに受診して検査を受けましょう。
記事執筆者
しおや消化器内科クリニック
院長 塩屋 雄史
職歴・現職
獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)
専門医 資格
日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医