いいえ、まったく別の疾患です。全身性強皮症は皮膚だけでなく内臓も硬くなる病気で、さらに末梢血管障害や内臓病変を伴い、膠原病のひとつです。
一方で、限局性強皮症では、四肢や顔面・頭部などの皮膚に硬化が起こり、末梢血管障害・内臓病変を伴わず、膠原病でもありません。
また、全身性強皮症の軽症型である「限局皮膚硬化型」では、手指の皮膚が硬化しますが、「限局性強皮症」では手指の硬化は起こりません。
全身性強皮症(ぜんしんせいきょうひしょう)とは、皮膚や内臓が硬くなる病気であり、免疫が自分自身の細胞を攻撃する「自己免疫疾患」のひとつです。また、「膠原病(こうげんびょう)」でもあるため、全身の色々な部位に様々な症状が起こりますが、特徴的な症状として「手足の指の血行障害(レイノー現象)」「皮膚硬化」「内臓関連の症状」があります。中年女性に多く発症し、国による「指定難病」の対象疾患となっています。
今のところ、全身性強皮症を根治させる治療法はありませんが、従来と比べて症状を緩和・改善させるお薬が開発されています。現れる症状や病気の経過には個人差がありますが、病気の進行具合が生命に影響を及ぼすため、早期発見・早期治療開始が大切な病気です。
全身性強皮症の患者数は他の病気と一緒に集計されており、正確な数字は不明ですが、約2万人以上と推定されています。しかし、ご本人が病気に気づいていない、軽症型で正確に診断されないケースもあるため、実際の患者数は倍以上いると考えられています。
また、全身性強皮症は「治らない病気」として悲観的に捉えられがちですが、昔と比べて、病気をコントロールする治療法が飛躍的に進歩しています。病気をコントロールしながら、上手に付き合っていきましょう。
全身性強皮症は、現れる病状から2つに分類されています。
全身性強皮症の発症ピークは30代~50代ですが、まれに子どもや高齢者の発症もあります。男女比は欧米では1:2~4程度ですが、日本では1:10で女性の発症が圧倒的に多くなっています。なお、特定の遺伝子が原因となって発症する「遺伝病」ではありません。
全身性強皮症では様々な症状が現れます。中でも「末梢循環障害」「皮膚硬化」「内臓病変」は特徴的な症状として有名です。ただし、症状の組み合わせや重症度には個人差があります。
皮膚硬化は手指の腫れぼったい感じから始まり、手のこわばりを伴うことがあります。びまん型の典型症状では、皮膚硬化は指先など体の末梢部位から起こり、手の甲、前腕、上腕と体の中心に向かって進んでいきます。顔面にも皮膚硬化は起こることがあり、表情を変えたり口を開いたりしにくくなります。進行すると、皮膚がつっぱり、光沢が出てきます。なお、皮膚硬化は発症5~6年を過ぎると、自然に皮膚が柔らかくなっていきます。
また、全ての患者さんに体幹まで進行する皮膚硬化が起こる訳ではありません。「びまん型」でも一部の方のみに進行がみられ、「限局型」では体幹までの硬化はほとんどありません。
患者さんの約90%に現れ、全身性強皮症の初期症状であることが多いです。冷たいもの(氷・冷蔵庫の中など)に触る、気温が低いときに外に出る、冷房が強く効いた部屋に入るといった寒冷刺激や精神的緊張がきっかけとなり、手足の指が発作的に血行障害を起こし、突然白く変色して、紫色に変化し赤くなって戻ります。指先が白色・紫色になっているときは、しびれ感・冷感・違和感・痛みなどを感じます。レイノー現象には「保温」が有効なので、すぐに手を温められるように携帯カイロを持ち歩く、家事ではできるだけお湯を使うなど、寒冷刺激を回避しましょう。なお、喫煙は血行を悪化させる作用があるので、禁煙してください。
(図)レイノー現象
臓器病変は「びまん型」で現れます。
肺、腎臓、消化器などに合併症がみられますが、中でも病気の経過に大きな影響を与える「肺疾患」には特に注意が必要です。
全身性強皮症の原因は今のところ不明ですが、「遺伝的要因」だけでなく、生まれてからの「環境因子」も複雑に関与することで、発症していると考えられています。
これまでの研究によると、「免疫異常」「繊維芽細胞の活性化」「血管障害」の3つの異常が原因に関係していると分かってきましたが、発症に至る具体的な関わりについては現在も調査中です。さらに、特定の化学物質の接触、シリコン注入などの美容形成術、一部の抗がん剤などの薬剤は発症のきっかけになることが知られていますが、必ずしも発症するわけではありません。また、全身性強皮症にかかりやすくなるかを決める遺伝子(疾患感受性遺伝子)自体は多数存在すると考えられています。
全身性強皮症では様々な症状がみられるため、問診・診察・複数の検査方法により症状の評価や臓器病変の有無を確認して、総合的に判断します。
そのほか、患者さんの病状に合わせ、尿検査・皮膚生検・胸部X線検査(レントゲン)、心電図、CT検査、肺機能検査、MRI検査、超音波検査などを行います。
また、診断確定後も、早期治療や進行防止のために定期的に検査を受けることが大切です。
※必要に応じて、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介します。
全身性強皮症には、厚生労働省研究班による診療ガイドライン(2003年)、ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)とアメリカリウマチ学会(ACR)の分類(2013年)、日本皮膚科学会による診断基準(2016年)*1などのいくつかの基準があります。これらの基準では主に皮膚硬化、皮膚病変、手指の循環障害、肺病変、自己抗体の有無などから評価しています。なお、重症度は各臓器の症状の中で、最も重い症状の程度によって決まります。
当院では基準に沿って、総合的に判断しています。
*1(参考)全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン|日本皮膚科学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dermatol/126/10/126_1831/_pdf/-char/ja
全身性強皮症の治療は、病型に合わせて薬物療法にて進めます。進行の早い「びまん型」では、進行を抑えるための「疾患の治療(疾患修飾療法)」と個々の症状を和らげる「対症療法」を、ゆっくり進行する「限局型」では対症療法を行います。なお、疾患の治療では臓器ごとの重症度分類に従って、治療薬を選択します。
代表的なお薬は次の通りです。
そのほか、消化器症状には胃酸を抑える薬、関節炎には痛みを和らげる薬など、症状に合わせた治療薬を使用します。
いいえ、まったく別の疾患です。全身性強皮症は皮膚だけでなく内臓も硬くなる病気で、さらに末梢血管障害や内臓病変を伴い、膠原病のひとつです。
一方で、限局性強皮症では、四肢や顔面・頭部などの皮膚に硬化が起こり、末梢血管障害・内臓病変を伴わず、膠原病でもありません。
また、全身性強皮症の軽症型である「限局皮膚硬化型」では、手指の皮膚が硬化しますが、「限局性強皮症」では手指の硬化は起こりません。
寒さに伴って手指の色が変化したり、手指を曲げたときに少しでもこわばりを感じたり、爪の付け根(甘皮)に内出血がみられたりする場合には、念のため、早めにご受診されることをおすすめします。
以下の点に注意しましょう。
全身性強皮症の皮膚硬化は発症5~6年で自然に良くなっていきますが、臓器病変は一度発症すると元には戻りません。そのため、高血圧・糖尿病と同じように、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが重要です。
当院では患者さんが全身性強皮症という病気を正しく理解して、病気をコントロールしながら、上手に付き合っていけるよう、お手伝いができればと考えています。病気や生活に関して、お困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。