高齢の方で、ある日突然「肩が上がらなくなった」「痛みで寝返りが打てない」「朝、腕や足がこわばって、動かしづらい」などの様子が現れたら、もしかしたら「リウマチ性多発筋痛症(PMR)」かもしれません。
リウマチ性多発筋痛症は原因不明の炎症性疾患であり、名前に「リウマチ」と付いていますが、関節破壊が起こる「関節リウマチ」とは別の病気です。
また、ステロイド治療がよく効き、合併症がなければ病気の経過は良い一方で、治療によって症状が落ち着いても再発や再燃が起こりやすいので、長期的にじっくり治療する必要がある病気です。
リウマチ性多発筋痛症になりやすい人
リウマチ性多発筋痛症は小児には発症せず、50代以降の方に発症がみられ、発症ピークは70歳~80歳です。患者さんの男女比は1:2~1:3で、女性の発症が多いです。
また、リウマチ性多発筋痛症の有病率には地域差があります。白色人種で多く、北欧では50歳以上の人口10万人あたりの年間発症者数は約60~80人ですが、日本では約20人と欧米人と比べて、少ないと推測されています。しかし、臨床医の印象としては決して珍しい病気でなく、超高齢化社会を迎えている現在では、約15万人以上の患者さんがいるのではないかとも推察されています。
リウマチ性多発筋痛症の症状
「関節リウマチ」とは異なり、リウマチ性多発筋痛症では「動かすときに痛み」を感じます。
また、痛みによって関節を曲げにくくなることがあります。
- 筋肉や関節の痛み(筋肉痛・関節痛)
肩甲骨に痛みが出ることが多く、そのほか後頭部~首、上腕、腰~臀部(お尻)、股関節部、大腿部(太もも)など体の中心に近い部分に痛みが現れます。上腕を押すと痛んだり(圧痛)、手関節(手首の関節)、膝関節などにも関節炎が現れたりすることがあります。なお、痛みの程度は軽症~重症まで個人差があります。 - 起床時のこわばり
朝起きてすぐに、手足がこわばり「服が着づらい」「両腕が上がらない」「起き上がれない」など動かしにくさを感じます。しかし、こうした症状は午後には消失する傾向があります。 - 微熱・倦怠感・食欲不振
37℃台の微熱、だるい感じ(倦怠感)、食欲不振などの全身症状が現れることもあります。
(図)リウマチ性多発筋痛症の症状が現れやすい部位
リウマチ性多発筋痛症の合併症
リウマチ性多発筋痛症の患者さんの約20%に「巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)」を合併することがあります。
腕・太ももの痛み、立ち上がる・寝返りなどがしにくい症状のほかに、高熱・こめかみ部分の痛み(片側の頭痛)、急な視力低下、咬筋跛行(こうきんはこう:咬む動作であごが痛くなって噛めなくなる状態)を伴った場合には、合併を疑って詳しい検査を行います。
特に、目の症状が出現した際には、失明の可能性があるため、早急な治療が必要です。
なお、きちんと治療をすれば、命にかかわることはありません。
※必要に応じて、さいたま赤十字病院などにご紹介させていただきます。
リウマチ性多発筋痛症の原因
リウマチ性多発筋痛症のはっきりした原因は、現在まで明らかになっていません。
しかし、有病率に地域や人種差が大きいことから、遺伝的要因・環境的要因による「免疫異常」があると考えられています。そのため、関節リウマチと同様に「自己免疫疾患」のひとつに分類されます。
リウマチ性多発筋痛症の検査・診断
リウマチ性多発筋痛症の症状は、他のさまざまな病気でもみられる上、この病気だけの特別な検査所見がありません。
そのため、確定診断には「他の病気ではない」ということをはっきりさせる必要があります。
リウマチ性多発筋痛症の検査
他の病気の所見を否定するために行います。
- 血液検査
主に炎症反応を調べます。リウマチ性多発筋痛症患者さんでは、炎症具合を表す「CPR」や炎症の活動性を表す「赤沈(赤血球沈降速度)」値の上昇が必ずあります。
また、関節内の滑膜組織から作られる酵素「MMP-3(マトリックスメタロプロテアーゼ3)」の値も高くなる傾向があります。
一方で、自身の細胞・組織に対する抗体である「リウマトイド因子」や、早期のリウマチでもみられる「抗CCP抗体」では、陰性となります。 - 画像検査
リウマチ性多発筋痛症では骨の破壊が稀です。X線検査(レントゲン検査)で、骨びらん(骨の欠損像)があれば、関節リウマチの疑いが強くなります。
リウマチ性多発筋痛症の診断
リウマチ性多発筋痛症の診断基準にはいくつかありますが、近年、アメリカリウマチ学会/ヨーロッパリウマチ学会の分類基準(ACR/EULAR 2012)が用いられています。
この分類では必須条件を設け、症状や検査結果などの項目をスコア化して、合計点により評価します。
<2012年EULAR/ACR リウマチ性多発筋痛症 分類基準>
リウマチ性多発筋痛症の評価……超音波検査実施:合計4点以上、検査未実施:5点以上
【必須条件】
- 50歳以上
- 両肩の痛みがある
- 炎症反応(CPRまたは赤沈)の上昇
【臨床症状】
- 45分以上持続する朝のこわばり……2点
- 臀部痛または股関節の可動域制限……1点
- 肩関節と股関節以外の関節症状がない……1点
【検査所見】
【関節超音波検査(エコー検査)所見】
- 両肩もしくは一方の肩と股関節に、肩峰下滑液包炎・三角筋下滑液包炎・転子滑液包炎のいずれかを検出……1点
※当院では関節超音波検査は行っておりません。担当医が必要と判断した場合は検査が可能な施設に紹介致します。
ただし、リウマチ性多発筋痛症には特有の検査所見がないので、この基準に加えて、感染症・悪性腫瘍・他のリウマチ性疾患などではないという「除外診断」の上、確定診断を行います。
リウマチ性多発筋痛症の治療
リウマチ性多発筋痛症の治療では、「副腎皮質ステロイドの内服」を行います。
少量で即効性がある薬ですが、急に減薬・中止すると、症状の悪化や再発がみられるので注意が必要です。特に痛みの改善など効果がみられたからと、自己判断でお薬を中止することは危険です。ご注意ください。
一般的にステロイド薬は、約1年かけて減量していきます。中には完全にステロイドを中止できる方もいますが、多くの方は症状の再発により、少量のステロイド薬を長期的に服用することになります。
ただし、ステロイド薬の長期的服用には生理不順・多汗・不眠のほか、骨粗しょう症・糖尿病・消化性潰瘍・不眠・白内障・緑内障などの重い合併症が現れる問題もあるため、当院ではできるだけ減量できるようプランを立てながら治療を行います。
再発を繰り返す方や副作用の問題がある方では、抗リウマチ薬を併用することがあります。
※抗リウマチ薬のリウマチ性多発筋痛症への保険適用はありません。
リウマチ性多発筋痛症の注意点
- 薬の副作用チェックのため、定期的に検査が必要
ステロイド薬や抗リウマチ薬を長期服用すると、糖尿病・骨粗しょう症・肝障害などの重い副作用が現れることがあります。そのため、定期的に血液検査を行い、重い副作用が起こらないよう注意しながら、使用することが重要です。 - ステロイド薬服用中は、基本的な感染対策を行う
ステロイド薬の内服では、体内の炎症を抑える効果がある反面、同時に免疫力を押さえてしまう作用があります。
感染症にかかりやすくなるため、うがい・手洗い・外出時のマスクなど基本的な感染予防対策をしましょう。 - 副作用対策には、食事・運動・ストレス発散が大切
骨粗しょう症・動脈硬化などの副作用を減らすために、栄養バランスの取れた食事や適度な運動、ストレス発散を行うことをおすすめします。
よくあるご質問
「リウマチ性多発筋痛症」と「関節リウマチ」の違いは何ですか?
リウマチ性多発筋痛症と関節リウマチは、同じような原因や症状を持つ「類縁疾患」です。しかし、よく調べると、関節リウマチでは起こる事象がリウマチ性多発筋痛症では「ない」ことなど違いがあります。主な違いは次の通りです。
|
リウマチ性多発筋痛症 |
関節リウマチ |
発症のタイミング |
ある日突然 |
徐々に症状が現れてくる |
関節炎が起こる部位 |
肩・股関節・膝 |
手足を中心に全身の関節 |
関節炎が起こる場所 |
関節の外 |
関節の中 |
関節炎の主な病名 |
| 関節滑膜炎 |
血液検査での特徴 |
- CPRと赤沈の上昇
- リウマトイド因子の陰性
- 抗CCP抗体の陰性
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- リウマトイド因子の陽性(ただし、約25%に陰性の場合がみられる)
- 抗CCP抗体の陽性
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X線検査(レントゲン)での特徴 |
骨破壊はなし |
骨破壊がある |
ステロイド薬治療が効くか? |
非常によく効く |
効く
(抗リウマチ薬の補助的使用) |
(表)リウマチ性多発筋痛症と関節リウマチの主な違い
当院では、2つの病気をしっかり鑑別するために詳しい検査と丁寧な診察を行っています。
一度症状が改善しましたが、また痛み・朝のこわばりが出るようになりました。再発なのでしょうか?
一度お薬でよくなった痛みや朝のこわばりが再び現れた場合、再発と考えます。リウマチ性多発筋痛症の治療では、ステロイド薬の減量ペースが早いときや、服用をやめた際に約25~50%の割合で再発が起こるとされています。
減量の過程で再発がみられた場合には、症状が抑えられていた頃のステロイド量に戻します。その後は、減量スピードを遅くしたり、抗リウマチ薬との併用でステロイド量の減量を図ったりするようにします。
まとめ
リウマチ性多発筋痛症では、今まで元気だった高齢者の方が急に肩が上がらなくなる、腰が痛くて立ち上がれない・寝返りが打てなくなるといった症状が現れます。強い痛みとなりやすく、「○月×日から痛くなった」と発症した日付を覚えている患者さんも多くいらっしゃいます。
また、リウマチ性多発筋痛症ではステロイド治療がよく効くため、比較的早くに痛みなどは改善していきますが、お薬を止めると再発する方が多いため、患者さんに合わせ副作用と効果のバランスをみながら、長期的にじっくり治療していきます。
記事執筆者
しおや消化器内科クリニック
院長 塩屋 雄史
職歴・現職
獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)
専門医 資格
日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医