疾患
disease

気管支拡張症

気管支拡張症は、細菌の増加により、気管支だけでなく肺にまで炎症を引き起こす疾患です。呼吸器の病気にかかると、つらい咳や痰の症状に悩まされ、運動がしにくくなり、体力が低下して十分な食事ができなくなることもあります。これは、呼吸がしにくくなると、呼吸筋を使用する量が増えて、その分カロリーの消費も多くなるためです。
また、男性と比較して女性の方が多い傾向になります。それは、いくつか理由がありますが、骨格的に乳房があるため男性よりも気道に入った異物を排出しにくいことが原因の一つと考えられています。

気管支拡張症とは

気管支拡張症とは、気管支の壁が損傷を受けて、気管支が広がったまま元に戻らない疾患です。多くの原因は感染症で、肺や免疫に疾患のある方に多くみられます。
多量の「痰」が出てきて、症状が悪化すると呼吸困難になる場合もあるので、痰を対処することが重要になってきます。
ほとんどの患者さんに慢性的な咳が見られ、咳だけでなく血が出たり、胸痛や肺炎を繰り返したりする方もいます。

気道の内面や粘液層を覆う突起(綿毛)には、気道を守る働きがあります。この綿毛は振動して、気道を覆っている薄い粘液の層を移動します。この粘液の層はウイルスや細菌を排出する大切な役割を持っており、取り込まれた有害な細菌や粒子はのどや胃の中に運ばれたり、咳と共に吐き出されたりします。

気道の損傷があると、気管支の壁も影響を受けて、炎症を繰り返すようになります。炎症を繰り返すと、傷ついた気道が拡張して、風船に似た袋ができます。また、炎症があると、粘液(分泌物)も増加します。

綿毛が傷つくと、細胞が死滅して粘液がたまるため、細菌が多くいる状態になります。この細菌がさらに炎症を引き起こし、気管支壁を傷つけ、気道のダメージと感染の悪循環になってしまいます。

このように気管支が直接傷ついたり、気道を守る働きが充分でなく気管支の壁が傷ついたりしてしまった場合に気管支拡張症になります。

気管支拡張症の原因

気管支拡張症は特定の疾患を持っている方に多くみられます。

  • 気道を傷つけるたばこの煙やガス、悪影響がある粉塵
  • 自己免疫疾患(シェーグレン症候群・潰瘍性大腸炎・関節リウマチ)
  • 嚢胞性線維症
  • 原発性線毛機能不全症

気管支は多くの分岐があり、肺胞に空気を送り込む役割があります。気管支拡張症を発症すると、この気管支の部分に炎症が起こり、壁が弱くなって壊された状態になります。

「嚢胞性線維症」は、ねばねばした痰ができやすく、スムーズに痰が出すことができない疾患です。痰がたまっていると、細菌の温床となり、感染が繰り返すことから、気管支拡張症を発症します。

痰を排出するために大切な線毛運動が低下する疾患「カルタゲナー症候群」が原因で、うまく痰が出せず細菌がたまりやすい状況になってしまい、感染症を繰り返して気管支の障害が出ることもあります。

気管支に炎症があると、細菌が余計に付着しやすくなり、スムーズに排出できなくなったりします。さらに、その細菌が増殖して気管支に悪影響を与えます。そうすると、炎症は気管支だけでなく、肺に広がって肺の組織が破壊され、機能が低下していきます。

また、気管支拡張症を引き起こしやすい疾患に「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」があります。この疾患によって、気道を塞ぐ粘液の栓ができることがあり、比較的太い気道が影響を受けて気管支拡張症につながります。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は、嚢胞性線維症や喘息の患者さんによくみられる疾患です。

発展途上国では、ワクチン不足や栄養不足が原因で、結核による呼吸器感染症が繰り返され、原因になることもあります。

ただし、気管支拡張症の方の多くで、入念な検査を行ってもはっきりとした原因が特定しないことがあります。

症状

長引く咳や痰の症状がある気管支拡張症は、風邪の症状にも似ていますが、数年かけて悪化していきます。

ほとんどの方に、濃い痰とからんだ咳の症状がみられますが、痰の量や種類は、気管支拡張症の進行度合いや感染症を併発しているかによって異なります。
多くの場合に、咳の発作が出やすい時間は朝方と夕方の遅い時刻です。
また、炎症がある気道の壁はもろくなっているため、咳と共に血が出ること(喀血)があります。

肺機能の低下

病状が悪化すると、肺の機能が少しずつ低下するため、呼吸困難を自覚するようになります。さらに、肺の機能も低下するため、肺に対しての感染症を合併することも多く、発熱や呼吸状態の悪化を引き起こすこともあります。

慢性副鼻腔炎

咳や痰の症状だけでなく、慢性副鼻腔炎を併発することもあります。そうすると、鼻水や鼻つまり、においを感じにくくなるなど鼻に関連した症状が出ることもあります。

炎症によって細菌が増殖するため、「発熱」「胸痛」が出ることも認められています。
また、肺炎を引き起こすこともあります。

気管支拡張症が悪化すると「喘鳴」「息切れ」が現れることもあり、呼吸不全に悪化した場合には、運動をするとすぐに息切れや疲労感を感じやすくなり、身体を動かすことが減少して、体力の低下を引き起こします。そうすると、食欲が減少して細菌に対する抵抗力も少なくなる悪循環に陥ってしまいます。

また、免疫力が低下して疲れると、発熱しやすくなり、抗菌薬の影響で「腹痛」「下痢」の症状に悩まされる方もいます。

喀血・呼吸困難

気管支拡張症が悪化すると、気管が薄くもろくなっているので、咳の衝撃で出血が出ることがあります。喀血が多くなると、気管に血液が流れ込み、呼吸困難になることもあるため、改善しない場合には、太ももの動脈からカテーテルを入れて、出血している血管を塞ぐ手術を行います。
それでも症状が改善しない最悪の場合には、気管を含む肺を切除することもあります。

また、気管支だけでなく、肺にまで炎症が及ぶと「心臓の圧迫」「血流障害」が起こることもあり、「心不全」「貧血」につながることもあります。

そして、気管支に痰がたまり細菌を排出できないと、細菌感染を引き起こして、肺炎を繰り返します。そうすると、肺の機能が悪化していきますが、自分の力で痰を出すことが難しくなった場合には、喉を切開してチューブを気管に挿入して、機械を利用して痰を取り除かなくてはいけません。

診査・診断

気管支拡張症の診断は胸部レントゲン写真やCT撮影の画像をもとに検査を行います。
気管支拡張症は気管支に炎症があり、破壊される疾患なので、気管支が炎症しているか確認します。喀血や血痰がある場合には、出血している場所の特定を行うために「造影検査」を行うこともあります。

肺炎を併発している場合には、肺機能検査を行い、どの程度肺が機能しているか調べます。

肺機能検査の内容

  • 酸素と二酸化炭素を交換する能力
  • 肺への空気の吐き出す能力や取り込み能力
  • 肺に空気をためる能力

この検査で気管支拡張症の有無を調べるわけではありませんが、肺の機能がどの程度機能しているか判定するために役立ち、病気の進行を確認するために大切な検査です。また、気管支拡張症の発症している場所が限定されている場合には、「気管支鏡検査」を行い、原因が肺の腫瘍か吸い込んだ有害物質なのかを診断します。

嚢胞性線維症で、感染症を繰り返す場合で家族の方にも嚢胞性線維症の方がいる場合には遺伝子検査を行うこともあります。

治療

気管支拡張症の治療は、主に以下の目的で行います。

  • 感染症の頻度を減らすこと
  • ワクチンで特定の感染症の予防をすること
  • 狭くなっている気道の緩和
  • 粘液の蓄積や炎症を抑えること

早期治療を開始できると、「呼吸不全」「喀血」「血液中の酸素レベルの低下」などの合併症を減らすことができます。症状を改善する治療として、気管支拡張薬や抗菌薬、胸部の理学療法で痰の排出を促します。

理学療法では、「体位ドレナージ」「吸引」「呼吸訓練」があります。

体位ドレナージ

肺から分泌物を吐き出しやすい角度に身体を傾けたり、そのまま支えたりすることです。
また、分泌物が出やすいように、身体を丸めて肺や背中を軽くたたくこともあります。

吸引

気道から分泌物を取り除くために、チューブを利用して鼻から挿入します。
咳では排出できない分泌物を速やかに吸入します。

呼吸訓練

呼吸訓練は直接肺の機能を回復するわけではありませんが、手術後の合併症の可能性が低下します。手術前と手術後に行うことが多く、訓練機器を使用して、できるだけ深く息を吸い込みます。

また、炎症や粘液の蓄積には「空気の加湿」「食塩水の吸入」の効果が期待できます。血中酸素レベルが低下している方には、「酸素投与」で治療します。酸素を十分に取り込むことで、肺性心などの合併症を予防できる可能性があります。

喘鳴や喘息がある場合には、気管支拡張薬や吸入薬を使用します。

予防

気管支拡張症を予防するためには、「感染の防止」「痰の排出」が大切です。
痰がたまっているとカビや細菌の温床になってしまうため、できるだけ痰を排出します。
その時、体位ドレナージを行い、体位を変えて肺にたまった痰を排出する方法です。

また、気管支拡張症を引き起こしやすい疾患の早期発見・早期治療が大切です。
そのほかには「予防接種」「栄養状態の改善」「生活習慣の改善」で気管支拡張症の患者さんは著しく減少しています。

まとめ

気管支拡張症は、呼吸をするための気道や肺に悪影響を与えます。また、感染症を繰り返しやすく、感染していることでほかの気管にも影響が出ることがあります。
症状が悪化しないために、免疫力をつけて、感染症を早期に治すようにしましょう。感染症を引き起こすことでまたその部分に細菌が蓄積し、悪影響を与える悪循環を断つためにかかりつけ医に相談して適切な処置やリハビリを行いましょう。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医