疾患
disease

高血圧

高血圧とは、血圧が慢性的に高くなってしまう状態のことです。
血圧が多少高くなるくらいでは患者さまの自覚症状はほとんどありません。しかし、高血圧は、放置していると徐々に動脈硬化が進行し、ある日突然、心筋梗塞や脳卒中などの重大な病気を引き起こすことから、別名「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」とも呼ばれています。

高血圧症は、日本人にとって身近な病気であり、国内の高血圧の患者数は4,300万人に上ると推定されています。まさに国民病とも言える高血圧ですが、高齢化や食の欧米化の進む日本では、今後もさらに患者数の増加が予想されています。

高血圧による動脈硬化の進行を抑え、重大な合併症を防ぐには、早期発見が非常に重要です。
健康診断で高血圧を指摘された方はもちろん、血圧の上昇が気になり始めた時は放置せず、早期に生活習慣を見直すとともに適切な治療で血圧をコントロールしていくことが大切です。

高血圧とは

血圧とは、「心臓から送り出される血液が動脈の内側の壁を押す力」のことです。
心臓はポンプの役割を持つ重要な臓器であり、私達の身体は心臓から送り出される血液が栄養や酸素を全身に届けることで正常に機能するしくみになっています。

血圧の値は常に一定ではなく、気候や活動量、緊張による心の状態などで簡単に変動します。
運動時や興奮した時などに起こる血圧の上昇は、あくまでも一時的で生理的なものですが、慢性的に血圧が高く、安静にしている時でも下がらなくなってしまうものを「高血圧症」と呼んでいます。

高血圧による合併症のリスク

血圧の高い状態が続くと、血管の内壁には常に大きな圧力がかかるため、血管の弾力性が失われて徐々に硬く・厚くなります。これが「動脈硬化」と言われる状態で、進行するにつれて血液の流れが悪くなり、血管が詰まってしまうと脳卒中や心筋梗塞などの命に関わる深刻な合併症を引き起こすことがあります。
また、心臓は頑張って血液を送り出そうとするため、「心肥大(心臓の筋肉が発達して大きくなる)」の状態になります。心肥大がさらに進行すると、心臓は十分な収縮ができなくなってしまうため、心臓の働きが悪くなって心不全の状態に陥ることもあります。

≪高血圧による合併症の種類≫

  • :脳卒中(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血)
  • 心血管:心臓病(心筋梗塞、狭心症、心肥大、うっ血性心不全、冠状動脈硬化)
  • 腎臓:腎硬化症、腎不全
  • その他:大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症

高血圧の基準値

血圧には「収縮期血圧」と「拡張期血圧」の2種類があります。

  • 収縮期血圧:心臓が収縮して血液を押し出す際にかかる圧力のこと。
    最も血圧が高くなることから「最高血圧」または「上の血圧」とも呼ばれます。
  • 拡張期血圧:全身から戻ってきた血液で心臓が拡張する時の血圧のこと。
    血圧が最も低くなることから「最低血圧」または「下の血圧」と呼ぶこともあります。

日本高血圧学会が作成する高血圧治療ガイドラインでは、高血圧の基準を「収縮期血圧(最大血圧)を140mmHg以上、拡張期血圧(最小血圧)を90mmHg以上」と定めています。
ただし、診察室では緊張などで血圧が若干高めになるため、家庭で測定する時には診察室血圧よりも5mmHg低い「収縮期血圧135mmHg、拡張期血圧85mmHg」という基準が用いられます。

血圧値の分類

ガイドラインでは、高血圧の重症度を下記のⅠ~Ⅲの3段階に分類しており、重症度が上がるほど合併症を起こすリスクは高くなります。
「正常高値血圧」や「高値血圧」は高血圧の一歩手前の予備軍と言われる段階ですが、病気になるリスクが高いと考えられる場合には治療を行うこともあります。
また、「孤立性収縮期高血圧」は、収縮期の血圧が上がり、拡張期の血圧は低下する特殊な高血圧です。動脈硬化が進んだ高齢者に多く見られるのが特徴で、適切な治療が必要になります。

成人における血圧値の分類(mmHg)
分類 診察室血圧 家庭血圧
収縮期血圧 拡張期血圧 収縮期血圧 拡張期血圧
正常血圧 <120 かつ <80 <115 かつ <75
正常高値血圧 120-129 かつ <80 115-124 かつ <75
高値血圧 130-139 かつ/または 80-89 125-134 かつ/または 75-84
Ⅰ度高血圧 140-159 かつ/または 90-99 135-144 かつ/または 85-89
Ⅱ度高血圧 160-179 かつ/または 100-109 145-159 かつ/または 90-99
Ⅲ度高血圧 ≧180 かつ/または ≧110 ≧160 かつ/または ≧100
孤立性収縮期高血圧 ≧140 かつ <90 ≧135 かつ <85

(参考)日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019

高血圧の種類とおもな要因

高血圧は、「本態性高血圧」と「二次性高血圧」の大きく2種類に分けられます。

本態性高血圧

はっきりとした原因は特定できず、食事や運動などの生活習慣に関連して起こる高血圧です。
日本人の高血圧全体の85~90%がこのタイプであり、おもに中高年以降に多く発症し、加齢とともに患者数が増えるのが特徴です。
血圧のコントロールには、一般的な降圧治療を行いますが、生活習慣の見直しも必須です。

≪本態性高血圧を招くおもな要因≫

  • 塩分の高い食事
    塩分の摂取量が多く、血中の塩分濃度が高くなると、それを薄めるために血液量が増えます。過剰な塩分を排出しようとして腎臓に多くの血液が送られるため血圧が上がります。
  • 喫煙
    喫煙は血管を収縮させるため、一時的に血圧が上がります。また、血流が悪化し、固まりやすくなることで動脈硬化を引き起こします。
  • 肥満
    肥満の方は必要な酸素量が多いため、心拍出量や体内の血液量が増加して血圧が上がります。
  • 加齢
    年齢とともに血管の柔軟性が低下し、徐々に硬く・狭くなるため、血圧が上がりやすくなります。
  • ストレス
    精神的なストレスを感じると交感神経が刺激されて血管が収縮し、血圧が上がります。過労や不眠なども血圧が上がる要因となります。
  • 家族性(遺伝、食習慣)
    高血圧のご家族がいる方は、血圧が上がりやすい体質を受け継いでいる場合があります。
    また、家族は食の好みや、飲酒・喫煙などの生活習慣が似てくることも大きな要因です。

二次性高血圧

甲状腺や副腎の病気、もしくは内服している薬剤の副作用などによって起こる高血圧です。
高血圧全体の10%~15%がこのタイプで、比較的に若い方にも多く発症するのが特徴です。
二次性高血圧の場合、通常の高血圧の治療(降圧治療)では効果がなく、元となる病気を治療して原因を取り除くことで血圧を下げることが可能です

病態による分類

通常、高血圧になると一日を通して常に血圧が高くなりますが、その病態にはいくつかのパターンがあり、診察時の測定だけでは正確な病状が分からないタイプも存在します。
日本高血圧学会では、「診察室血圧」と「家庭血圧(診察外血圧)」を測定し、それぞれの血圧値の特徴から以下の3つのタイプに分類しています。

  • 持続性高血圧
    診察室血圧と家庭血圧の両方が高くなる最も一般的な高血圧です。
  • 白衣高血圧
    家庭血圧は正常であるにもかかわらず、診察室血圧が基準値を超えるタイプです。
    診察による緊張が原因と考えられていることから「白衣高血圧」と呼ばれています。
    白衣高血圧の場合、すぐに治療は行わないケースも多いですが、将来、持続性高血圧になるリスクは高くなるため、定期的に血圧をチェックし、経過観察を行う必要があります。
  • 仮面高血圧
    診察室血圧が正常にもかかわらず、家庭血圧が基準値を超えるタイプです。
    健康診断だけでは発見しにくい病態のため、「仮面高血圧」と呼ばれています。
    加齢による動脈硬化が進んでいる場合や、心臓や腎臓の病気、タバコ、ストレスなどの要因で起こることもあります。
    仮面高血圧には、早朝に血圧が高くなる「早朝高血圧」、日中に血圧が高くなる「昼間高血圧(ストレス性高血圧)」、夜間に血圧が高くなる「夜間高血圧」の3タイプがあります。

高血圧の検査

高血圧の診断には、以下のような診察や検査を行います。

  • 問診:血圧測定を行うほか、自覚症状の有無や生活習慣、持病の有無などを確認します。
  • 血液検査:採血し、腎機能の低下やホルモン異常の有無などを調べます。
  • 尿検査:尿を採取し、腎臓の合併症やホルモン異常の有無などを調べます。
  • 心電図:心肥大や不整脈の有無、心臓の血流状態などを調べます。
  • 心エコー(超音波検査):心肥大や心臓の機能状態、弁膜症の有無を調べます。
  • 胸部レントゲン:心肥大や心不全の有無などを調べます。
    ※その他、必要に応じて頭部CT、眼底検査などを行うこともあります。

高血圧の治療

高血圧の治療は、「生活習慣の見直し」と「薬物療法」で血圧をコントロールし、合併症の予防や進行を抑えるのが目的になります。
治療の目標値は身体の状態や合併症の有無などにもよりますが、75歳未満では「診察室血圧130/80mmHg未満」、75歳以上では「診察室血圧140/90mmHg未満」を目指します。(※但し、家庭血圧の場合は上記より5mmHg低くなります)

活習慣の見直し

生活習慣の改善は、血圧の高い患者さま全てに必要であり、軽度の高血圧は、生活を見直すだけで血圧が正常になるケースもあります。ただし、生活習慣が元に戻れば血圧もまた高くなってしまうため、服薬治療の有無に関わらず長く継続していくことが大切です。

≪生活の改善ポイント≫

  • 減塩:塩分の排出効果があるカリウムの多い野菜や果物を積極的に摂取し、1日の塩分摂取量を6g未満に抑える。
  • 肥満の解消:肉や揚げ物などの摂取量を抑えるなど、内臓脂肪を減らして肥満を改善する。
  • 節酒:1日につき男性は日本酒1合、ビール中瓶1本程度、女性はその半量に抑える。
  • 運動:1日30分または週に180分以上、ウォーキング、ジョギングなどの有酸素運動を行う。
  • 禁煙:周囲の人の受動喫煙にも気を付ける。
  • 睡眠:寝不足を解消し、十分な睡眠時間を確保する。
  • ストレス解消:趣味やスポーツなどで適度にストレスを発散する。
  • その他:急激な温度差を避ける、便秘を予防する(※強くいきむと血圧が上昇するため)など

薬物療法

生活習慣の改善だけでは血圧のコントロールが難しい場合には、降圧剤の服薬を併用します。
降圧剤にはさまざまなタイプがあり、患者さまの体調や気候の変化などに合わせ、適切な薬剤を選択します。

≪おもな降圧剤の種類≫

  • カルシウム拮抗薬:血管の収縮作用がある「カルシウムイオン」が血管に入らないようにして血圧を下げる。
  • アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB):血圧を上げる「アンジオテンシンⅡ」というホルモンの働きを抑える。
  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬):アンジオテンシンⅡの産生を抑える。
  • 利尿薬:尿の量を増やして血管内の食塩と水分量を減らす。
  • β遮断薬: 心臓の過剰な働きを抑え、心拍数を下げる。
  • α1遮断薬:血圧を上げる交感神経の働きを抑える。
  • アルドステロン拮抗薬:血圧を上げる作用を持つ「アルドステロン」という物質の働きを抑える。
  • 直接的レニン阻害薬:血圧調整に関わる「レニン」という酵素の作用を抑える。

服薬治療開始時には、だるさ、動悸、頭痛、めまい、むくみなどの副作用が現れることがあります。
自己判断でお薬を止めてしまうと血圧のコントロールができなくなり、余計に血圧が上がってしまう場合があります。また、合併症が起こるリスクも高くなってしまうため、必ず医師にご相談下さい。

よくある質問

なぜ血圧を毎日測る必要があるのでしょうか?

ご自宅で行う毎日の血圧測定は、患者さまの血圧の状態や、体調の変化を知る上で非常に役立ちます。特に白衣高血圧や仮面高血圧は、診察室で行う測定だけでは正確な診断ができないため、ご家庭での血圧の変化を記録していただく必要があります。
また、毎日の変化を記録することで治療の効果を確認したり、内容を見直したりすることもできますし、患者さまの治療への意識を高めることも可能です。

自宅での測定時にはどのようなことに気を付けたらよいですか?

ご家庭で血圧を測定する時は、朝晩2回毎日同じ時間に行ってください。
朝は起床後1時間以内で、お食事や服薬の前に測定します。夜は寝る前にリラックスした状態で測定しましょう。
測定する時は椅子に座った状態で行います。1~2分安静にしてから測定を開始することでより正確な数値を得ることができます。
ご家庭で測定した血圧の記録は、患者さまのお身体の状態を知るための重要なデータになります。
血圧手帳などに記録をとり、受診時には忘れずにお持ちください。

食事療法を続けるためのポイントはありますか?

日本人の食事は塩分量が多いことから、減塩を心がけることで効果的に血圧を下げることが可能であり、本態性高血圧の場合、1日1gの減塩で収縮期血圧を1mmHg下がると言われています。
ただし、無理な減塩は体調を崩してしまう場合もあるため、医師や栄養士と相談して無理のないように行いましょう。
食べることは毎日の大きな楽しみです。食事療法を長く続けていくためには、「鮮度の良い食材を選ぶ」「味付けに薬味やレモン汁、香辛料などを使用する」「低塩タイプの調味料を選ぶ」など、ご自身で工夫しながら楽しくお食事ができるように心がけましょう。

まとめ

高血圧症は、決して珍しい病気ではありません。
放置すると深刻な合併症を引き起こすリスクがありますが、適切な治療で血圧のコントロールができれば健康な方と変わらない生活を送ることも可能です。
血圧の変化に早い段階で気付くためには、定期的に健康診断を受けることが大切です。
高めの血圧が気になる方は、ぜひ当院にご相談下さい。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医