疾患
disease

下痢(げり)とは「水分量が多く、液状またはそれに近い便が何度も排出される状態」であり、便秘(べんぴ)とは「いつもよりスッキリ便が出ない・出にくい状態」のことです。
「下痢・便秘」と言うと、「よくある症状」として軽視されがちですが、原因は様々あります。ストレス・食べ過ぎ・飲み過ぎなどの「生活の乱れ」によって一時的に起こることがある一方で、重篤な腸の病気や甲状腺の病気といった内科疾患が隠れているケース、放置により症状が悪化するケースもあります。また、症状の長期化で外出に不安を覚え、抑うつ状態など二次疾患を引き起こすことがあります。
下痢・便秘によって日常生活に支障を来しているようであれば、きちんとした治療が必要です。「たかが下痢」「たかが便秘」と思わずに、早めに対処しましょう。

下痢とは?

私たちは食べた物を消化・吸収するために毎日約7Lもの消化液を分泌しており、これに飲み物や食べ物の中に含まれる水分など口から摂取する水分約2Lを合わせると、一日あたり約9Lの水分が腸に入ってきます。しかし、消化管(胃・小腸・大腸)での消化・分解により、水分の約99%は吸収されてしまうので、適度な硬さの便には1%程度の水分しか含まれていません。そのため、何らかの理由で腸内の水分バランスが少しでも崩れると、「下痢」になります。

すぐに病院を受診した方がよい「下痢」

次のような下痢の場合には、早急な治療を必要とする可能性が高いため、すみやかに医療機関を受診しましょう。
※高齢者、心臓病・糖尿病・腎臓病などの持病がある方は、以下に当てはまらなくても、早めに受診しましょう。

  • 経験したことないような激しい下痢
  • 便に血が混ざっている
  • 下痢以外に、吐き気・嘔吐・発熱がある
  • 排便後も腹痛が続く
  • 同じ物を食べた人も同時に下痢になっている
  • 発症から3日以上経っても症状が改善しない/悪化している
  • 脱水症状(尿が少ない/出ない・口が異常に乾いているなど)がある

下痢の原因と下痢のタイプ

下痢には急に発症し2週間以内に改善する「急性下痢」と、4週間以上続く「慢性下痢」があります。また、発症のメカニズムから4つのタイプに分けられます。

  • 2週間程度で治る「急性下痢」
    食べ過ぎ・飲み過ぎなど生活習慣の乱れ、ウイルス・細菌感染(感染性胃腸炎)がほとんどです。なお、ウイルス・細菌感染による下痢では、市販の下痢止めを使用すると病原体を体内に留めて症状を悪化させることが多いので、原則使用NGです。
    • 分泌性下痢
      腸管内の消化液分泌が過剰となっているタイプの下痢。
      【主な原因】ウイルスや細菌、寄生虫による感染症・食中毒・ホルモン・薬の影響など
    • 浸透圧性下痢(しんとうあつせいげり)
      腸からの水分吸収が妨げられているタイプの下痢。
      【主な原因】お酒の飲み過ぎ・脂質の多い食べ物の食べ過ぎによる消化不良、寝冷えなど日常生活の乱れ
  • 症状が1か月以上続く「慢性下痢」
    原因に応じて、下痢以外に発熱・腹痛・血便・体重減少など他の症状も現れることが多いです。慢性下痢の大半は、検査をしても異常がみられず、ストレス・緊張などが発症要因とされている「過敏性腸症候群(IBS)」であり、近年増加しています。
    • 蠕動運動性下痢(ぜんどううんどうせいげり)
      腸の蠕動運動が活発すぎて、腸管通過が早く、十分な水分吸収が行われないタイプの下痢。
      【主な原因】過敏性腸症候群(IBS)、甲状腺の病気(バセドウ病)など
    • 滲出性下痢(しんしゅつせいげり)
      腸に炎症があることにより、細胞内の液体(滲出液)がしみ出て、便の水分量が増えているタイプの下痢。
      【主な原因】クローン病・潰瘍性大腸炎など

下痢の検査

一過性で軽症の急性下痢であれば、問診・腹部の視診・触診のみで、薬を処方することがあります。下痢を引き起こす原因には様々あるため、症状・診断に合わせて、必要な検査を行います。

  • 問診
    問診から大まかな下痢の原因の見当を付けるため、とても重要です。
    排便状況(回数・いつからか)、便の状態(量・色・形)、腹痛・発熱など他の症状の有無、思い当たる原因(海外旅行に行った、普段食べないものを食べたなど)、トイレに行きたくなる特定の状況(仕事・学校に行こうとすると、行きたくなるなど)、服薬歴(サプリメントを含む)について詳しくお伺いします。
  • 腹部の視診・触診
    身体診察を行い、病気の兆候がないか、全身を観察します。
  • 血液検査
    下痢の原因となる内科疾患、内臓機能を採血によりチェックします。
  • 超音波検査(エコー検査)・レントゲン検査
    腸管のむくみなど内臓の状態を確認します。
  • 便培養検査
    便の一部を採取して、便に含まれる細菌を調べます。O-157など激しい腸炎が疑われる際に行うことがあります。結果に1週間程度かかります。
  • 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
    肛門から内視鏡カメラを挿入して、大腸を詳しく調べます。当院では、鎮静剤を使用した「寝たままで無痛」を目指した内視鏡検査を行っています。
    ※詳しくは、当院の「大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」のページで説明していますので、ご覧ください。

下痢の治療法

下痢の治療法は、原因によって異なります。
一般的に、急性下痢の主な原因は「生活習慣の乱れ」なので、過度なアルコール・脂っこい食事の摂取や暴飲暴食を控えて、おかゆ・すりおろしリンゴ・鶏ささみ・白身魚など消化の良いものを食べて胃腸を休めましょう。下痢が続くと「脱水症状」を引き起こすことがあるため、冷たくないカフェインの入っていない飲み物(白湯・麦茶など)を少しずつ小まめに飲むようにしましょう。感染性胃腸炎では水分補給と安静を行いながら、症状に応じてお薬による対症療法を行います。なお、症状が重い場合には、薬物療法や外来での点滴を行い、症状の改善を図ります。一方、慢性下痢では原因に合わせたお薬を使い、症状の緩和を図ります。

便秘とは?

便秘には様々な定義がありますが、日本内科学会では「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」と定義しています。スムーズに排便できない、排便がないことにより腹痛・膨満感(お腹が張って苦しい感じ)を伴う、下痢・便秘を繰り返すなど日常生活に支障を来しているのであれば、治療が必要な「便秘症」です。便秘症が1~2か月以上続くことを「慢性便秘症」としています。
また、便秘は放置することでさらに状態が悪化する「悪循環病」なので、便秘でお困りのことがありましたら、早めにご相談ください。

すぐに病院を受診した方がよい「便秘」

次のような便秘では、すみやかに医療機関を受診しましょう。

  • 便秘のほかに、強い腹痛・吐き気・発熱を伴う
    腸閉塞、大腸の潰瘍・穿孔(せんこう:壁に穴が開く)など、すぐに治療が必要な病気や、クローン病などの特殊な病気の可能性があります。
  • 便に血が混ざっている
    痔の悪化、大腸がん、直腸潰瘍の可能性があるので、詳しい検査をおすすめします。 

便秘の原因と便秘のタイプ

便秘の原因には様々ありますが、大きく4つに分けられます。

  • 大腸の排便機能に異常が起こる「機能性便秘」
    便秘の原因の大半を占め、腸管自体には異常がなく、便が作られてから排出されるまでの過程に異常があるタイプです。水分摂取の不足・運動不足・便意を我慢するなどの生活習慣・食生活の欧米化・ストレス・加齢といった影響を受けて、排便機能が低下します。最近、ウォシュレットの誤った使い方(水圧が強い・肛門の奥まで洗うなど)により、便が溜まったと感じる直腸センサーの感度が鈍ってしまう方が増えています。
  • 腸管に何らかの異常がある「器質性便秘」
    腸管に腫瘍・炎症が起こる病気(大腸がん、潰瘍性大腸炎・クローン病などの炎症性疾患)や手術後の癒着により、腸の中が狭くなって便が通りにくくなる便秘です。腹部膨満感・腹痛・吐き気などを他の症状を伴うことが多いです。
  • 病気やホルモンの影響による「症候性便秘」
    糖尿病・甲状腺機能低下症・パーキンソン病などの基礎疾患が原因となり、便が硬くなりやすくなります。また、生理・妊娠中などにホルモンの影響を受けることもあるため、比較的女性に多くみられます。
  • 薬の副作用で起こる「薬剤性便秘」
    うつ病、喘息・パーキンソン病、咳止めなどに使われる一部のお薬には、副作用で便が硬くなりやすくなるものがあります。

便秘の検査

便秘の検査では、腸閉塞や大腸がんなど器質的異常の有無を確認することが重要となります。

問診
問診から大まかな原因の見当を付けるため、とても重要です。
排便や便の状態(回数・形など)、他の症状があるか、服薬歴(サプリメントを含む)、持病のほか、ストレス・食生活といった生活習慣についても詳しくお伺いします。

腹部の視診・触診
身体診察を行い、病気の兆候がないか、全身を観察します。 必要に応じて、血液検査、超音波検査(エコー検査)、レントゲン検査、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)、直腸診を行います。なお、当院の大腸内視鏡検査は、鎮静剤を使用した「寝たままで無痛」の検査を目指しています。
※詳しくは、当院の「大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」のページで説明していますので、ご覧ください。

便秘の治療法

便秘治療には、生活習慣・食事を見直した「便秘になりやすい環境の改善」と、お薬などで「スムーズに排便できるようにする」の2つの側面からのアプローチが大切となります。

  • 生活習慣の見直し
    出社・お出かけ前など朝に必ずトイレの時間を作って、排便する習慣を身につけましょう。
    寝起きに「白湯(ぬるま湯)」をコップ半分くらい飲むと、腸の働きを活発にして、便を柔らかくする効果が期待でき、その後、朝ごはんをしっかり食べることで、食後の朝トイレに繋がります。なお、「トイレを我慢しない」ことも重要です。排便の我慢が便秘の悪循環を生み出します。
  • 食生活の改善
    1日3食の規則正しい食事習慣は、スムーズに排便するためにはとても大切です。水分補給をしっかり行い、食物繊維(根菜類・穀物・海藻など)を多めに摂りましょう。また、柔らかいものばかり食べると、かえって便が硬くなりますので、ご注意ください。
  • 薬物治療
    器質性便秘では、原因となっている疾患の治療を優先して行います。
    一方、機能性便秘では便を軟らかくする「非刺激性下剤(緩下剤)」を中心に進め、効果不十分であれば、腸の働きを促す「刺激性下剤」を緩下剤と併用します。漢方薬を使用することもあります。
    なお、「下剤を使うと、癖になってやめられなくなるのでは?」と心配される方も多いのですが、正しく使用すれば心配ありません。ただし、刺激性下剤は腸を刺激するお薬なので、長期間服用すると腸が刺激に慣れてしまい、かえって便秘になるリスクが高まりますので、注意が必要です。

よくあるご質問

どんな「便」が良いのでしょうか?

便の状態を表す世界的な基準に「ブリストル便形状スケール」があります。
①~②は便秘、⑥~⑦は下痢で、③~⑤が良い便とされており、中でも理想的な便は「④バナナ便」です。日頃からご自身の便の状態をよく確認しておくと、良いでしょう。

(図)ブリストル便形状スケール

下痢や便秘のときのホームケアを教えてください。

下痢のときは、腸の活動が異常になっているので、少しの間「休める」ことが大切です。お腹を温め、ゆっくり安静にしましょう。また、下痢が続くと、脱水症状になりやすいので、十分な水分補給に努めてください。また、感染性胃腸炎では、他人にうつす可能性があるので、こまめな手洗いも忘れずに行ってください。
一方、便秘のときは腸の動きを促す「のの字マッサージ」がおすすめです。
大腸の動きに合わせて、お腹の右下~右上~おへその上~お腹の左上~左下と、お腹の右下を起点に時計回りにもみほぐしていきます。朝・夕に20回ずつ行うと良いでしょう。

まとめ

便は「健康のバロメーター」とも呼ばれます。一過性の軽い下痢・便秘はどなたも経験があるでしょう。しかし、下痢・便秘の中には、重大な病気が原因となっていることがあります。その上、脳と腸は互いに影響し合う「腸脳相関」の関係が成り立っているため、下痢や便秘が続くと強いストレスとなって外出したくない/外出できなくなるなど、著しいQOL(生活の質)の低下に繋がります。
当院では、患者さんの排便状態・お腹の様子をしっかり診察した上で、原因に合わせ適切な検査・治療を進めていきます。下痢や便秘でお困りの方、一度ご相談ください。

記事執筆者

しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

出身大学

獨協医科大学 卒業(平成11年)

職歴・現職

獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

専門医 資格

日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医