疾患
disease

心筋梗塞

心筋梗塞(しんきんこうそく)は突然死の原因にもなる病気です。心臓を動かすために必要な血管(冠動脈)が完全に詰まることにより、血流が途絶えて心臓の筋肉(心筋)が壊死します。発症すると、胸部の激痛・締め付けられるような感覚が30分以上続き、冷や汗を伴うことが多いです。普段とは違う胸の痛みがなかなか治まらなかったら、すぐ救急車を要請しましょう。

心筋梗塞とは?

近年の生活習慣の欧米化に伴い、虚血性心疾患の患者さんは増加傾向で、厚生労働省によると、2020年の心筋梗塞の推定総患者数は約7.5万人と報告されています*1。
*1(参考)令和2年患者調査 傷病分類編(傷病別年次推移表)P.39|厚生労働省
心筋梗塞は狭心症の延長線上の病気とされていますが、狭心症と比べて死亡リスクが高い点が異なります。厚生労働省の調査(2021年)によると、急性心筋梗塞による死亡者数は約3万人*2で、35%~50%の方は発症から48時間以内に死亡しています。
*2(参考)死亡数・死亡率(人口10万対),死因簡単分類別 (2-1) P.2|厚生労働省
そのため、心筋梗塞の前段階である狭心症のうちに発見して、治療を始めることが大切です。

心臓の働き

心臓は筋肉(心筋)でできており、全身に血液を送るポンプの役目を担っています。心臓には、「冠動脈」と呼ばれる2本の血管が巻き付くように存在しており、心筋に血液(酸素・栄養)を供給しています。しかし、心筋に十分な酸素を供給できない状態(虚血)になると、狭心症や心筋梗塞といった「虚血性心疾患」を引き起こします。

狭心症と心筋梗塞の違い

  • 狭心症
    冠動脈の約75%以上が塞がった状態で、かろうじて心筋への血液供給は行われています。発作の多くは少し激しい動きをしたときに現れます(労作性狭心症)。ただし、安静時にも症状が現れる「安静時狭心症」や、次第に発作の回数が増えて症状が強くなる「不安定狭心症」は、心筋梗塞へ進行する場合があります。
    狭心症の詳細はこちら
  • 心筋梗塞
    血栓ができて、冠動脈の一部が完全に閉塞した状態です。血栓の大きさと壊死の範囲は比例しており、最悪の場合には死に至ります。
(図)冠動脈と心筋梗塞・狭心症の違い

心筋梗塞の症状

心筋梗塞の典型症状は、締め付けられるような「胸の激しい痛み」です。
発作と同時に細胞の壊死が始まります。激しい胸痛と一緒に、冷や汗、吐き気、息苦しさ(呼吸困難)、意識障害などを伴うときは、一刻を争います。
発症から数時間経つと、痛みが和らいでくることがありますが、発作が治まったのではなく、壊死により痛みの感覚がなくなっているだけなので、すぐに救急車を要請しましょう。
また、高齢者や糖尿病患者の方は、激しい胸の痛みが現れないケースもあるので注意が必要です。

【痛みの程度】締めつけられるような「激しい痛み」、胸全体が押さえつけられるような圧迫感
※表面的なチクチクよりも深いところに広く感じる痛み。「普段とは違う」と感じる痛み。
【痛みの持続時間】30分以上
※安静にしても、症状が治まりません。
【痛む場所】胸の中央部・左胸の奥の方
※のど・下顎・胸背部(肩甲骨の下)、肩、こめかみ、後頭部、みぞおちに痛みが広がるケースがあります。

心筋梗塞の原因

心筋梗塞の直接的な発症原因は「冠動脈の閉塞による心筋の壊死」です。
冠動脈の閉塞原因には「加齢」による血管の老化以外に「動脈硬化」があります。
動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールなどが溜まって、血管内が狭くなったり内壁が傷つきやすくなったりした状態のことです。

動脈硬化によって、血管の内側が傷つきコレステロールなどが沈着してくると、次第にプラーク(血管の内側に出来たゴミによる固まり)ができて、血管が狭くなっていきます。プラークは大きくなると破裂し、血栓により血管が詰まり、その先にある心筋へ血液(酸素・栄養)の供給が滞るようになります。血管の閉塞から約20分で、心筋の壊死が始まります。一度壊死した細胞は二度と元の状態には戻りません。

(図)血栓による血管閉塞

動脈硬化を起こす危険因子には、次のような疾患や要素があります。これらの危険因子が重なると、動脈硬化の発症に繋がることがあります。

  • 生活習慣病
    脂質異常症高血圧症糖尿病肥満などがあると、動脈硬化が進行しやすくなります。脂質異常症ページにリンクする
  • 喫煙
    タバコに含まれるニコチンによって、血管収縮・血圧上昇を起こします。また、タバコに含まれる一酸化炭素は血管の内壁を傷つけ、血液を固まりやすくさせます。
  • 遺伝的要素
    若いときから動脈硬化が進みやすい家族性高コレステロール血症などの遺伝性疾患がある場合や、血縁に心筋梗塞の方がいる場合には、発症リスクが高くなります。
  • ストレス
    過度なストレスは、血圧上昇や動脈硬化を引き起す要因となります。また、強いストレスを感じたことがきっかけとなって、急性心筋梗塞を引き起こすケースがあります。

心筋梗塞の検査・診断

心筋梗塞の診断は心電図・血液検査・画像検査から総合的に診断します。
※心筋梗塞は一刻を争う疾患なので、通常、基幹病院にて詳しい検査が行われます。

  • 心電図
    心筋に流れる微小な電流から心臓の動きの状態を確認する検査です。心筋梗塞では、典型的な波形がみられるため、血管の詰まった箇所・範囲を推測します。
  • 血液検査
    心筋が壊死すると、血中に心筋細胞から様々な酵素やホルモンが漏れ出します。代表的なものは、以下の通りです。なお、迅速キットにより15分程度で診断可能です。
    • クレアチンキナーゼホルモン(CPK)
      代表的な心臓マーカーです。発症から4~5時間経つと血中に増加します。
    • トロポニン
      発症から約3時間~12時間経つと血中に増加します。
    • CK-MB
      心筋にダメージが起こると血中濃度が上がります。壊死の程度が推測できます。
    • BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)
      心機能低下の早期発見に役立つホルモンです。自覚症状の前から心臓に負担がかかると血中濃度が上がります。
  • 心臓超音波検査(心エコー)
    超音波で心臓の動きやポンプ機能を確認します。心エコーは、心電図・心臓マーカーと比べて早期に心機能低下が分かります。
  • 冠動脈造影検査(カテーテル検査)
    脚の付け根や腕などの太い動脈からカテーテル(医療用の細い管)を挿入して、心臓まで到達させます。カテーテルから造影剤を流し込んで、冠動脈の状態を詳しく調べます。画像から、どの冠動脈がどの程度詰まっているかを確認します。この検査の後、そのままカテーテル治療(PCI)が行うことが一般的となっています。
    ※必要に応じて、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。

心筋梗塞の治療

心筋梗塞によって壊死した心筋は二度と再生しません。発症後できるだけ早く治療を行うことが重要です。これまでの調査から発症から12時間以内の再灌流療法*3(さいかんりゅうりょうほう)による有効性が確立されています。再灌流療法は一般のクリニックでは治療困難なので、さいたま赤十字病院など近隣の基幹病院に緊急搬送となります。
*3再灌流療法:途絶えた血流を再開させる治療のことで、カテーテル治療やバイパス手術などがある。
※当院では、主に術後の経過観察ならびに生活習慣についての指導・薬物療法などサポートを行っています。

カテーテル治療(カテーテル・インターベンション/経皮的冠動脈形成術:PCI)

現在の急性心筋梗塞治療の主流で、病変部位を直接治療します。局所麻酔で実施可能なので、胸を大きく開くバイパス手術と比べ、患者さんにかかる負担が軽くなります。脚の付け根などから冠動脈までカテーテルを進め、先端にあるバルーン(風船)を血管内で膨らませて血管を押し広げ、スムーズな血液の流れを取り戻します。術後、再び血管が狭くなることを予防するため、血流再開後に網目状の金属チューブ(ステント)を血管の中に置きます。血管の内側から補強することで安全性が高まり、手術直後の合併症が大幅に減少します。
※カテーテル治療が必要な場合、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。

(図)PCIによるステント留置イメージ

外科的手術(バイパス手術)

カテーテル治療が難しい場合には「冠動脈バイパス手術(CABG)」を行います。全身麻酔で胸を開いて、詰まった冠動脈に新しい血管の「う回路(バイパス)」を作ります。閉塞した先の冠動脈に安定した血流を確保する治療となります。素材には、脚の付け根の静脈(大伏在静脈)や肋骨の内側の動脈などから取り出した血管が使われます。バイパス手術には心臓を止めて行う方法と動かしたまま行う方法があり、患者さんの状況に合わせて選択します。
※バイパス手術が必要な場合、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。

生活習慣の見直し

再発予防のため、栄養バランスの良い食事や運動療法(心臓リハビリテーション)、禁煙指導、飲酒管理など生活習慣についての指導を行います。

薬物療法

動脈硬化を引き起こす要因(高血圧・脂質異常症など)をお薬でコントロールしていきます。使用する薬剤は、患者さんの症状・状態に合わせて選択します。
主に、心臓血管の障害予防効果が期待できる薬剤として、抗血小板薬・交感神経β遮断薬・ACE阻害薬など、狭心症発作を寛解・予防する薬剤として、硝酸薬・カルシウム拮抗薬などの血管拡張薬・交感神経β遮断薬を使用します。

よくあるご質問

心筋梗塞の前兆サインを教えてください。

急性心筋梗塞は「急に激しく胸が痛む」というイメージがあるかもしれませんが、実は心筋梗塞を発症した方の約半数には「発症前のサイン」が認められていました。
以下の前兆サインに複数該当する場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

  • 胸の痛みを感じることがよくある
  • 階段を上る・歩くなど身体を動かしたときに、胸の痛み・圧迫感がある
  • 胸の痛みなどが現れても、数分~10分程度で完全に治まる
  • 最近、息切れや呼吸困難な状態、意識を失うことがたまにある
  • 冷や汗・脂汗が出る、吐き気・嘔吐することがよくある
  • 背中・肩・左腕・あご・歯が痛くなることがある
  • 喫煙習慣がある
  • 健康診断・人間ドックで、メタボリック症候群や高血圧・脂質異常症と指摘された
  • 最近、食欲がなくなっている
  • 不整脈の持病がある
  • 心筋梗塞を予防するには、どうすればよいでしょうか?

    狭心症と同じように、心筋梗塞の多くで「動脈硬化」が発症ベースとなっています。生活習慣の見直しや薬物による生活習慣病のコントロールで、動脈硬化を促進させないようにしましょう。

  • 禁煙
  • たばこに含まれているニコチン・一酸化炭素は動脈硬化を促進させるだけでなく、心筋梗塞の直接的な引き金となることがあります。

  • 栄養バランスの取れた食生活
  • 塩分・糖分・脂質は取り過ぎないようにし、過度なアルコール摂取は控えましょう。

  • 適切な運動
  • 週3回以上、30分程度の軽め~ややつらい程度の運動(ウォーキングなど有酸素運動)がおすすめです。

  • 適度にストレスを発散する
  • 血縁に心筋梗塞患者さんがいれば、症状がなくとも生活習慣に注意する
  • 生活習慣病がある場合は、進行しないように薬で適切に管理する
  • まとめ

    心筋梗塞による胸の痛みは、狭心症のように15分程度で治まるようなものではなく、冷や汗・吐き気などを伴い、30分以上激しい痛みが続きます(ただし、糖尿病患者さんや高齢者では胸の痛みが現れないケースもあるので要注意)。
    血流が完全に途絶えることで一気に心筋の壊死が進むので致死性が高く、心筋梗塞は日本人の死因の第2位(心疾患)です。血流回復が遅れるほど死亡率も上昇するため、できるだけ早くカテーテル治療を行うことが大切です。心筋梗塞の発作がみられたら、すぐに症状を誰かに伝えてください。意識を失うことがあるので、自分で車を運転して病院に行くのではなく、救急車を要請しましょう。
    そして、手術後は再発予防のための経過観察が必要となります。当院では、患者さんお一人お一人に合わせた術後のフォローアップを行っております。お気軽にご相談ください。

    記事執筆者

    しおや消化器内科クリニック 院長 塩屋 雄史

    出身大学

    獨協医科大学 卒業(平成11年)

    職歴・現職

    獨協医科大学病院 消化器内科入局
    佐野市民病院 内科 医師
    獨協医科大学 消化器内科 助手
    佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
    さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
    さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
    しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)

    専門医 資格

    日本内科学会認定内科医
    日本肝臓学会認定肝臓専門医
    日本医師会認定産業医