労作性狭心症による胸痛が起こったら、まずは安静にしましょう。座って襟元を緩めるなど楽に呼吸ができるようにすると良いです。狭心症治療として応急処置用の硝酸薬が処方されている場合には、すみやかに服用しましょう。
ただし、応急処置用の薬を使用すると、血圧低下により倒れてしまう可能性がありますので、椅子に座るなど安全を確保してから、お薬を使用すると良いでしょう。
狭心症(きょうしんしょう)は、命に関わる疾患「心筋梗塞(しんきんこうそく)」の前段階とされる病気です。心臓の筋肉(心筋:しんきん)に酸素を供給している血管(冠動脈:かんどうみゃく)の一部が狭くなることにより、胸の痛みや圧迫感が生じて、15分程度で治まります。狭心症から心筋梗塞に進行することもあるので、狭心症の段階で発見して、早期に治療を開始することが重要です。胸の痛み・圧迫感などがありましたら、お気軽にご相談ください。
狭心症とは、心筋への血流が低下して酸素不足となり症状が引き起こされる「虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)」のひとつです。近年の生活習慣の欧米化に伴い、狭心症患者さんは増加傾向であり、女性に比べて男性の発症が多くなっています。厚生労働省によると、2020年の狭心症の推定患者数は約85万人と報告されています*1。
*1(参考)令和2年患者調査 傷病分類編(傷病別年次推移表)P.39|厚生労働省
心臓は筋肉(心筋)でできており、胸のほぼ中央に位置します。心筋の収縮・弛緩によって全身に血液を送る、ポンプの役目を担っています。そんな心筋自体に酸素や栄養を供給しているのが、心臓に巻き付くよう左右に存在している「冠動脈」と呼ばれる2本の血管です。
この冠動脈の約75%以上が狭窄して、心臓に十分な酸素を供給できない状態(虚血)になると、「狭心症」として胸の痛みなどの症状が現れます。なお、血管が完全に閉塞して心筋の壊死が起これば「心筋梗塞」となり、狭心症よりも強い痛みが長く現れ、最悪の場合に死に至ることがあります。
狭心症は、主に狭心発作の起こるタイミングによって、次の2つのタイプに分けられます。
ほかに、臨床経過による分類として、次のようなものがあります。
狭心症の典型症状は、締め付けられるような「胸の痛み」です。
胸痛と一緒に、冷や汗、吐き気、息苦しさなどを伴うこともあります(随伴症状)。
【痛む主なタイミング】
【痛みの程度】締めつけられるような「激しい痛み」
※表面的なチクチクよりも深いところに広く感じる痛み。「ここが痛い」と示せるような狭い範囲の胸痛は狭心症ではないケースが多いです。
【痛みの持続時間】長くて15分程度
※1分未満の短い痛みは狭心症ではないケースが多いです。一方で30分以上続く強い胸痛は「心筋梗塞」の疑いがあります。すぐに救急車を要請しましょう。
【痛む場所】胸の中央部・左胸の奥の方
※のど・下顎・胸背部(肩甲骨の下)、肩、こめかみ、後頭部、みぞおちに感じるケースもあります。
痛みの長さに関わらず、締めつけられるような胸痛が突然起こって、冷や汗・吐き気を伴っている場合は、すぐに医療機関を受診してください。
狭心症の直接的な発症原因は「冠動脈の狭窄による虚血」ですが、虚血を起こす要因は2種類あります。さらに、川崎病の後遺症や大動脈弁膜症から狭心症となるケースもあります。
虚血要因①動脈硬化
動脈硬化とは、動脈の内側にコレステロールなどが溜まり、血管が狭くなったり硬くなったりして弾力性を失った状態となることです。身体を動かすためには心臓が活発に働く必要がありますが、動脈硬化によって冠動脈が細くなっていると心臓の動きに必要な血液(酸素・栄養)が不足するため、症状が引き起こされます。
また、動脈硬化を起こす危険因子として、次のような疾患や要素があります。これらの危険因子が重なることで、動脈硬化を発症しやすくなります。
冠攣縮性狭心症の主な原因です。普段はプラーク(冠動脈の壁に蓄積されたゴミ)による血管の狭窄は起こっていませんが、冠動脈がけいれんすることで一時的に血流が低下し、心筋虚血を引き起こします。
冠動脈けいれんの発生要因には、労作性狭心症と同じく「動脈硬化」があるほか、喫煙・飲酒・ストレスとの関連性の指摘があります。
狭心症の診断は、自覚症状ならびに心電図から総合的に診断します。
そのほか、運動をしながら行う心電図で労作性狭心症の可能性を確認できる「運動負荷心電図(トレッドミル検査)」、心臓に微量の放射性薬品(アイソトープ)を投与し、その分布を撮影する検査「心筋シンチグラム」、造影剤を静脈から注射して心臓をCTで撮影する検査「心臓CT検査」、冠動脈の狭窄の程度や部位、病変の起きている箇所の数などを確認する検査「心臓カテーテル検査」などがあります。
※必要に応じて、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。
狭心症の病態や患者さんの状態によって、治療法は異なります。基本的にはお薬による治療を最初に行い、薬を使っても日常生活で発作が起こる場合には、カテーテルや外科的手術で狭くなった血管を広げる治療を検討します。
当院では、主に薬物療法および術後の経過観察などのサポートを行っています。
まずは薬物療法で症状緩和と発作予防を行います。使用する薬剤は、患者さんの症状・状態に合わせて選択します。
カテーテル治療は局所麻酔で実施可能なので、胸を大きく開くバイパス手術と比べて、患者さんにかかる負担を抑えられます。脚の付け根などの血管から、先端に風船(バルーン)が付いた医療用の細い管(バルーンカテーテル)を差し込んで冠動脈まで進め、カテーテルの先端のバルーンを血管の内側から膨らませます。狭くなった血管が押し広げられることで、スムーズな血液の流れを取り戻します。また、近年では術後の再狭窄予防のため、血流再開後に網目状の金属の筒(ステント)を血管の中に置いて、血管の内側から補強を行うことが主流となっており、術後の合併症の発生率が大幅に減少しています。
※カテーテル治療が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。
薬の効果が不十分で、カテーテル治療が難しい場合には「冠動脈バイパス手術(CABG)」を行います。全身麻酔で胸を開いて、詰まった冠動脈にう回路(バイパス)を作ります。う回路として、脚の付け根の静脈(大伏在静脈など)や肋骨の内側の動脈などから血管を取り出して、詰まった冠動脈の先に縫い合わせます。バイパス手術には、心臓をいったん止めて人工心肺を使う場合(オンポンプ手術)と、心臓を動かしたまま行う場合(オフポンプ手術)があり、患者さんの病態や年齢などから総合的に判断して選択されます。
※バイパス手術が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。
労作性狭心症による胸痛が起こったら、まずは安静にしましょう。座って襟元を緩めるなど楽に呼吸ができるようにすると良いです。狭心症治療として応急処置用の硝酸薬が処方されている場合には、すみやかに服用しましょう。
ただし、応急処置用の薬を使用すると、血圧低下により倒れてしまう可能性がありますので、椅子に座るなど安全を確保してから、お薬を使用すると良いでしょう。
狭心症の多くで「動脈硬化」が発症ベースとなっています。生活習慣の見直しを図って、動脈硬化を促進させる生活習慣病(高血圧・心臓病・脂質異常症など)の発症を防ぐことが大切です。また、既に罹患している場合には、適切な治療を受け、しっかりコントロールしておきましょう。予防のポイントは次の通りです。
たばこに含まれているニコチン・一酸化炭素は動脈硬化を促進させるだけでなく、狭心症の直接的な引き金となることがあります。
週3回以上、30分程度の軽め~ややつらい程度の運動(ウォーキングなど有酸素運動)がおすすめです。
狭心症発作による胸の痛みは15分程度で治まるため、ついつい医療機関の受診が後回しになっている方がいらっしゃるかもしれません。しかし、狭心症は心筋梗塞の前段階です。血管が狭くなっている可能性があるだけでなく、血管の完全閉塞が起こると心筋組織が壊死して「心筋梗塞」に進行することがあり、最悪の場合には命を落とす恐れもあります。一時的な胸の痛みだとしても、狭心症は早期発見・早期治療が必要な疾患です。時折、胸が締め付けられるような痛み・圧迫感などの症状が認められる場合には、早めにご相談ください。