感冒(かんぼう)とは、「風邪(かぜ)」のことです。あらゆる年齢層で発症し、人生で何度もかかってしまう「ありふれた病気」です。
実は「風邪」という名称は病名ではなく俗称で、医学的には「かぜ症候群(普通感冒・急性上気道炎)」と呼ばれます。風邪は鼻腔(びくう)から咽頭(いんとう)までの空気の通り道(上気道)に急性炎症が起こることによって発症し、主に鼻水・鼻づまり・のどの痛み・発熱・頭痛・くしゃみなどの症状が現れます。80%の方は1週間程度で自然軽快していきますが、免疫力が低下しているときや乳幼児・高齢者では、気管支炎・肺炎を併発するなど症状が悪化する場合もあります。数日経っても症状が軽快してこない、高熱・息苦しいなど症状がひどいときには、早めに医療機関を受診しましょう。
当院では、患者さんの症状に合わせ、お薬の処方・点滴などによる症状緩和に努めています。また、「発熱外来」を設置しております。風邪症状がある方は必ずお電話にてご予約の上、ご来院ください。
※風邪症状がある方はコロナ感染の可能性があるため、WEB予約をされても診察できません。何卒ご了承ください。
かぜ症候群とは?
かぜ症候群とは、鼻腔から咽頭までの上気道(下気道の一部を含む)に起こる急性炎症の総称です。かぜ症候群の中には、咽頭(のど)の炎症「咽頭炎」や気管支の炎症「気管支炎」などの疾患が含まれます。
風邪(感冒)の発症のしくみ
風邪は、ウイルスなどの病原体が気道から体内に入り、気道粘膜に付着・増殖することで発症します。通常、潜伏期間は数日~1週間程度とされていますが、病原体が体内に侵入したからといって必ずしも風邪を発症するとは限らず、感染者の免疫力や環境要因などによって発症するかどうかが決まります。なお、乳幼児や高齢者では、抵抗力(免疫力)が弱いため、風邪を引きやすい(=発症しやすい)傾向があります。
風邪(感冒)の感染経路
- 飛沫感染(ひまつかんせん)
風邪の原因となる病原体を保有している人のくしゃみ・咳などを、近くにいる第三者が鼻・口から吸いこむことによって感染します。
- 接触感染
感染者によって病原体が付着した周囲の物(ドアノブ・つり革・コップ・おもちゃ・スイッチなど)を第三者が触り、第三者の手に病原体が付きます。その後、第三者が病原体の付いた手で自身の目・鼻・口を触る・何か食べるなどを行い、体内に病原体が侵入することで感染します。
風邪(感冒)の症状
主に次のような症状が上気道(鼻~のど)を中心に現れますが、通常、1週間~10日程度で症状は自然に軽快していきます。
- 鼻症状(鼻水・鼻詰まり)
- 初期は水っぽい鼻水が、症状の進行と共に粘り気のあるものに変化していきます。
- のどの症状(のどの痛み・赤み)
- 発熱
- くしゃみ
- 頭痛
- 全身倦怠感(だるい感じ)
また、炎症が下気道(気管~肺)まで及ぶと、以下のような症状も現れます。
風邪(感冒)の原因
風邪の原因の約90%は「ウイルス感染」で、残り10%は細菌(微生物)によるものです。現在、風邪を引き起こすウイルスは200種類以上あると推定されていますが、同じウイルスでも複数の型があったり年々変異したりするため、風邪の原因菌を特定することは非常に難しいです。そのため、年齢に関わらず、何度でも風邪にかかってしまうのです。
風邪を引き起こす代表的なウイルス・細菌には、次のようなものがあります。
- ライノウイルス
30~50%を占める風邪の主な原因ウイルス。一年中みられますが、特に春と秋が多いです。主に鼻症状を引き起こします。
- コロナウイルス
風邪の10~15%を占める、ライノウイルスの次に多い原因ウイルス。冬に流行のピークがあり、6歳までの子どものほとんどが感染します。主に鼻やのどの症状を引き起こしますが、多くは軽症です。コロナウイルスには旧型4種類と新型3種(COVID-19を含む)がありますが、風邪の原因菌となるのは旧型のコロナウイルスとなります。
- RSウイルス
ほとんどの人が2歳までに感染するウイルスで、患者の約75%は1歳以下となっていますが、大人でも感染することはあります。主に発熱・鼻水などが現れ、一般的には年長児以降の重症化は少ないのですが、基礎疾患のある乳幼児や抵抗力の弱くなっている高齢者では、細気管支炎・肺炎といった重症化リスクが高まります。
- パラインフルエンザウイルス
秋・春によくみられるウイルスです。「インフルエンザ」という言葉が入っていますが、インフルエンザウイルスとは異なります。6歳頃までの子どもに多く発症し、発熱(微熱)・咳・鼻水などが現れます。RSウイルスと比べて重症化は少なく、再感染時は初感染よりも軽症となる特徴を持ちます。ウイルスには4つの型があり、1型は3歳までの乳幼児によくみられる「クループ(喉頭気管気管支炎)」、3型では子ども・高齢者・免疫が弱くなっている場合に肺炎や細気管支炎を引き起こすことがあります。
- アデノウイルス
プールの水を介してうつる「プール熱(咽頭結膜熱)」の原因ウイルスで夏風邪*1のひとつ。主にのどの痛み(咽頭炎)、目の充血(結膜炎)、高熱が現れ、気管支炎や肺炎を引き起こします。アルコール消毒・熱に対する抵抗力が高いです。
- *1夏風邪:夏に多い風邪で子供の発症が多くみられるが、大人も発症します。主な原因菌はアデノウイルス(プール熱)のほか、エンテロウイル(手足口病)、コクサッキーウイルス(ヘルパンギーナ)です。
- インフルエンザウイルス
インフルエンザを引き起こす原因ウイルスで、A・B・C型があります。主にA型B型の流行があり、日本では1~3月頃にピークを迎え、たまに夏の流行もみられます。風邪に比べて全身症状が強い特徴があり、突然、発熱(高熱)・頭痛・倦怠感・関節痛などが現れるます。感染力が強いので集団感染しやすく、さらに少しずつ変異するので、毎年のように流行を繰り返します。肺炎・気管支炎の合併や急性脳症を引き起こすことがあるので、要注意です。なお、その年の流行の型を予測して作られたワクチン接種(任意)が毎年実施されています。
- 溶血性連鎖球菌(溶連菌)
のどに感染して「溶連菌感染症」を引き起こす細菌です。のどが痛くなる・扁桃に白い膿ができる・発熱する(38~39℃)・手足に小さな赤い発疹が出る・舌の表面に赤いぶつぶつ(苺舌)ができる、といった特徴的な症状が現れますが、咳や鼻水は出ません。15歳以下の子どもの発症が多い一方で、感染力が強いため、家庭内で子どもから大人への感染も少なくありません。
- 肺炎球菌
肺炎の代表的な原因菌です。感染すると大人では主に肺炎になりますが、乳幼児で肺炎のほか中耳炎・細菌性髄膜炎などを引き起こします。肺炎の主な症状は、咳・黄色の痰・38℃以上の発熱で、重症化すると呼吸困難や脱水症状もみられます。高齢者では、食欲がない・元気がないという状態が現れます。乳幼児および高齢者にはワクチンによる予防接種(定期接種)が実施されています。
- マイコプラズマ・ニューモニア(肺炎マイコプラズマ)
一年を通してみられる「マイコプラズマ感染症」の原因菌です。発熱・全身倦怠感・頭痛を起こします。乾いた咳が出始めると「マイコプラズマ肺炎」へ移行し、咳が止まらなかったり熱が下がらなくなったりします。ほかにも、中耳炎・無菌性髄膜炎・脳炎・肝炎・膵炎・溶血性貧血・心筋炎・関節炎など多彩な合併症があります。
注意したい風邪(感冒)の合併症
風邪がきっかけとなって、他の病気を引き起こす可能性もあります。
風邪の代表的な合併症は、次の通りです。
- 肺炎
風邪症状に加えて、胸の痛み・高熱・頻脈(脈が速くなる)・息苦しいといった症状が現れます。喫煙者では、風邪を引くと肺炎を併発しやすくなる傾向があります。
肺炎の詳細はこちら
- 喘息(ぜんそく)
風邪を引いた後に、喘息症状が悪化することがよくあります。
※喘息の詳細はこちら
- 気管支炎
気道に炎症が起こります。咳が止まらず、気管支炎になるケースが少なくありません。
- 中耳炎
風邪により、鼻水が増えると、鼻と耳を繋ぐ管(耳管:じかん)から耳(中耳)にウイルスが入りこむことで、中耳炎が引き起こされます。特に小さいお子さんでは耳管が未発達なので、風邪からの中耳炎が多くみられます。
風邪(感冒)の検査・診断
風邪では、基本的に問診と視診・触診・聴診によって、鼻・のど・胸(肺)の状態や発熱・咳・痰などの臨床所見を確認し、診断しています。しかし、発熱や咳などの症状が長引くケースでは、肺炎の合併を鑑別するために、X線検査(レントゲン)・CT検査などを行います。
また、インフルエンザや溶連菌の感染が疑われるときには、鼻・のどの粘液を綿棒でぬぐって調べる迅速検査(結果は20分程度)、百日咳などでは血液検査など、必要に応じて検査を行います。
風邪(感冒)の治療
風邪には特効薬はありません。不快症状に対してお薬で和らげる「対症療法」を行います。なお、主な原因菌はウイルスなので抗生物質は効きません。ただし、細菌感染が疑われる場合には、抗生物質の投与が必要になることもあります。
当院でも患者さんの症状に合わせたお薬・点滴を処方して、症状の緩和に努めます。
※中学生以降の対応とさせていただいております。
<風邪を早く治すためのポイント>
風邪を引いたときは無理をせず、ゆっくり休息を取って、身体の回復を助けましょう。
- 安静にして、十分な睡眠を取る
- 消化の良い食事を摂って、しっかり水分補給をする
- 部屋を加湿して、乾燥を防ぐ
一般的な風邪は自然治癒しますが、いつもと症状や経過が違うと感じたら、すみやかに医療機関を受診するようにしましょう。
よくあるご質問
風邪を予防するには、どうすればよいでしょうか?
以下のポイントに注意して、日頃から風邪を引かないように予防しましょう。
栄養バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレス発散によって、免疫力の低下を防ぐ
帰宅時には、うがい・手洗いを行う
風邪の流行時期には、人混みの多いところに行くことを避ける、マスクをかけて出かけるなどして、ウイルスの体内侵入を防ぐ
なお、咳・くしゃみが出ているときは「マスクをする」「ティッシュやハンカチ・袖などで口・鼻を押さえる」といった咳エチケットを行い、他の人にうつさないように努めましょう。
昔からあるコロナウイルスと、新型コロナウイルスは何が違うのでしょうか?
旧型コロナウイルス……風邪ウイルス
風邪の原因となるウイルスのひとつで4種類あり、世界中でヒトに蔓延しています。6歳頃までのほとんどの子どもが感染を経験します。高熱を引き起こすケースもありますが、多くは鼻水・のどの痛み・下痢などの軽い症状で済むので、問題になることはありません。
新型コロナウイルス……重症肺炎ウイルス
動物から感染して重症肺炎を起こすウイルスで、今のところ3種類が確認されています。近年、世界中で猛威を振るっている「新型コロナウイルス感染症(COVID-19,SARS-CoV-2)」は2019年に中国で発見され、コウモリのコロナウイルスを祖先に持つと考えられていますが、いまだ感染経路は明らかになっていません。ほかにも、コウモリから感染した「重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV:サーズ)」、ヒトコブラクダから感染した「中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV:マーズ)」があり、新型ウイルスは計3種類確認されています。いずれも高齢者や糖尿病・心臓病などの基礎疾患がある場合には、重症肺炎を引き起こすことが多いので注意が必要です。
(参考)コロナウイルス|国立感染症研究所
まとめ
少し時間はかかりますが、風邪(感冒)の多くは十分に安静・栄養・睡眠を取れば、自然治癒が可能です。クリニックでは、お薬を使った「対症療法」で症状を抑えて身体の回復を助け、自然治癒よりも早く治るようにサポートをしていきます。
「どうせ、いつもの風邪だろう……」と思っていても、中には溶連菌感染症・急性肺炎など、すみやかに薬物治療を行った方がよい疾患が隠れているケースがあります。
特に、高熱、のどの痛みで食事も困難だったり息苦しさを感じるほどの咳があったりする場合や、症状がなかなか改善しないときには、早めに病院を受診してください。
記事執筆者
しおや消化器内科クリニック
院長 塩屋 雄史
職歴・現職
獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)
専門医 資格
日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医