「眠ろうとしているのに、どうしても眠れない」ということはありませんか?
ストレスの多い現代では、日本人の約5人に1人は不眠症状を抱えているとされています。
夜眠れない状態が続いて精神や身体の不調を起こし、日常生活に支障を及ぼしている場合には、「不眠症」という病気かもしれません。
眠れない状態を一人で抱え込んでしまうと、眠ることに対する不安が緊張に繋がり、より眠れなくなるという悪循環を生み、「うつ」「ストレス性疾患」など心と身体に悪影響を及ぼします。
不眠症治療では、早期治療開始が重要です。
病院で不眠について相談するだけでも、眠れないことに対する恐怖心が和らいで、不眠が解消するケースがあります。「最近、不眠気味かも……」と思ったら、お一人で悩まず、お気軽に当院までご相談ください。
不眠症とは?
不眠症とは、不眠によって身体や精神に不調を来し、日中に影響を及ぼす状態のことです。
不眠症と言うと、「睡眠時間の短さ」が問題のように思われがちですが、睡眠時間は人それぞれで、睡眠時間の長さや目覚めの回数が問題ではありません。むしろ、健康な人でも加齢と共に睡眠時間は徐々に短くなる傾向があります。
不眠症の疫学
成人を対象とした我が国の疫学調査によると、成人の約30%~40%に何らかの不眠症状があり、約10%は慢性不眠症がみられると報告されています。不眠症状は女性に現れやすい傾向で、60歳以上の半数に認められています。また、東日本大震災や新型コロナウイルス感染症といった大きな災害や社会環境変化の後には、一時的に増加します。
不眠症による影響
不眠が続くと、次のような不調が現れ、日常生活にも影響が及びます。
- 倦怠感(だるい感じ)がある、疲れが取れない
- 集中力・注意力・判断力・記憶力の低下
- 日中、強い眠気に襲われる
- 意欲低下・抑うつ(やる気・気力がでない)
- イライラする、気分がすぐれない、焦燥感(焦る感じ)がする
- 社会的・職業的機能の低下、学業低下
- 仕事中のミスが増える、運転中に事故を起こしやすくなる
- 緊張・頭痛・胃腸症状・めまいなどの身体症状が現れる
- 食欲不振
不眠症の4つの症状タイプ
不眠症には、大きく分けて4つの症状タイプがあります。なお、これらの症状は同時に複数現れる場合があります。
入眠障害(入眠困難)
眠ろうと布団に入っても、30分~1時間以上寝付けないタイプ。寝つくまで2時間以上かかるケースもあります。一方で、一度寝付けば朝まで寝られます。不眠症の中で一番多いタイプです。不安や緊張を強く感じるときに起こりやすい傾向があります。
中途覚醒
一度眠りについても、眠りが浅く、寝ている途中で何度か目が覚め、その後なかなか寝付けなくなるタイプ。眠れたとしても「細切れ睡眠」となるため、熟眠感(じゅくみんかん:よく寝た感じ)が得られません。高齢者に多い傾向があります。
早朝覚醒
通常よりもかなり早い時間(午前3~4時頃)に目が覚めてしまい、その後眠れなくなってしまうタイプ。高齢者やうつ病の方に多い傾向があります。
熟眠障害
十分な睡眠時間を取っていても眠りが浅く、目覚めたときにぐっすり寝た気がしないタイプ。
寝ているときに筋肉がピクピク動く「周期性四肢運動障害」や、呼吸障害が起こる「睡眠時無呼吸症候群」など睡眠時の病気が関係していることもあります。
不眠症の原因
不眠症の多くは、1つの明確な原因というよりも、様々な要因が複合的に絡み合って引き起こされています。不眠に繋がる要因には、次のようなものがあります。
- 精神的・心理的ストレス
対人関係・仕事・学業の悩み、緊張、喪失体験、旅行先・入院などが精神的負担になります。特に神経質・生真面目な性格の人では、精神的ストレスを強く感じる傾向があり、不眠症状がみられると、不眠にこだわってしまいやすく、不眠症に繋がります。
【起こりやすい不眠タイプ】入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒
- 精神的疾患
不眠・過眠症状(眠気)に、うつ病・不安障害が隠れていることも少なくありません。不眠症状に気分の落ち込み、意欲の低下(何事もやる気が出ない)といった症状を伴っている場合には、すみやかに医療機関へご相談ください。
【起こりやすい症状タイプ】入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒
- 身体的疾患
身体疾患や治療薬による不快症状も眠りが妨げられる要因となります。
主な疾患には、高血圧・心臓病(苦しさ)、呼吸器疾患(咳など)、腎臓病・前立腺肥大(頻尿)、糖尿病・関節リウマチ(痛み)、アレルギー疾患(かゆみ)、脳梗塞・脳出血などがあります。また、「睡眠時無呼吸症候群」「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」では、睡眠に伴う呼吸異常・四肢の異常運動(睡眠障害)が現れ、不眠を引き起こしやすくなります。
【起こりやすい症状タイプ】入眠障害、中途覚醒
- 加齢
体内時計は加齢によって前倒しに変化していくため、次第に早寝早起きになっていきます。また、睡眠が浅くなるので、少しの音でも目が覚めやすくなります。
【起こりやすい症状タイプ】中途覚醒、早朝覚醒
- 生活リズムの乱れ・環境の変化
夜勤などのシフト勤務や海外渡航による時差ボケ、長時間の昼寝、夜更かしの繰り返しは、体内時計を狂わせる原因となります。また、枕を変えた、部屋が明るい、暑い、引っ越しをした、転職した、工事の音がうるさい、といった身の回りの環境変化も眠れない要因となります。
【起こりやすい症状タイプ】入眠障害、早朝覚醒、熟眠障害
- 薬の影響・嗜好品
神経に作用するお薬・ホルモン薬・ステロイド薬・降圧剤・抗がん剤や、カフェイン(コーヒー・紅茶など)、ニコチン(たばこ)、アルコールといった嗜好品には睡眠を妨げる作用が含まれます。一方、アレルギー治療や酔い止めなどに使われる抗ヒスタミン薬の一部には、眠気を催す副作用があります。
【起こりやすい症状タイプ】入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒
不眠症の検査・診断
不眠症の検査
不眠症は、外見の変化が現れる病気ではないため、診断材料には患者さんからの申告(問診)が何より重要になります。
不眠症状が現れ始めた時期、症状のタイプ(睡眠パターン)、思いつくきっかけ、就寝前の習慣、服用薬、既往症、アルコールなどの嗜好品の摂取、活動レベルなどについて、詳しくお伺いします。必要に応じて、血液検査などにより不眠症状を引き起こす病気の検査を行います。
※検査結果次第では、より詳しい検査が行える他の医療機関をご紹介します。
不眠症の診断
不眠症の診断には、「不眠症状」だけでなく、「日中への影響」がポイントとなります。
週3日以上の不眠と日中の不調が、3か月以上続いている場合には「慢性不眠症」、3か月未満では「短期不眠症」に分かれます。
不眠症の治療
不眠症治療では、まずはお薬を使わない方法で、不眠に繋がる要因を取り除くことから始めます。なお、他の疾患が不眠原因となっている場合には、背景にある病気の治療を優先します。不眠症治療の最終的なゴールは、「薬に頼らずとも、十分な睡眠が得られるようになること」です。
当院では、不眠症の原因となる様々な要因に対し、内科的アプローチからの総合的な診察を行っています。
非薬物療法(薬を使わない治療法)
1 生活習慣・環境の改善指導
以下のようなポイントに注意して、少しずつ生活習慣を整えましょう。
- 起床・就寝時間を毎日同じにする
人の寝起きは「時刻」ではなく、「体内時計」で調節されています。だいたい起床から約14~16時間後に眠気を催します。平日・週末問わず、同じ時刻に起床して、同じ時刻に就寝するようにしましょう。「早起き」が早寝に繋がります。
朝、太陽の光を浴びる太陽光には体内時計の調整作用があるので、朝起きたら太陽の光を浴びましょう。
- 睡眠時間にこだわらない
「○時間は絶対に眠る」といった目標を決めるのは逆効果となることがあります。「眠ろう」という強い意気込みは、返って頭が冴えて、寝つきが悪くなります。どうしても眠れないときは、思い切って布団から出て、眠くなってから布団に入るようにしましょう。これまでの研究から、布団の中で長時間過ごすと、熟眠感(よく寝た感じ)を得にくくなる上、無理に寝床にいると、不眠が悪化することが分かっています。
- 昼寝は午後3時までに30分以内
日中に眠気を感じるときは、午後の早い時間(午後3時頃まで)に30分以内の短い睡眠を取ると、夜の睡眠に影響もなく、頭がスッキリして眠気が覚めます。
- 寝る前の酒・コーヒー・たばこなどは避ける
寝る前のアルコール、コーヒー・お茶・栄養ドリンク剤などのカフェイン、たばこは快眠を妨げます。寝酒は避けましょう。
- 寝る前にリラックスタイムを作る
眠たくなるには、「リラックス」が大切です。寝る前には、軽い読書や音楽、ぬるめの入浴、アロマテラピー、軽いストレッチなどを行って、副交感神経を優位にさせましょう。半身浴も心臓への負担が少なく、睡眠の質の向上に効果的です。
- 眠るための環境作りを心がける
眠りやすい寝室づくりも重要です。ベッド・布団・枕・照明など自分に合ったものを選びましょう。心地よい眠りのためには、室温を20℃前後、湿度を約40~60%に保つのが良いとされています。スマホ・タブレット・パソコン・ゲーム機の液晶から出るブルーライトには覚醒作用があるため、寝る前には使用を控えましょう。
- 午後に軽めの運動を行う
適度な肉体疲労は、心地よい睡眠につながります。午前中よりも午後に少し汗ばむ程度の軽い運動をするのがおすすめです。激しい運動は交感神経を興奮させるので、負担にならない程度の有酸素運動(早足でのウォーキング・サイクリング・軽いジョギングなど)を定期的に続けると効果的です。
- ストレスを適度に発散する
快眠にはストレスが大敵です。音楽・読書・スポーツ・旅行など、自分に合った趣味を持つようにして、気分転換やストレス発散を図りましょう。
2 認知行動療法
認知行動療法とは、不眠症の原因となっている睡眠についての考え方の癖を直して、普段の行動を変えていく治療法です。寝ていた時間・布団に入っていたが目が覚めていた時間などの睡眠状態を把握するため、「睡眠日誌」を付けていただくことがあります。
薬物療法
生活習慣や環境の見直しを行っても、不眠が改善しないときはお薬による治療を行います。
睡眠薬に対して不安なイメージをお持ちの方が多いようですが、近年では副作用の少ない、依存性の少ないお薬が主流としています。医師の指導のもと、適切な服用をすれば、過度な心配は不要です。とはいえ、漫然と長期的に使い続けるのはよくないため、当院では不眠の背景にある原因に対処しながら、患者さん一人一人の症状・生活スタイルに合わせ、薬の減量や休薬日を作るなど、できるだけ睡眠薬がなくても良い状況になるよう進めていきます。なお、自己判断による薬の減量・中断は、日中の不快症状(不安・イライラなど)や不眠症状が悪化するなどの恐れがありますので、絶対にやめましょう。
よくあるご質問
これまで寝る前にお酒を飲むとよく眠れていたのに、この頃ぐっすり眠れません。
「寝る前にお酒を飲むと、よく眠れる」という話を聞いたことがあるかもしれません。
実は、寝酒は不眠の要因となる上、悪化させる原因にもなり得ます。
アルコールには睡眠導入効果がありますが、その反面、利尿作用や睡眠が浅くなりやすいことが影響して、「中途覚醒」「早朝覚醒」の原因となります。また、アルコール摂取が習慣化すると耐性ができ、次第に同じ量では眠れなくなり、どんどん摂取量が増えていきます。過剰なアルコール摂取が長期化すると、肝障害やアルコール依存症のリスクが高くなるので、寝酒を止めて生活習慣を見直すところから始めると良いでしょう。
市販されている睡眠薬には、不眠症効果はあるのでしょうか?
最近、ドラッグストアで睡眠薬が市販されています。しかし、市販の睡眠薬は、抗アレルギー薬の副作用である眠気を利用したものとなり、あくまでも一時的な使用に限られます。不眠症となる原因は人それぞれなので、不眠が長引いて日中に影響を及ぼしている場合には、市販の睡眠薬で対処するのではなく、かかりつけ医に相談すると良いでしょう。
まとめ
誰でもストレスや生活リズムの乱れ、運動不足などで、数日~数週間睡眠パターンが変動することはよくあります。しかし、不眠によって日中の生活に支障を来している場合には、対策が必要となるので、早めに専門家に相談しましょう。不眠症治療では、すぐに結果を求めず、不眠に繋がる要因を一つずつ丁寧に解決していくことが、不眠解消の近道となります。一人で思い悩まず、もし眠れなくても「明日のことは明日考えよう」「日中に支障なく過ごせるなら、いいか」と割り切り、気持ちを落ち着かせる心がけも大切です。「最近、しっかりと眠れていないな……」と異変を感じたら、お気軽にご相談ください。
記事執筆者
しおや消化器内科クリニック
院長 塩屋 雄史
職歴・現職
獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)
専門医 資格
日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医