急性胆管炎とは、肝臓から十二指腸まで繋がる「胆管」が閉塞して、胆汁(たんじゅう)の滞りによる細菌繁殖が起こることで発症する「胆道感染症」のひとつです。急性胆管炎では「激しい悪寒を伴う高熱(39℃以上)」「上腹部の痛み」「黄疸」ですが、さらに重症化するとショック状態・意識障害を伴い、敗血症など命に関わる感染症に進展しやすいため、診断されたら直ちに治療を行う必要がある病気です。
上腹部の痛み・高熱・黄疸などの症状が現れたら、我慢せず、すみやかにご来院ください。
胆道感染症とは?
胆道とは、肝臓から分泌され、脂肪分やビタミンの消化吸収を助ける消化液「胆汁」の通り道で、胆管~胆のう~十二指腸乳頭部(総胆管の出口部分)までのことです。この胆道の中で胆汁の流れが滞ってしまうと、細菌感染が起こり、「胆道感染症」を発症します。
胆道感染症は「胆管炎」「胆のう炎」に分けられますが、どちらも重症化すると、敗血症など命に関わる重篤な合併症を引き起こす恐れがあるので、適切な治療が大切になります。
急性胆管炎の原因
急性胆管炎の原因のうち、約60%は「胆管結石」とされていますが、次点は「良性疾患(炎症性胆管狭窄など)・悪性疾患(胆管がんなど)による胆管狭窄」です。
ほかにも、胆汁感染が起こる危険因子として、次のようなものがあります。
- 高齢
- 緊急手術
- 急性胆のう炎の既往
- 黄疸
- 胆管結石
- 胆管検査・処置の既往
- 胆管閉塞
特に、胆管結石+黄疸がある場合の胆汁感染率は、約90%と高い確率となっています。
急性胆管炎の症状
急性胆管炎では「シャルコ3徴」と呼ばれる、次のような典型的な症状が現れます。
このような症状が現れたら、我慢しないですみやかにご来院ください。
- 上腹部の痛み
右の脇腹上あたりに痛みが現れます。
- 発熱および悪寒
38℃以上の発熱と共に、ぞくぞくした寒気を感じます。
- 黄疸
皮膚・白目が黄色くなる
ただし、上記のうち、1つ・2つしか症状が現れないときもあり、3つ全ての症状が揃うのは約50~70%程度とされます。
しかし、胆管は5mm程度のとても細い臓器なので、何らかの原因で詰まるとすぐに内圧が上昇しやすいといった特性があります。そうすると、繁殖した細菌・毒素が逆流して、血管に乗って全身にバラまかれてしまいます。
上記の3つの症状に加えて、次のような症状が現れると、「レイノルズ5徴」と呼び、重症胆管炎に位置づけられ、緊急処置が必要となります。夜間・休日に関わらず、すぐに医療機関を受診してください。
- 血圧低下(ショック状態)
- 意識障害(意識混濁など)
急性胆管炎の検査・診断
急性胆管炎の疑いがある場合には、次のような検査を行います。
急性胆管炎の検査
- 問診
自覚症状や身体診察など、詳しく調べます。
- 血液検査
急性胆管炎では、炎症反応(白血球・CRP)、肝胆道系酵素(AST・ALT・ALP・γ-GTP)、黄疸(ビリルビン)の数値の上昇がみられます。
- 画像検査
- 腹部超音波検査(エコー検査)
診療ガイドラインの中で、急性胆管炎などの胆道感染症が疑われる場合に最初に行うべき検査として推奨されています。お腹にゼリーを塗ってから超音波プローブを当て、胆管結石など胆石の有無、胆のう・胆管の状態などを確認します。しかし、かなり肥満、腸にガスが多いなど一部の方では超音波が届きにくいこともあります。
- 腹部CT検査
CTとは放射線(X線)で撮影した断層画像をコンピュータで三次元に表示する検査です。胆管拡張、胆管閉塞・狭窄、胆管結石などによる胆汁のうっ滞有無悪性腫瘍(胆のうがん)などについて、詳しく調べます。
また、急性胆管炎では、急性胆のう炎を合併することも多く、CT画像で胆のうへの処置が必要かどうかを確認します。
当院のCT装置には、ノイズ低減処理(被ばく低減再構成)および患者さんの体形に合わせた最適線量の自動調整機能が搭載されています。
※当院のCT検査の詳しい内容は、「CT精密検査ページ」にて説明しています。
https://www.seimitsu-ct.com/
- MRI検査(MRCP検査:磁気共鳴胆管膵管造影検査)
超音波検査やCT検査で急性胆管炎の診断が難しいケースに行うことがあります。MRCP検査とはMRI装置を使って胆のう・胆管・膵管を詳しく調べる検査であり、胆管結石の約95%は診断可能です。なお、胆管がんなど悪性腫瘍が疑われる場合にも行います。
※MRI検査(MRCP検査)が必要と判断される場合には、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介いたします。
- 超音波内視鏡検査(EUS)
超音波内視鏡検査とは、内視鏡の先に超音波画像装置が付いていて、胆のう・胆管・すい臓などを詳細に観察できる検査です。超音波検査やCT・MRI検査で分からないような小さな結石でも判別可能です。
急性胆管炎の診断
当院では「急性胆管炎・胆のう炎診療ガイドライン2018*1」に則り、臨床症状・血液検査・画像検査などから総合的に診断しています。また、重症度判定基準に合わせた治療を行います。
*1「急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018」|日本肝胆膵外科学会・日本腹部救急医学会・日本胆道学会・日本外科感染症学会・
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001075/4/acute_cholangitis_and_acute_cholecystitis.pdf
急性胆管炎の治療
急性胆管炎は重症化すると、命の危険のある合併症に直結するため、急性胆管炎と診断されたらすぐに初期治療を始めます。
初期治療
急性胆管炎の初期治療として重要なことは「胆管内の感染胆汁の排出」です。
- 薬物療法
抗菌薬を用いて、炎症を抑える治療を最初に行います。
また、鎮痛剤や輸液の投与を行う場合もあります。
- 胆管ドレナージ
ドレナージとは、排液を体外に排出することです。
通常、内視鏡を使って、感染胆汁を外に排出させるためのチューブを胆管に留置します。
ほかに、身体の外から肝臓に針を刺してドレナージする場合もあります。
なお、重症と判断される場合には、確定診断を待たずに初期治療を開始し、臓器障害に対する治療が優先して行われます。
※重症度に応じて、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。
胆管閉塞の原因に対する治療
感染胆汁が排出され、胆管の炎症がある程度落ち着いたら、閉塞の原因となっている胆管結石の除去や胆管がんなど悪性腫瘍などの検査・手術などを行います。
※胆管結石の除去術や胆管がんの検査・手術が必要な場合には、さいたま赤十字病院など基幹病院をご紹介します。
一般的に胆管結石除去は、内視鏡を用いて行います。十二指腸側からの電気メスによる切開で胆管出口を切開し広げる「EST術」、風船のように膨らむバルーンカテーテル・先端が網のようなバスケットカテーテルで結石を取り除く「内視鏡的結石除去術」があります。
開腹手術よりも身体的負担は少ないですが、術後の経過観察などを必要とすることから、通常入院して行われる治療です。
胆管結石のページはこちら
また、胆管がんなど悪性腫瘍が疑われる場合には、詳しい検査や臨床病期(ステージ)に応じて、外科的手術・放射線治療・化学療法などを行います。
胆管がんページはこちら
よくあるご質問
急性胆管炎になりやすい人は、どんな人ですか?
次のような方は、胆管炎になりやすい傾向があるため、注意が必要です。
胆石がある
急性胆管炎の原因の多くは「胆管結石」であり、胆管結石とは主に胆のうから胆管に落ちてきた結石(=胆のう結石)です。胆石持ちの方は、急性胆管炎の発症リスクが高いので、急に上腹部痛を感じたときは我慢しないで、すぐに医療機関を受診しましょう。
胆石ができやすいタイプ(5つのF)に当てはまる
・40~50歳 (Forty ~ Fifty)
・肥満傾向 (Fatty)
・女性 (Female)
・白人 (Fair)
・多産婦 (Fecund)
高脂質・高カロリー食が好き
不規則な生活習慣
胆石は高脂質・高カロリー食の過剰摂取で発生しやすくなるため、日頃から適正体重を保つことが大切です。栄養バランスの取れた食生活、適度な運動・十分な睡眠といった規則正しい生活を心がけ、胆石のできにくい生活習慣を目指しましょう。
まとめ
急性胆管炎は、診断されたらすぐに適切な治療を必要とする病気です。胆管という狭い場所なので、ひとたび胆管結石や胆管狭窄・閉塞が起きると、簡単に胆管内圧が上昇して、すぐに全身に増殖した細菌・毒素が回ってしまいやすく、敗血症から多臓器不全に陥り、最悪命を落としてしまう危険もあります。今のところ、急性胆管炎を含む胆道感染症に対する特定の予防方法はありませんが、原因の大半は「胆石(胆管結石)」です。症状のない胆石のうち、約0.3%~1.6%に急性胆管炎の発症があったとする報告もあるため、健康診断・人間ドックなどで定期的に腹部超音波検査を行い、胆石の有無ならびに胆道感染症発症リスクを確認しておくと良いでしょう。また、胆石がある方で、上腹部痛みや寒気を伴う発熱がありましたら、すぐにご来院ください。
記事執筆者
しおや消化器内科クリニック
院長 塩屋 雄史
職歴・現職
獨協医科大学病院 消化器内科入局
佐野市民病院 内科 医師
獨協医科大学 消化器内科 助手
佐野医師会病院 消化器内科 内科医長
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 医師
さいたま赤十字病院 第1消化器内科 副部長
しおや消化器内科クリニック 開業(平成26年)
専門医 資格
日本内科学会認定内科医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本医師会認定産業医