体力の維持や回復には規則正しい生活を送ることが大切です。禁煙と節度ある飲酒を心がけ、バランスの良い食事と適度な運動を行いましょう。また、手術を受けることができた場合でも再発のリスクはあるため、最初の2年間は3~6か月ごと、それ以降は6~12か月ごとに検査を受け、術後少なくとも5年間は経過観察を続けましょう。
膵がんは膵臓に発生する悪性の腫瘍です。お腹の深い部分に位置する膵臓は、異常が起こっていても自覚症状が現れにくく、検査でも見つけるのが難しい臓器です。また、進行や転移が早く、再発するケースも多いことから、治療の難しいがんと言われています。
膵がんの発症は、女性よりも男性に若干多く、60代以降、年齢が上がるにつれて発症が増加します。近年、高齢化の進む日本では右肩上がりに患者数が増加しており、その発症には喫煙や過度の飲酒、肥満、糖尿病、遺伝など、さまざまな要因が深く関わっていると考えられています。
膵臓は、胃の裏側にある、20㎝くらいのオタマジャクシのような形をした細長の臓器です。
十二指腸に隣接する右側部分から「膵頭部(すいとうぶ)」「膵体部(すいたいぶ)」「膵尾部(すいびぶ)」という3つの部分で構成され、その中心には消化酵素(膵液)を集めて十二指腸に送る「膵管(すいかん)」という細長い管が通っています。
膵臓には、血糖値を調整するホルモン(インスリン、グルカゴンなど)を分泌する「内分泌機能」と、食物の消化に使われる消化酵素(アミラーゼ、リパーゼ、トリプシンなど)を分泌する「外分泌機能」という2つの重要な働きがあります。
膵臓に発生するがんには「内分泌系」と「外分泌系」の両方のタイプがありますが、その多くは外分泌系のがんであり、膵管(すいかん)の上皮細胞(表面を覆う細胞層)から発生する「浸潤性膵管がん」が全体の約90%を占めています。
膵管がんは、膵頭部に発症することが多く、膵管の上皮細胞が過剰に増えたり(過形成:かけいせい)、異常な形になったり(異形成:いけいせい)してできた病変が、次第にがんに変化すると考えられています。膵管の上皮内に発生したがん(膵管上皮内がん)は、時間の経過とともに増殖し、徐々に膵管の外の血管や他の臓器などに広がって進行がん(浸潤がん)になります。
膵がんの患者数は年々増加しており、毎年40,000人を超える方が浸潤性膵がんを発症しています。早期発見が難しい膵がんは、見つかった時にすでに進行しているケースが多く、残念ながら治療の経過が良いとは言えません。厚生労働省の統計では、毎年30,000人を超える方が膵がんで命を落としており、がんと診断された人が5年後に生存している割合を示した「5年生存率」も、男性8.9%、女性8.1%と、全てのがんの中で最低となっています。
(出典)国立がん研究センター がん情報サービス
初期の膵がんには自覚症状がありませんが、進行するにつれて以下のような症状が現れます。
膵管にがんができると、主膵管が詰まりやすくなります。膵液が溜まり、膵管内の圧力が高まると、膵管が広がったり、膵臓に炎症(随伴性膵炎)が起きたりして腹痛や背部痛を引き起こします。
膵がんが進行して胆管を圧迫すると、肝臓で作られる消化液(胆汁:たんじゅう)の流れが滞り、黄疸の症状が起こります。最初は尿の色が濃くなったり、結膜(白目)が黄色っぽくなったりする程度ですが、進行すると全身の皮膚が黄色くなり、痒みを伴うこともあります。
膵頭部にがんができた場合、腫瘍のサイズが小さくても黄疸が出ることがあります。
膵臓は、胃や大腸、十二指腸などに接しているため、がんができると周辺の臓器を圧迫して食事が摂れなくなり、体重が減少します。また、消化に使う膵液の流れが滞って消化力が落ち、十分な栄養が吸収できなくなることも体重減少に繋がります。
膵臓にがんが発生すると内分泌機能も徐々に悪化し、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の分泌量が減って糖尿病を発症します。また、すでに糖尿病に罹っている方の場合は、急激に症状が悪化します。膵がんの約4人に1人が糖尿病を発症しているとも言われています。
膵がんの発症原因は明らかになっていませんが、過度の飲酒習慣、喫煙、肥満、糖尿病の既往歴、強いストレスなどが発症のリスクを高める要因と考えられています。
また、慢性膵炎や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN*1)を患っている方や、ご家族に膵がん患者がいる方なども発症するリスクが高くなるため、十分な注意が必要です。
*1 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN):膵管内にできる乳頭状に増殖する腫瘍。ドロドロした粘液を産生し、膵臓内に作られた嚢胞(のうほう:液体の入った袋状の病変)はがん化する可能性がある。
膵がんの検査にはいくつかの種類があります。
腹痛などの自覚症状がある場合はもちろん、集団検診などで行われる検査(血液検査や腫瘍マーカー、腹部超音波検査など)で膵がんの可能性を指摘された場合には、CTやMRIといった画像検査や超音波検査、病理診断など、より精密な検査が必要になります。
最終的にそれらの結果を総合し、病気の診断と進行度(ステージ)の判定を行います。
※MRIなどの精密検査が必要な際は、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介いたします。
膵がんは、がんの大きさや浸潤、リンパ節や他の臓器への転移の有無などから以下の7つの病期(ステージ)に分類されており、それぞれ病期(ステージ)に合わせた治療計画を作成します。
ステージ | がんの状態 |
---|---|
0期 | 膵管上皮内に留まっている(非浸潤がん) |
IA期 | 2cm以下で膵臓内に留まっている(膵臓外に転移なし) |
IB期 | 2cmを超えるが膵臓内に留まっている(膵臓外に転移なし) |
IIA期 | 膵臓外に進展するが、主要な血管(腹腔動脈や上腸間膜動脈)には及ばない(膵臓外に転移なし) |
IIB期 | リンパ節に転移しているが膵臓内のみ、または膵臓外でも主要な血管には及ばない |
Ⅲ期 | 膵臓外に進展し、近くの主要な血管に及んでいる(リンパ節転移は問わない) |
Ⅳ期 | 離れた臓器への転移が認められる |
膵がんの治療には、「外科手術」「化学療法(抗がん剤)」「放射線治療」の3種類があります。
病期や全身状態、患者さんのご希望などを踏まえて治療法を決定しますが、基本的に切除が可能であれば手術を行います。ただし、膵がんの場合、病期が進行しているケースも多く、初診時に手術が適応になるケースは2~3割程度です。手術だけではがんが取り切れないと判断される場合には、化学療法または化学放射線療法による治療を行います。
外科手術でがんを切除します。最も治療効果が高く、根治を目指せる治療ですが、身体への負担も多く、合併症のリスクも伴うため、がんの切除が可能と考えられる場合にのみ行います。
手術は開腹が必要になる場合もありますが、腹部に数個開けた小さな穴から小型カメラと専用器具を入れて行う「腹腔鏡手術」も近年増えてきています。
おもな膵がんの手術には以下の3種類があり、がんの位置や状態により最適な方法を選択します。
「細胞障害性抗がん薬」「免疫チェックポイント阻害薬」「分子標的薬」などの薬剤を使用し、がん細胞を破壊したり、増殖を抑えたりする治療で、抗がん剤治療とも言います。
手術の前後に抗がん剤を投与することで、治療の効果を上げ、再発を予防する効果が期待できるほか、手術の適応外になった場合や再発時に抗がん剤治療を行うことで、進行を抑えて症状の緩和を目指すことも可能です。
治療により、口内炎や下痢、吐き気、脱毛などの強い副作用が出ることもあります。
放射線治療は、患部に放射線を当てて細胞のDNAに損傷を与え、がん細胞を殺す治療です。
抗がん剤治療と併せて行うと治療効果が高く、根治を目指すことも可能です(化学放射線療法)。また、骨転移などを起こし、痛みがある場合には、症状の緩和を目的に行う場合もあります。
治療により、皮膚の色素沈着や吐き気、嘔吐、食欲がなくなる、白血球の減少、胃腸の粘膜が荒れて出血して黒い便が出るといった副作用が出ることがあります。
※その他、患者さんの全身状態によって以下のような治療やケアを取り入れることもあります。
日本膵臓学会の診療ガイドラインでは、膵がんのステージごとに標準的な治療を定めています。
※治療内容によっては、さいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介いたします。
体力の維持や回復には規則正しい生活を送ることが大切です。禁煙と節度ある飲酒を心がけ、バランスの良い食事と適度な運動を行いましょう。また、手術を受けることができた場合でも再発のリスクはあるため、最初の2年間は3~6か月ごと、それ以降は6~12か月ごとに検査を受け、術後少なくとも5年間は経過観察を続けましょう。
手術後は、消化に使われる膵液や胆汁が減少、もしくは分泌されなくなり、消化不良による下痢などを起こしやすくなります。食事は毎日の大きな楽しみですが、以下のような点に気を付け、消化に良いものをバランス良く摂るように心掛けましょう。
膵がんの発症予防には、できるだけ発症リスクを高める要因を避けることが有効です。
過度の飲酒や喫煙を控えるのはもちろん、日頃からバランスの良い食事と適度な運動を心がけ、生活習慣病や肥満にならないように気を付けましょう。
また、膵がんも他のがん同様、早期発見・早期治療がその後の経過を大きく左右します。
糖尿病や慢性膵炎の方、家族に膵がんの方がいらっしゃるような方は、発症のリスクが高くなると考え、定期的に検査を受けておくことが早期発見に繋がります。
また、みぞおちや背中に痛みや違和感がある場合は、放置せずに早期にご相談ください。