大腸は「上腸間膜動脈」「下腸間膜動脈」という2つの動脈から栄養が送られるしくみになっています。左下腹部にある下行結腸はそれらの動脈のちょうど境目に位置しているため、十分な血液が届きにくく、虚血になりやすいと考えられています。
虚血性大腸炎とは、大腸に栄養を送る血管の血流が妨げられ、大腸粘膜に炎症を引き起こす病気です。突然、激しい腹痛が起こり、下痢や血便を伴うのが特徴で、60代以降の高齢者や便秘気味の女性などに多く見られる病気ですが、最近では若年層の方の発症も増えてきています。
虚血性大腸炎の多くは一過性(軽症)で、腸を安静に保つと通常1~2週間程度で回復しますが、炎症が強く、重症の場合は手術が必要になることもあります。
症状の悪化を防ぐためにも下腹部の痛みや血便といった症状がある時は早期に検査を受けて、大腸の状態を詳しく調べるようにしましょう。
血管内の血液が不足した状態を「虚血(きょけつ)」と言います。
虚血性大腸炎は、何らかの原因で大腸に栄養を送る動脈の血流が悪くなり、必要な酸素や栄養素が供給できなくなってしまう病気です。下行結腸やS状結腸のある左側の大腸に発症するケースが多く、虚血によって炎症が起きた大腸の粘膜には発赤(赤み)や浮腫(むくみ)、出血、びらん(赤いただれ)、潰瘍などを生じるのが特徴です。
激しい腹痛や下痢に続き、便器が真っ赤になるほどの血便が出るため、重い病気ではないかと心配される方も多いですが、虚血性大腸炎は比較的発症頻度の高い病気であり、通常は腸の安静を保つと徐々に症状が改善し、完治することが可能です。
ただし、炎症が強く、腸管が狭窄(きょうさく:狭くなること)して、腸内にある消化物の通過を妨げてしまう場合や、血流が途絶えたままになり、大腸の組織細胞が死んでしまう(壊死:えし)場合には外科手術が必要になるケースがあります。
また、この病気は再発しやすく、大腸炎患者の4人に1人程度は再発すると言われています。
最初に発症した部位と同じ場所に再発するケースが多く、患者さんによっては再発を繰り返すような場合もあります。
虚血性大腸炎の発症はもちろん、再発を予防するためには、便秘の予防や生活習慣病のコントロールを行うなど、日頃から腸に負担をかけない生活を送ることが大切です。
虚血性大腸炎は粘膜の表面だけでなく、粘膜下層やさらにその下にある筋層と呼ばれる深い部分にまで及ぶこともあり、損傷の深さによって以下のような重症度に分けられます。
腹痛、下痢、血便が虚血性大腸炎の三大症状です。
痛みが強い場合には冷や汗や吐き気、嘔吐などの症状を伴うこともあります。
初期症状である腹痛は、前触れもなく突然起こるのが特徴で、血流障害の起こりやすい下行結腸やS状結腸が位置する左下腹部に強い痛みが出るケースが多いです。その後、炎症によって損傷を受けた粘膜が剥がれ落ちると水もしくはゼリー状の下痢を伴うようになり、徐々に真っ赤な血便に変わるというのが虚血性大腸炎の典型的なパターンです。
虚血性大腸炎の原因には、脱水症や動脈硬化などの血管側の要因と、便秘など腸管側の要因があり、これらの要因が関連し合って発病すると考えられています。
便秘は虚血性大腸炎の中でも最も頻度の高い要因です。
便秘の方が強くいきもうとすると、腹圧がかかった時に大腸粘膜への血流が妨げられてしまい、虚血状態に陥ることで虚血性大腸炎を発症することがあります。
動脈硬化とは、血管が硬くなって柔軟性を失ってしまった状態です。
動脈硬化が進むと、血管が虚血状態になりやすくなるため、虚血性大腸炎を発症するリスクが高まります。加齢や生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)は動脈硬化を引き起こす大きな要因となるため注意が必要です。
体内の水分が足りなくなると血液が濃くなってドロドロになり、詰まりやすくなって虚血状態に陥ることがあります。特に、気温が上がる真夏や水分摂取が減る真冬に発症が増えるのが特徴です。
血管が痙攣(けいれん)したり、縮んだりすると、血流が急激に悪化して虚血状態に陥ることがあります。特に気温の低下する冬は血圧をコントロールすることが難しいため、発症するリスクが高くなります。
※その他にも、近年では生活習慣の乱れ(高脂肪の食事や睡眠不足、運動不足など)、過度のストレスが原因で起こる虚血性大腸炎も増えてきています。
腹痛、下痢、血便といった虚血性大腸炎の症状は、感染性腸炎や潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸がんなど他の腸疾患でも起こることがあるため、それらの病気と正確に鑑別することが重要になります。「高齢である」「腹痛と血便を伴う」など、症状や経過から虚血性大腸炎が疑われる場合には必要に応じて以下のような検査を行います。
肛門から内視鏡を挿入し、大腸粘膜の状態や病変の範囲などをカメラで直接観察する検査です。
虚血性大腸炎の場合、粘膜に赤みやむくみ、びらん、縦走潰瘍(縦に細長い潰瘍)が見られます。
また、病変の一部を採取して調べる病理診断(生検)も可能で、虚血性大腸炎と似た病気との鑑別や重症度の判定などを行うことができます。
当院の大腸カメラ検査は、「NBI(狭帯域光観察)」と呼ばれる内視鏡診断システムを導入しています。NBIとは「Narrow Band Imaging」の略で、青や緑などの短い波長の光を照射して行うのが特徴です。波長の短い光には消化器の粘膜表層の血管を鮮やかに浮かび上がらせる性質があることから、より精度の高い検査を行うことが可能です。
大腸カメラ検査の詳細については「大腸カメラ検査ページ」にて説明しています。
X線を照射し、身体の断面を撮影する検査です。
虚血による炎症があると、下行結腸からS状結腸の病変部にむくみによる肥厚(厚み)が認められます。
当院のCT検査装置は、撮影しながら最大50%のノイズ低減処理を行う被爆低減再構成を搭載しています。また、患者さんの体型に合わせて最適な線量を自動調整する機能も付いており、従来の検査に比べ被ばく線量を75%にまで低減できるのがメリットです。
CT検査の詳細については「CT検査ページ」にて説明しています。
肛門から造影剤(バリウム)と空気を入れてX線写真を撮り、腸の形状などを確認します。
虚血性大腸炎の場合、腸管が親指で押されているように見える「拇指圧痕像(ぼしあっこんぞう)」という典型的な所見が見られます。
腹部エコーとも呼ばれており、仰向けに寝た状態で「プローブ」という装置で超音波を腹部に当て、大腸の壁の肥厚や周囲の組織の状態を確認する検査です。
血液を採取し、貧血の有無や炎症の程度を調べる検査です。
白血球、CRP、赤沈といった炎症を示す数値が上昇することで重症度を判定することができます。ただし、これらの値だけで虚血性大腸炎の診断をすることは出来ないため、内視鏡検査などの画像診断と併用して行います。
虚血性大腸炎の治療には、大きく分けて「保存的治療」と「外科手術」の2つがあり、重症度に合わせた治療を行います。
一過性形の場合は、腸管を安静に保つ保存的治療で症状を改善させることが可能です。
ごく軽症の場合、整腸剤の内服を行いながら自宅で安静を保ち、水分補給と腸に負担をかけない食事を摂って腸の回復を待ちます。
痛みが強く、下痢や血便が頻回な場合は入院をして絶食を行います。その間、必要な栄養と水分は点滴で補給し、症状が重い場合には抗生剤の点滴投与なども行います。
大腸粘膜の再生は比較的早く、通常は2~3日で腹痛が軽くなり、血便の色も薄くなります。
症状が軽快したら、おかゆのような消化の良い流動食から食事を再開し、徐々に通常の食事に戻します。経過観察を行い、炎症がぶり返す様子がなければ1~2週間程度で退院が可能です。
炎症が強く、症状が進行している場合には保存的治療だけでは改善しないため、腸管を切除する外科手術が必要になる場合があります。
腸管の狭窄が強くて便が通りにくい場合や(通過障害)、大量の出血がある場合、腸管に穴が開いてしまう(穿孔:せんこう)場合などは手術を検討します。
また、発症から48時間経過しても大腸の血流が再開しない場合には壊疽型の疑いがあり、腹部CT検査で大腸が壊死していると診断された場合には緊急に手術を行います。
※入院が必要になる場合、当院ではさいたま赤十字病院などの基幹病院をご紹介いたします。
虚血性大腸炎は再発が多い病気であるため、症状が治まり、治療が終わった後も油断は禁物です。以下のようなことに気を付けて規則正しい生活を心がけることが大切です。
便秘が原因で発症した場合には緩下剤などを使用して便秘の治療を行います。
便秘の予防には日頃から水分や食物繊維を積極的に摂り、適度に身体を動かすことが効果的です。(ただし、治療直後は食物繊維の多い食品の摂取は控える必要があります)
また、排便時に強くいきまないようにすることも大切です。
たばこは有害な物質を多く含み、血流を悪化させる原因になります。できるだけ早く禁煙するようにしましょう。
動脈硬化を引き起こす糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病のある方は、再発リスクが特に高くなります。適切な治療を継続して病気をコントロールしていくことが重要です。
大腸は「上腸間膜動脈」「下腸間膜動脈」という2つの動脈から栄養が送られるしくみになっています。左下腹部にある下行結腸はそれらの動脈のちょうど境目に位置しているため、十分な血液が届きにくく、虚血になりやすいと考えられています。
再発予防には便秘予防が必須です。リンゴやバナナなどの果物、ご飯、海藻など水溶性の食物繊維を積極的に摂りましょう。たんぱく質は、白身魚、ささみ、胸肉、豚や牛の赤身肉などがおすすめです。反対に刺激の強い香辛料、脂質の多い食品などは腸に負担をかけるので避けましょう。絶食などの食事制限を行った後の食事の摂り方(いつからどんなものをどれくらい食べるか)は患者さんの腸の状態によっても異なります。医師の指示に従い、少しずつ慣らしていくようにしましょう。
虚血性大腸炎は、年齢が高くなるにつれて発症数が増えますが、近年は、食生活の欧米化やストレスなどにより若い方の発症も増える傾向にあります。
腹痛や下痢、血便などの症状があれば虚血性大腸炎の可能性が高いですが、中には虚血性大腸炎を起こす基礎疾患や血便を引き起こす他の病変が潜んでいる可能性もあります。
放置しているうちに進行することがないように、早期に受診して詳しい検査を受けるようにしましょう。痛みが強く、下痢や血便が頻回に起きている急性期は症状を抑える治療が優先されますが、症状が落ち着いた時点で大腸カメラを受けて大腸の状態を確認しておくことが大切です。