今のところ詳しい原因が分かっていないため、根治治療はありません。また、これまでの研究によると、症状がみられない時期もありますが、完全に症状がなくなることは少ないとされています。しかし、適切な治療を続けながら、日頃から口腔環境を整える、ストレス・冷えを避ける、禁煙する、といった点を心がけることによって、症状の再発・悪化を防いで快適に過ごすことも可能です。
「ベーチェット病」は、全身に多彩な症状を引き起こす「慢性再発性炎症疾患」です。口内炎・皮膚症状・目のぶどう膜炎・外陰部潰瘍を主症状としていますが、副症状として生命に関わる病気が現れることもあります。今のところ詳しい原因は分かっておらず、「自己免疫疾患」のひとつとして、国による「指定難病」に認められています。
ベーチェット病では「薬物療法」を中心として、患者さんの症状や重症度などに合わせて治療を進めていきます。経過は基本的に良好ですが、慢性的に症状の再発を繰り返す傾向があるため、長期的に経過観察や治療を継続する必要がある病気です。
当院では、ベーチェット病患者さんの長期的なフォローを行っております。お気軽にご相談ください。
ベーチェット病は、全身の臓器に色々な病変を起こし、症状が繰り返し現れる慢性の炎症性疾患です。厚生労働省の調査(2020年)によると、日本の患者数は約2万人と推計されています。特に日本では北海道・東北、世界では地中海沿岸・中近東・韓国・中国といった北緯30度~45度あたりの地域に住む人に多く見られることから「シルクロード病」とも呼ばれており、遺伝素因の関与が指摘されています。また、日本では発症頻度に男女差はなく、男女共に発症ピークは30歳前後として、20歳~40歳の方に多くみられます。なお、男性の方が血管・腸管・神経病変を発症しやすい傾向にあります。
ベーチェット病の詳しい原因は現在までに明らかになっていませんが、これまでの研究によると、発症しやすい遺伝子(=遺伝的素因)を持っていて、かつ感染症・食事・喫煙・ストレスなどの外的要因(環境因子)が加わることで免疫機能が過剰となるため、全身の炎症を引き起こしているという考え方が有力です。
また、ベーチェット病発症リスク因子のひとつとして注目されているのが、白血球の血液型とも呼ばれる「ヒト白血球抗原(HLA)」の「HLA-B51」タイプです。ベーチェット病でない日本人では「HLA-B51」を持っている方が約15%であるのに対し、ベーチェット病患者さんでは約60%と高い比率となっています。さらに、日本人患者さんでは「HLA-A26」を持った方の比率も多くなっています。
近年ベーチェット病の全ゲノム遺伝子解析が進められ、2010年には発症に強く影響する遺伝子(疾患感受性遺伝子)が新たに発見されました。その多くが免疫反応や炎症に関係するものであり、ベーチェット病が免疫異常による炎症性疾患ということを裏付けるものとなっています。
ベーチェット病では4つの主症状に加え、副症状が現れることがあります。ただし、現れる症状の内容や程度には個人差がみられ4つの主症状が全て現れる「完全型」の割合は30%程度と近年は減少傾向にあります。また、これらの多彩な症状は現れたり落ち着いたりを長期に渡って繰り返す特徴があります。
ベーチェット病の約98%の方に現れ、最初に出現する症状として多いのが「口腔内再発性アフタ性潰瘍」です。これはいわゆる「口内炎」で、鮮明な境界を持ち、表面が白色や黄色い膜で覆われ、周りは赤くなります。ただし、ベーチェット病では痛みが強く、同時多発や再発を繰り返しやすい特徴があります。通常10日程度で治ります。
皮膚症状として、足(膝~足首)や手(前腕)に赤・紫色の膨らんだ発疹で痛みを伴う「結節性紅斑様皮疹(けっせつせいこうはんようひしん)、顔・首・胸に「にきび」に似た発疹「毛のう炎様皮疹(座瘡様皮疹:ざそうようひしん)」、足の皮膚表面に近い血管に「血栓性静脈炎」などが現れます。皮膚が過敏になるため、カミソリ負けを起こしたり、虫刺され跡が大きく腫れあがったり、注射・採血では針を刺した後に赤み・腫れ・小膿疱ができたりすることがあります。
男性に比べて、女性にやや多く認められます。見た目はよくある口内炎(アフタ性潰瘍)のように境界がはっきりしていて、傷が深くえぐれたような状態(潰瘍)です。男性では陰嚢・陰茎・亀頭、女性では大小陰唇・膣粘膜に現れます。ただし、口内炎ほど反復しませんが、瘢痕(はんこん:傷跡)が残ることや、女性では生理周期により増悪がみられる場合もあります。
ベーチェット病の特徴的な症状のひとつとして、「ぶどう膜炎」が両目に起こります。目の充血・痛み・見えにくさ・強くまぶしさを感じるというような症状が発作的に現れます。さらに、発作を繰り返して障害が蓄積されると、失明に至ることがあるので注意が必要です。若くして発症した男性や「HLA-B51」陽性者に重症化しやすい傾向があります。なお、炎症の反復・ステロイド治療によって、二次的に白内障・緑内障を併発することもあります。
ベーチェット病の副症状として、以下のような病気が現れることがあります。なお、血管・腸管・神経病変を伴うものについては「特殊型」と呼ばれます。
ベーチェット病では特異的な(ほかの病気で見られない)検査所見はないため、様々な検査を組み合わせて総合的に評価します。
ベーチェット病の診断に決定的な検査方法はありません。多彩な症状に合わせ、様々な検査を行います。さらに、似ている症状が現れる他の疾患(ウイルスなどによる感染症、別のリウマチ・膠原病疾患・高安動脈炎・巨細胞動脈炎など)との鑑別も重要です。
ほかにも、眼症状に対して眼科検査(眼底造影検査)を実施することがあります。
※眼科検査・髄液検査・MRI検査・PET-CT検査に関しては、さいたま赤十字病院などの基幹病院を必要に応じてご紹介します。
ベーチェット病は「血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)*1」の中で診断基準が設けられています。当院でも診断基準に則り、症状や各種検査の組み合わせ、他の病気との鑑別などから総合的に評価します。なお、ベーチェット病は指定難病に認定されているため、重症度などの基準により医療助成の対象となります。
*1(参考)血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)P.89|日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_isobe_h.pdf
ベーチェット病では多彩な症状が現れるため、全ての患者さんに対応できるような単一の治療法はありません。患者さんの症状・重症度に合わせて治療を進めていきます。
治療の基本は「薬物療法」であり、副腎皮質ステロイド(外用薬/内服薬/点眼薬)・痛風/家族性地中海熱治療薬・免疫抑制剤などを主に使用しますが、眼症状・血管・腸管・神経に症状が現れた場合には生物学的製剤を併用することがあります。また、特殊型では外科的手術が必要となる場合もあります。
今のところ詳しい原因が分かっていないため、根治治療はありません。また、これまでの研究によると、症状がみられない時期もありますが、完全に症状がなくなることは少ないとされています。しかし、適切な治療を続けながら、日頃から口腔環境を整える、ストレス・冷えを避ける、禁煙する、といった点を心がけることによって、症状の再発・悪化を防いで快適に過ごすことも可能です。
ベーチェット病の状態が落ち着いて、胎児に影響を及ぼすような薬剤(免疫抑制剤など)を服用していなければ、問題ないと考えられています。これまでの研究データの中で、ベーチェット病の病状が悪化する確率は、妊娠前後で変わらないとされています。ただし、「炎症の鎮静化」が大前提なので、タイミングなどについて医師とよく相談することが大切です。
ベーチェット病は再発を繰り返す特徴があるため、長期的な経過観察が必要となる病気です。また、ストレスや疲労から免疫力が低下して感染症に罹ると、症状の悪化に繋がるため、十分に注意しましょう。
一般的にはステロイド治療・免疫抑制剤などの薬物療法が有効なので、病気の経過は悪くありません。眼症状・血管/腸管/神経病変といった特殊病型についても、免疫抑制剤・生物学的製剤が導入されたことで、以前と比べて治療効果が向上しており、近年は保険適用や治験などが進行しています。
今のところ、ベーチェット病の完治は難しい状況ですが、全ゲノム遺伝子解析によって発症に強く影響する遺伝子が徐々に分かってきたこともあり、今後新しい治療薬の開発などが期待されています。
当院ではリウマチ専門医が在籍していますので、ベーチェット病を含む自己免疫疾患に対し、丁寧な診療を心がけています。病気はもちろん、治療薬の副作用や生活に対する不安・お悩みなどありましたら、お気軽にご相談ください。